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スポーツ庁長官と語る 2020への決意:鈴木大地×内藤夏紀×山下学 アジア初制覇 ホッケー男女日本代表の舞台裏

アジア大会で金メダルを獲得した(右から)山下学選手、内藤夏紀選手と対談するスポーツ庁の鈴木大地長官=東京都千代田区で2018年9月7日、藤井太郎撮影

スポーツ庁長官と語る 2020への決意

鈴木大地×内藤夏紀×山下学 アジア初制覇 ホッケー男女日本代表の舞台裏

 スポーツ庁の鈴木大地長官が東京五輪に向けてアスリートや指導者と語り合う「長官と語る 2020への決意」は、ジャカルタ・アジア大会でともに初優勝したホッケーの男女日本代表を迎えた。女子代表「さくらジャパン」の内藤夏紀主将(27)=ソニー=と男子代表「サムライジャパン」の山下学主将(29)=小矢部REDOX=らが、大会の舞台裏や強化の現状について長官と語り合った。【構成・田原和宏、写真・藤井太郎】(対談は9月7日に実施)

    アジア大会を振り返るホッケー男子日本代表主将の山下学選手

    サムライJ 自信を得た韓国戦

     鈴木 男女優勝、おめでとうございます。お世話になった方々への報告など忙しいでしょう。

     内藤 ありがとうございます。うれしい忙しさです(笑い)。

     鈴木 女子は優勝できるかなと思いましたが、男子もやりましたね。

     山下 正直、自分たちも優勝できると思わなかったです。

     鈴木 何がよかったのですか。

     山下 東京五輪の出場権を獲得しており、重圧はあまりなかったです。失うものはないとみんなに言い聞かせて戦えました。決勝のマレーシア戦で、残り20秒余りで追い付けた理由かなと思います。

     鈴木 気持ち一つで結果もそんなに変わるのですね。

     山下 若い選手が多く、自信のない選手が多かったですが、1次リーグ最終戦の韓国戦がターニングポイントになりました。(前回銅メダルの)韓国に勝てて自信がつきました。普段はあまり声を出さない選手もチームを盛り上げるために声を出し、チーム全体に広がっていたのかなと思います。

     鈴木 いい意味で前評判を覆しましたね。女子は2004年アテネ五輪から4大会連続で出場。東京で5大会連続になります。今大会を振り返っていかがですか。

     内藤 アジア大会前のワールドカップ(W杯)では1次リーグで格上のニュージーランドに競り勝ち盛り上がったのですが、1勝2敗で予選落ちしました。ファリー監督(オーストラリア)を含め、チームは本当に落ち込みました。二度と同じ思いをしたくないと選手だけで話し合いました。それが良かったのかもしれません。アジア大会を全勝で優勝できたことは大きい。1試合ごとにみんなが自信をつけていることが分かりました。いい形で優勝できました。

     鈴木 今回の結果はとても自身になったと思います。これは以前、リオデジャネイロ五輪代表のメンバーから贈られたスティックです。内藤さんはまだいらっしゃらなかったですよね。メンバーも代わりましたね。

     内藤 リオ五輪のメンバーは18人中、7人です。

     鈴木 リオ五輪は12チーム中10位、0勝4敗1分けでした。リオ五輪のチームをどのように見ていましたか。

     内藤 リオ五輪代表も競技別強化拠点のある岐阜県で練習し、私も所属先の練習場所が岐阜県。本当に隣のコートで練習しているのを見ていました。走り込む量も多く、ハードなトレーニングをずっと見ていましたが結果を出せず、世界はやっぱりすごいんだなと思いました。

    ホッケー日本代表の強化の現状などを聞く鈴木大地長官

    監督と意見交換が好循環に

     鈴木 男子は最後に五輪に出たのは1968年。もう50年前。私が生まれた次の年ですよ(笑い)。久しぶりの出場ですが、周囲にオリンピアンはいますか。

     山下 2人ほど知っていますが、インドやパキスタンが強かったという話をよく聞きます。

     鈴木 前回出場した後は、予選を突破できずにいます。山下選手は長いキャリアを積んおり、キャップ数も150以上です。リオ五輪の予選はどうでしたか。

     山下 五輪の出場権が与えられるワールドリーグのセミファイナル(3次リーグ)に出場したのですが、最後の最後で地元アルゼンチンに勝てば五輪が決まるというところでうまくいきませんでした。勝負の懸かった場面で、すごい緊張感に襲われました。最初は自分のプレーができずに2失点。最後の残り数分で1点を返したという惜しい試合でした。

     鈴木 あと一歩だったのですね。

     山下 そのアルゼンチンがリオ五輪で優勝したことも、自信になりました。

     鈴木 リオ五輪後、男女ともに監督を公募しました。これまでと変わった点はありますか。

     内藤 私は今の監督の下でしか代表経験はないですが、これまでは監督から言われたことをただやるという感じでした。今は選手の意見を尊重し、選手自らがチームを作り上げる環境を監督は大事にしてくれます。苦しい時に自分たちの力でチームを立て直すことができるようになってきたのかなと感じます。監督は選手の意見を聞いてくれますし、むしろもっと意見を言ってくれという感じです。それがいいなと思います。

     鈴木 主将としてこうしたい、とか言わなければいけないことがたくさんありそうですね。

     内藤 そうですね。ただ、私が主将だからとかは関係なく、若い選手も監督に対しては意見を言いますね。

     鈴木 男子のアイクマン監督(オランダ)はどうですか。

     山下 監督は2回目の就任ですが、戦術がとても細かい。映像を見ながら、何歩ずれるとか、戦術の理解を深められました。それからディスカッション。欧州ではそれが当たり前で、監督が代わってから意見を言える選手が多くなりました。

     鈴木 監督の公募では、何人も応募がありましたか。

     安西浩哉強化本部長 外国人監督を公募し、さまざまなレベル、経歴のある指導者から応募がありました。最後は本人と面接しましたが、人間的な部分や日本の生活になじむのかという部分が大きかったです。

     鈴木 金銭面はどうでしたか。

     安西 スポーツ庁の支援で行う専任コーチ等設置事業が、16年度から変更されました。補助額の上限に例外が認められ、柔軟に運用できるようになりました。正直、金額が低いと、こちらが来ていただきたいコーチには来てもらえませんでした。

     内藤貴詞副会長 両コーチを招へいしたのはその制度を使わせていただけたから。それがなければ今回の金メダルはなかった。制度があったからこそ、そういう発想ができた。協会としても男女ともにいいコーチをとることができ、感謝しています。

     鈴木 お金の話になりましたが、トップパートナーの損保ジャパン日本興亜をはじめ、多くの企業から支援を頂けるようになり、選手の待遇が改善されて海外遠征も多く行けるようになったそうですね。

     山下 ロンドン五輪の頃は強化合宿はホテルではなく合宿所。朝ご飯は自分たちで作り、昼と夜はお弁当でした。

     鈴木 どうやってスポンサーが集まるようになったのですか。

     内藤副会長 スポンサーとしては強化体制がしっかりしていることがポイントでした。男女とも優秀な監督を招いたことをセールストークに使わせてもらいました。それから、日本トップリーグ連携機構の川淵三郎会長が「選手が遠征費を負担するようではいかん」として、同社との橋渡しをしていただきました。それまでは選手と協会の折半。無理なお願いをしていました。選手は自分で遠征費を稼がないといけなかった。現在は6社まで増えました。日本のホッケーは変わります。

    海外でのプレー チームの刺激に

    スティックを手に競技の解説をするホッケー男子日本代表主将の山下学選手(右)、女子日本代表主将の内藤夏紀選手(中央)と語り合うスポーツ庁の鈴木大地長官

     鈴木 新たな局面を迎えたということですね。選手の皆さんも活躍の場を海外に求めるようになったとか。

     内藤 海外でプレーする選手が増えました。日本代表に戻ると、海外で経験している分、発言の数が全然違う。チームの核となる選手が増えるのはうれしいし、若い選手も海外に行きたいと言うのをよく耳にします。

     鈴木 ご自身はどうですか。オランダに行きたいでしょう。

     内藤 私は日本でいいです。もっと若ければ行きたいのですが(笑い)。

     鈴木 まだ27歳。これからじゃないですか。男子はどうですか。

     山下 オランダに行っている田中健太選手はまだ数カ月ですが、見違えるようでした。プレーも強くなり、周りを見る目も変わりました。僕たちの合宿を見て、「お前たち全然勢いがないぞ」って。「海外ではもっといいプレーをしたら声を掛け合うぞ」って。そういう指摘もあって、アジア大会は成功しました。

     鈴木 一方で、国内リーグを盛り上げることも大事です。内藤選手はソニー所属ですが、仕事はしていますか。

     内藤 事務の仕事をしています。パソコンを使ってテレビの部品の発注などをしています。朝8時半から仕事が始まり、午後3時まで。その後、愛知県から(練習拠点の)岐阜県に移動します。午後4時から練習し、シーズン中は午後8時まで練習します。

     鈴木 県をまたいで勤務したり、練習したりしているんですね。大変ですね。ところで、皆さんはどうやってホッケーと出合ったのですか。

     内藤 私は高校から始めました。中学まで9年間バレーボールをやり、もうやりきったかなという感じでした。姉の担任がホッケー部の顧問で体験に行ったら、すごく面白かったです。

     山下 最初はサッカーをしていたのですが、なかなか勝てなくて……。小学校にホッケー部があり、ある日、人が足りないからと誘われました。ホッケーもサッカーも動きは基本的に同じです。

     鈴木 (スティックを手に取り)プロの手さばきを見せてください(笑い)。

     (山下選手がフェイントを実演)

     鈴木 すごいね。

     山下 普段はあまりこういう動きはしません。ディフェンスなので。

     内藤 私もディフェンスです。

     山下 ディフェンダーはボールをこねると、周りが見えなくなり、パスを出せなくなります。しっかり構えてパスコースを探し、目標を見定めてパスを出す。だから、こういうフェイントの動きはあまり……(笑い)。

    スポーツ庁の鈴木大地長官と対談するアジア大会で金メダルを獲得したホッケー女子日本代表主将の内藤夏紀選手

    目標は「東京で金」 さくらJ

     ――世界と比べて日本の実力はどの位置か教えてください。

     内藤 女子は世界ランキング14位。今年に入って二つランクが下がりましたが、W杯ではニュージーランドに勝ち、自信になりました。世界1位のオランダの実力が飛び抜けていますが、ほかのチームはやってみなければ分からない状態。2番手集団のチームと互角に戦える力はついた実感があります。これからは大切な大会で、いかに自分たちの強さを発揮できるかどうかです。

     山下 男子は世界16位。アジア大会では世界5位のインドに0―8で敗れました。アジアで頂点に立ちましたが、インドには勝てていません。インドとの差を縮めることが、世界との差を縮めることになります。スポンサーが付いて国際大会も増え、世界レベルの相手との対戦にも慣れました。慣れたら、いい試合ができます。

     鈴木 東京五輪の目標を教えてください。

     内藤 金メダルです。

     山下 男子はまずはトップ10入り。そこからメダルへの勝負になると思います。

     鈴木 アジア大会で日本は75個の金メダルを取りました。メダルの数を言えば、個人競技や階級別の競技ですが、球技や団体競技は予選で1勝すれば盛り上がります。我々も球技団体をさらに支援できるよう頑張ります。

    ホッケー女子日本代表主将の内藤夏紀選手(中央)からアジア大会の金メダルを首にかけてもらい、「重いな」と感想を語るスポーツ庁の鈴木大地長官(左)。右は男子日本代表主将の山下学選手

     ないとう・なつき 岐阜県出身。岐阜・各務野(かかみの)高で競技を始め、立命大を経てソニーでプレー。リオデジャネイロ五輪直後の2016年秋に日本代表入りし、守備の要として活躍。今年から主将を務める。

     やました・まなぶ 富山県出身。石動(いするぎ)高、東農大を経て社会人チームに所属。日本代表でのキャップ数は157を数えるチームの精神的支柱。

     すずき・だいち 千葉県出身。1998年ソウル五輪の競泳男子100メートル背泳ぎで金メダルを獲得した。順天堂大卒業後に米コロラド大ボルダー校客員研究員などで留学を経験。2007年に順大で医学博士号を取得し、13年に順大教授、日本水泳連盟会長に就任した。15年10月、スポーツ庁の初代長官に就いた。