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毎日新聞

2016年リオデジャネイロ五輪の団体予選で演技を披露する日本代表の選手たち。表現力豊かな演技の裏にはメークの効果もあった=リオ五輪アリーナで2016年8月20日、小川昌宏撮影

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美しさとともに心理的効果も 新体操支える「メーク」の力

 技の美しさだけでなく芸術性も重視される新体操で、選手たちが豊かな表情で演技を披露する背景には、「メーク」の力がある。

     美しさを引き出すとともに、メークが決まると自信をまとって堂々と演技できる心理的効果も大きい。日本代表は2007年から化粧品会社「ポーラ」とオフィシャルパートナー契約を結んでおり、同社の「美容コーチ」からメークやスキンケアのアドバイスを受けている。その存在の大きさは、日本代表の愛称「フェアリージャパンPOLA」の冠にも表れている。

    2012年のロンドン五輪で新体操日本代表の主将を務めた田中琴乃さん(右)にメークを実演するポーラ美容コーチの桝浩史さん=東京都品川区のポーラ本社で2019年3月4日、小林努撮影

     まぶた全体を覆うようにグレーのアイシャドーをのばす。太く目尻のはねた黒のアイラインで「目力」をつけていく。ポーラの美容コーチ、桝(ます)浩史さん(37)は「一般のお客様が持っている期待感やニーズとは全くベクトルが違うんです」と説明する。

     一般にメークはいかになじませるかがポイントだが、新体操では15メートル離れた場所にいる審判員や観客に最も美しく見えることが重要だ。目力に加え、「立体感」を出すため眉毛の下や鼻筋などに明るい色の「ハイライト」を入れる。団体の場合は5人の動きがシンクロする「五つ子」に見えるようメークで顔立ちを近づけていく。演技中の激しい動きや汗で崩れないことも大切なポイントだ。

    (左)「目力」を意識したメーク。(右)ポーラ美容コーチの桝浩史さんが使う化粧道具=東京都品川区のポーラ本社で2019年3月4日、小林努撮影

     一方、演技構成や曲調、選手の顔ぶれに合わせ、毎年新しいメークを考案している。大会本番では選手が自分でメークをするため、ポーラの各部署から選抜された美容コーチが一人一人の骨格に合わせ、スキンケアから化粧の仕方まで細かくアドバイスする。

     桝さんは、10年に日本代表で初の男性美容コーチとして採用された。当初は競技用のメークに慣れず、「こんなに(アイラインを太く)書いていいの?」と衝撃を受けてばかりだったが、「異性だからこそ客観的にアドバイスしたい」と語る。普段は百貨店の販売促進を担当し、最近のトレンドを取り入れることにも気を配る。

    2012年のロンドン五輪で新体操日本代表の主将を務めた田中琴乃さん。(左)メーク前。(中央)ポーラ美容コーチの桝浩史さん(左)のメークで目元がクッキリ。(右)メーク後=東京都品川区のポーラ本社で2019年3月4日、小林努撮影
    2016年リオデジャネイロ五輪当時、元新体操日本代表主将の田中琴乃さん(左)は日本代表の選手たちにメーク指導をする美容コーチを務めた=宮間俊樹撮影

     メークの効果について、「一歩前に踏み出す勇気と力をもらっていた」と話すのは、12年ロンドン五輪の団体で主将を務めた田中琴乃さん(27)だ。現役時代、試合直前に小さな鏡を手に赤い口紅を塗りながら「大丈夫だよ」と自らに言い聞かせた。すると、肩の力が抜け、自信を持って舞台に立つことができた。「競技人生を悔いなく終えることができたのは、メークにパワーをもらえたから」と振り返る。

     田中さんは現役引退後にポーラに入社し、16年リオデジャネイロ五輪では日本代表の美容コーチを務めた。現在はフェアリージャパンのアンバサダーとして、選手と美容コーチの懸け橋を担う。

     毎年、神社で祈とうしたリップを選手に渡す。選手から「リップを塗ったら不安が取れた」「震えが落ちついて冷静に試合に臨むことができた」と声を掛けられると、「私も一つでも力になれた」と幸福感に包まれた。

     桝さんは国際大会をテレビで見た時に、自分たちが伝えたメークをまとって戦う選手の姿に喜びを感じている。20年はいよいよ東京が舞台。桝さんは「今まで以上に『日本代表』だと感じてもらえるようなメークをしたい」と意気込んでいる。【円谷美晶】

    円谷美晶

    毎日新聞東京本社運動部。1985年、東京都生まれ。2009年入社。北海道報道部、千葉支局を経て、東京社会部では気象庁や東京都庁を取材。18年から東京運動部で五輪取材班となり、体操、トライアスロンなどを担当。高校までの部活動は陸上で中・長距離の選手。いつも皇居周りを走っていた。