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Good Coach 2020への歩み:選手の自主性尊重 柔道女子 福見友子コーチ

ロンドン五輪3位決定戦で攻める福見友子(上)=英国・ロンドンのエクセルで2012年7月28日、西本勝撮影

Good Coach 2020への歩み

選手の自主性尊重 柔道女子 福見友子コーチ

 指導者が大切にしている理念や強化ポイントなどを紹介する「Good Coach 2020への歩み」の2回目は、柔道女子日本代表の福見友子コーチ(33)。高校生だった02年に絶対的な強さを誇った五輪金メダリストの谷(当時・田村)亮子さんを破って注目された元世界女王は、指導者としても軽量級の強化で手腕を発揮している。13年に柔道女子代表選手らへの暴力問題が発覚した際の経験、海外留学を通じて培った指導方法などを聞いた。【構成・松本晃】

    選手が納得して練習に取り組むことが大切だと訴える柔道女子日本代表コーチの福見友子コーチ=東京都品川区で2018年10月3日、根岸基弘撮影

    「前に出すぎず、下がりすぎず」

     私は個々の能力や技術も高い日本代表のコーチとして、「前に出すぎず、下がりすぎず」を心掛けて指導しています。その結果、選手が自ら考え、強くなれることが理想です。

     アスリートとして長くやると自分の考えは必ずあると思いますが、経験に頼り過ぎないようにしています。特に柔道の場合はここ1、2年で大きくルールが変わったため、選手の感覚を大事にしています。

     今年の世界選手権(9月、バクー)の女子52キロ級で優勝した阿部詩(兵庫・夙川学院高)の調整方法についても、選手の意見を尊重したことが好結果につながったと思っています。初出場でもあり、自身の経験から試合3日前の練習について、疲労をためないために一度練習の質を落とすよう提案しました。

     当初は納得していましたが、練習するうちにスイッチが入り、通常と同じ激しい練習を始めました。強制的にやめさせることもできましたが、本人が納得して畳に上がることを重視。その結果、阿部の勢いを止めず、オール一本勝ちでの優勝につながったのではないかと思っています。

     選手の自主性を大事にするようになったきっかけは、2013~14年にロシア代表のアシスタントコーチをしたことです。ロシアでは選手とコーチが同じ目線で話をします。積極的に「ここが分からないから教えて」と私もアドバイスを求められました。選手はコーチの得意な技術も知っていて、聞く人も選んで質問していました。スマートな練習だと感じました。

     ロンドン五輪の男子73キロ級で金メダルを獲得したイサエフ(ロシア)でさえ、相手の組手を崩すための道着のずらし方を私に聞いてきました。コーチのやるべきことは「これをやりなさい」ということだけではないと感じました。

     以前に女子柔道の選手15人が当時の日本代表監督による暴力行為を告発しましたが、今振り返ると、選手が受け身にならざるを得ない状況であったことも要因の一つになったのでは。12年ロンドン五輪で女子柔道は金メダル1個に終わり、練習量の追求や根性論ではない部分が必要だと選手が気づいたのだと思います。

    「気づき」与えるアドバイスを

     20年の東京五輪に向け、女子52キロ級では16年リオデジャネイロ五輪優勝のケルメンディ(コソボ)というライバルを倒さなければいけません。13、14年の世界選手権も制した「絶対女王」でしたが、昨年の世界選手権では志々目愛(了徳寺学園職)が準決勝で9分を超える激闘を制し、勝利しました。私は現役時代に谷亮子さんに2度勝ったことがありますが、ポイントは「自分で相手を大きくしない」ことでした。ケルメンディはパワーのある相手でしたが、作戦通りに後半勝負に持ち込み、序盤から冷静に戦えたことが勝利につながりました。

     選手の自主性を尊重しつつ、「気づき」を与えるようなアドバイスを提供する。このバランスを常に心がけたいと思います。選手が自ら考え、責任を持って練習して試合に臨めば、後悔はありません。その結果が金メダルを近づけると思っています。

    Good Point 「納得」が強さ導く

    2002年の全日本女子柔道選抜体重別選手権48キロ級1回戦で、当時高校2年生だった福見友子(左)は田村(現谷)亮子の大会12連覇を阻んだ=横浜文化体育館で、塩入正夫撮影

     選手に「納得感」を持って練習してもらうことを大事にしています。それが一番強さにつながると思う。

     留学先の英国では子どもの柔道教室でも教えました。日本では同じことをずっと続ける指導もありますが、海外では常に新しいことを求められます。面白くないと話を聞いてもらえないのでのでコミュニケーション能力が鍛えられ、教え方の引き出しが増えました。日本代表でもいろんなタイプの選手がいるので、経験が生きていると思います。

     子育てをしていて、我慢強くなりました。言葉のかけ方を含め、相手に納得してもらうためにどう説明するかを学んでいます。いろいろな人のサポートのおかげで、指導と子育てを両立できています。まだ子育てしながら指導をしている人は少ないので、参考になる話をできればと思っています


     ふくみ・ともこ 茨城県出身。茨城・土浦日大高、筑波大を経て了徳寺学園に就職。高校2年生だった2002年に65連勝中だった谷(当時・田村)亮子を破り、注目された。07年にも谷に勝ち、2009年には世界選手権女子48キロ級で優勝。12年ロンドン五輪は5位。13年4月に現役を引退後はロシア、英国に留学し、大学生や代表選手らを指導。16年10月から女子日本代表コーチに就任し、48キロ級と52キロ級を担当している。17年1月に長男を出産。現在はJR東日本ヘッドコーチ。


    女子選手が暴力告発 組織改善のきっかけに

     今年のスポーツ界は、レスリングやボクシングなどで指導者によるパワーハラスメントが相次いで表面化した。改めて指導のあり方が問われる中、教訓とされるのが2013年に発覚した女子柔道の暴力問題だ。

     日本代表らトップ選手15人が、監督らから受けた暴力について、日本オリンピック委員会(JOC)に告発。これをきっかけに旧態依然とした組織の体質改善が進み、選手選考の透明性が増したこともあり、「アスリートファースト」を実現したモデルケースとされる。

     JOCは、監督が選手の顔を強く平手打ちするなど暴力を振るったと認定し、代表選考過程の不透明さなど組織全体の問題点も指摘した。その後、指導者による組織的な助成金不正受給も明るみになり、全日本柔道連盟トップの上村春樹会長(当時)が辞任する事態に発展。民間企業出身の宗岡正二氏が会長に就任し、理事に女性を登用するなど体制は一新された。

     組織改革には、外部有識者による第三者委員会の意見が反映された。現在は不祥事が起きるたびに設置される第三者委も、柔道の暴力問題を機に存在感を増した感がある。また、代表選考の参考資料として、大会の格に応じたポイント制を導入したことで透明性を高めた。

     こうした柔道の取り組みは、他競技の参考になった。女子レスリングは世界大会の代表を決める二つの選考会の勝者が異なった場合にプレーオフを採用し、公平な選考に努めている。

    福見友子(上)は2007年にも谷亮子を破った=福岡国際センターで2007年4月8日、木葉健二撮影