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Promises 2020への約束:東京へ躍動 競泳鈴木×レスリング乙黒

今年開催されたアジア大会の競泳とレスリング世界選手権で獲得した金メダルやベルトを手にする鈴木聡美(左)と乙黒拓斗=甲府市酒折の山梨学院大学で2018年11月8日、内林克行撮影

月刊東京五輪

東京へ躍動 競泳鈴木×レスリング乙黒

 競技の枠を超えて思いを語り合う「Promises 2020への約束」。今回は山梨学院大出身、在籍中の先輩、後輩の対談となった。競泳女子でジャカルタ・アジア大会3冠の鈴木聡美(27)=ミキハウス=と、レスリング男子の世界選手権で日本選手最年少で金メダルに輝いた乙黒(おとぐろ)拓斗(19)=山梨学院大。3度目の五輪を狙う経験豊富な鈴木と成長著しい乙黒が躍動したシーズンを振り返り、東京五輪への抱負などを語り合った。(対談は11月8日に実施)【構成・村上正】

    山梨学院大の先輩後輩対談

     ――お互いの印象は。

     鈴木 大学2年生にしては随分落ち着いていますね。(レスリングは)コンタクトスポーツで気の強いイメージがありましたが、そんなことないかな。同じミキハウスの文田(健一郎)選手との対談取材を受けたことがありますが、似たような雰囲気だなと思いました。

     乙黒 五輪ですごく活躍されていたのを見ていましたし、すごい人という印象です。

     ――他競技の経験は。

     乙黒 小学3年生までは水泳をやっていました。今も泳ぐのは好きで、けがをしている時は泳ぎます。

     鈴木 私の両親はどちらもバレーボールをやっていました。私も、「格好良いかも」と思っていましたが、全然見当違いのところにボールがいきました。体力測定のソフトボール投げは、真上にポーンと上げるか、下に思い切り打ち付けるか。遠くに飛ばない悲しい過去があり、やっぱり水泳だけかなと、引け目を感じた時期もありました。

     ――鈴木選手は、11月にプロ野球の日本シリーズで始球式を務めました。

     鈴木 お世話になっているトレーナーさんから3日間くらい、フォームやボールの持ち方を細かく教えてもらいました。プロ野球の選手たちを担当していたトレーナーさんです。

    足りないもの見直した リオ後の2年間

     ――今年の国際大会で好結果を出せた要因は何だと思いますか。

    競泳のパンパシフィック選手権女子200メートル平泳ぎ決勝で3位となり、拳を握る鈴木聡美=東京辰巳国際水泳場で2018年8月12日、梅村直承撮影

     鈴木 私は2年前のリオデジャネイロ五輪が終わって自分に足りないのは何なのか、改めて見直しました。(3個のメダルを獲得した12年の)ロンドン五輪の時のフォームや力の出し方が、一番自分に合っていたと思い出しました。監督やトレーナーさんと連携して2年間、(陸上の)トレーニングと水中を分けて、計画的にできたことが今年につながったんじゃないかと思います。

     乙黒 練習の一つ一つを楽しんで、全力で気を抜かずにやっていたのが良かったと思います。それから、ずっと聞きたかったことがあります。私は五輪の予選に一回も出たことがないのですが、五輪の予選と、普段の大会で気持ちに変化はありますか。

     鈴木 全然、雰囲気は違いますね。競泳は五輪のある年の4月に選考会があります。五輪選考会になると、普段仲良くしゃべっている人たちとも、いつも通り話しているつもりだけど何かとげがあるなというオーラが出ていました。

     乙黒 雰囲気の違いを意識しない方が良いと思いますか。それとも意識した方が良いですか。

     鈴木 いつも通り臨めた方が良いと思います。ただ、周りの空気が全然違うので、どうしてもその雰囲気には触れます。雰囲気1割、自分の普段の気持ちが9割と考えた方が、ベストで臨めるんじゃないかなと思います。あとは、「よし、やるぞ」と視野が狭くなりすぎると、周りの雰囲気にのまれやすくなります。例えばルーティンは欠かさずやるとか、試合までの間をいかに普段通りにできるか。私は常にそうしています。

     乙黒 12月の全日本選手権から、もう(五輪選考に向けた試合が)始まります。聞けて良かったです。自分の考えと似ていました。ルーティンを大事にし、あとは楽しんでって感じで良いのかなと。

     鈴木 楽しむのが一番重要ですね。私はすごく緊張しやすいんですよ。よく「緊張しませんよね」と言われるんですけど、そんなわけないでしょと。心臓バクバクで口から出そうなくらい。緊張すると笑ってしまうんですよ。それも楽しんでいる証拠かな。不安な緊張感の時は笑えないから、とにかく良い緊張感を保つには普段通りにやるしかないのかなという結論に至りました。理想の自分はありますか。

    一瞬が勝負分ける レスリングの面白さ

     乙黒 理想……。(五輪で)金メダルを取れたら終わりたいな、くらいの気持ちは持っています。

     鈴木 分からないよ(笑い)。

    競泳女子の鈴木聡美と対談するレスリング男子の乙黒拓斗(右)

     乙黒 21歳で全盛期というか、全盛期で終わりたい。

     鈴木 そんなこと言ったら、私はどうなるの(笑い)。レスリングでは、引退するラインは何歳くらいなんですか。

     乙黒 だいたい30歳いかないくらい。

     鈴木 じゃあ、まだまだいける(笑い)。

     乙黒 この前、自分の1階級下で優勝した選手が35歳。あと15年は、もう無理ですね。きつい(笑い)。

     鈴木 五輪を迎えてみないと、「やりたい」という気持ちと、「もういいかな」という気持ちのどちらになるか本当に分からない。それも含めて、ぜひ楽しんでほしい。あんまり「もうやめる」と決めつけると、そこがゴールになってしまって最高点の位置が低くなってしまうこともある。やめるか、やめないかは「その時」でいいかなと思います。

     乙黒 決めつけない方がいいですか。

     鈴木 決めつけすぎると、自分のマックスが低くなってしまう。もったいない気もする。自分の可能性を、もうちょっと信じてみましょう(笑い)。

     ――今季結果を残したことで、周囲からのマークが厳しくなると思いますが、対策はありますか。

     鈴木 自分の能力を上げることに精いっぱいで、周りを気にして自分を見失ったらどうしようもない。まずは自分の泳ぎやトレーニングのことなど自己分析をしっかりしたうえで、周りは今、こんな記録で来ているんだぞと、頭の片隅に入れるくらいにしています。100メートル平泳ぎの自己記録は1分6秒32。9年前の大学1年の時に出した記録を切れていません。まずは(自己記録を)塗り替えて東京五輪を迎えたい。

     乙黒 金メダルを取ったことで自分のスタイルを研究されると思います。スピードが速い方なので対策をされると思いますが、逆を突くなどして対応したい。

     鈴木 駆け引きなど戦略も、いろいろ考えなければいけないですよね。

     乙黒 (駆け引きは)楽しさでもあり、面白さでもありますが、ちょっとずれたら、負ける可能性が出てきます。

     鈴木 本当に一瞬で勝負を分けるということですか。

     乙黒 1秒でも気を抜いたら、負けることもあります。それが面白いところですね。

    ユーチューブで気分転換

     ――厳しい練習の中、どう気分転換やリフレッシュをしていますか。

     乙黒 嫌になったときはふてくされて、部屋に引きこもります。

     鈴木 落ちこむところまで落ちて、上げるタイプですか。

     乙黒 さらに上げます。3日間ぐらい練習をやらないこともありました。でも、久しぶりに練習をすると動きが良くなりました。あまりお勧めしないですが。叫んだりはしますか。 

    レスリング男子の乙黒拓斗と対談する競泳女子の鈴木聡美(左)

     鈴木 ウエートトレーニングの時ぐらいかな。「ラスト何回です」と言われて、「ダーッ」って。落ち込んだときはないなあ。カラオケに行くことは?

     乙黒 歌下手なんです……。

     鈴木 一人カラオケで、ひっそりと(笑い)。

     乙黒 (一人で)行けますか?

     鈴木 私は行ける方ですよ。

     乙黒 行ってみたいとは言っているんですが……。

     鈴木 知らない曲でも一人しかいないから思い切り歌える。

     乙黒 行こうかなあ(笑い)。

     鈴木 (気分転換の)一つの方法として。私は友達と話したりするのはもちろん、一人で部屋にいる時は(動画投稿サイトの)「ユーチューブ」を見て笑っています。最近はまっているのは「フィッシャーズ」。アハハと声を出して笑って気持ちを上げたりしています。

     乙黒 他は見ないのですか。「東海オンエア」とか。

     鈴木 見てます。他に、「ヒカキン」や「木下ゆうか」「おるたなチャンネル」。ちょっとしたことでも笑います。うわ、すごいなーと尊敬の意味もありながら、くだらないことと思っても、つい笑って、気持ちがリフレッシュできます。

     乙黒 僕は2年前ぐらいから乃木坂46のファンです。大学に入学し、ライブに行くようになりました。

     鈴木 私もライブにはいきます。T.M.Revolution。ロンドン五輪が始まる直前にツイッターで私が「めちゃくちゃファンです」と言っていたのを知ってもらい、応援してくれています。ありがたいことです。

    東京で金 ベスト尽くす

     ――東京五輪について。出場すれば鈴木選手は3回目、乙黒選手は初めて。どういう大会になるとイメージしていますか。

     鈴木 私は集大成になります。五輪の翌年に(地元の)福岡県で世界水泳があるので最終地点はそこですが、五輪は東京が最後になる可能性が高い。ロンドン五輪の輝きをもう一度見せたいし、記録もメダルの色もさらに良いものを勝ち得たい。経験をすべて出したいなという思いがあります。

    レスリングの世界選手権で金メダルを獲得した乙黒拓斗(中央)ら=成田空港で2018年10月25日、加古ななみ撮影

     乙黒 2年後で、すぐにくると思います。一日一日を大切にして、そこでベストを尽くし、優勝したい。盛り上がりますよね。

     鈴木 絶対に盛り上がると思う。自国開催は絶対盛り上がります。想像より上をいくんじゃないかな。イメージとしてはどうですか。

     乙黒 結構、盛り上がってホームで戦いやすいのかなと思います。

     鈴木 時差を気にする必要もない。初出場だったロンドン五輪は国内で試合をやっているような雰囲気で臨めました。「初めてらしさがない」と会場で笑い話になりました。それぐらい普段通りに入れたので、ロンドンは結果も記録も出せたと思う。東京で開催されるので緊張感はもちろんありますが、今この場でいるような雰囲気で試合に臨めるんじゃないかと思います。注目された方がモチベーションは上がりますか。

     乙黒 注目される方が、好きかもしれないです。

     ――最後に躍動したこの1年を漢字で表現してください。

     鈴木 今年の夏の大会でロンドン五輪以来の「復活」という思いがあるので、復活の「復」です。

     乙黒 楽しんでできたので「楽」です。

    今年の自分を漢字で表した色紙を手にする競泳女子の鈴木聡美(左)とレスリング男子の乙黒拓斗

     すずき・さとみ 福岡県遠賀町出身。2歳上の姉と共に4歳から水泳を始める。山梨学院大4年だった2012年ロンドン五輪で、女子200メートル平泳ぎで銀、女子100メートル平泳ぎと女子400メートルメドレーリレーは銅と計3個のメダルを獲得。8月のパンパシフィック選手権女子200メートル平泳ぎは銅メダルで、復活を印象づけた。女子50メートル平泳ぎの日本記録保持者。

     おとぐろ・たくと 山梨県笛吹市出身。日本オリンピック委員会エリートアカデミーに所属した東京・帝京高時代に全国高校総体を3連覇。10月の世界選手権男子フリースタイル65キロ級で初優勝した。19歳10カ月での金メダルは、20歳6カ月で優勝した高田裕司(山梨学院大監督)の記録を44年ぶりに更新する日本男子最年少記録で、史上初の10代王者となった。