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東京へ ともに歩む

毎日新聞

スポーツクライミングの第1回スピードジャパンカップで4位となった楢崎智亜。独自の「智亜スキップ」で頂点を目指す=東京都昭島市で2019年2月10日午後2時53分、梅村直承撮影

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スポーツクライミング 情報分析で苦手「スピード」を強みに

 2020年東京五輪で初めて採用されるスポーツクライミングで、日本の課題は国内でなじみの薄い種目、スピードとされてきた。そこで世界トップ選手と渡り合うため、他国に先駆けてデータ収集や映像分析を担うアナリストを採用。日本代表の楢崎智亜(TEAM au)は「智亜スキップ」と呼ばれる独自の動きを編み出し、外国勢を驚かせた。弱みとされたスピードは今、強みに変わりつつある。【田原和宏】

    スポーツクライミングの情報収集や分析をするアナリストの神舘盛充さん(左)と黒阪翔さん=2019年2月27日午後4時、東京都内で田原和宏撮影

     東京五輪のスポーツクライミングは、スピード、ボルダリング、リードの3種目の総合成績による「複合」で争われる。スピードは同じ条件の高さ15メートルの壁をいかに速く登るかを競うものだが、五輪での採用が決まった当時、国内には国際連盟公認の施設は一つもなかった。2年前の日本の国別ランキングは得意のボルダリングが1位、リードは3位だったが、スピードは21位。対策は急務だった。

     そこで国の支援を背景に17年夏以降、日本スポーツ振興センター(JSC)の分析担当である神舘(こうだて)盛充さん(30)と黒阪翔さん(27)が試合などに同行。この競技では欧州の強豪国ですらコーチ自らが映像を撮るなどしているが、日本は専門のアナリストによる本格的な対策に乗り出した。

     大学院で動作解析などを学んだ2人だが、競技についての経験や知識は皆無。国際大会を転戦して海外のトップ選手の映像を手当たり次第に集め、手探りで分析を始めた。

     20個あるハンド・ホールド(突起物)のラップタイムを計測。この選手は何手で登るのか、前半型か、一定の速度で登るのかなど分類を試みてきたが、登り方はさまざま。どうすれば速く登れるのか、正解を探す日々を送ってきた。

    スポーツクライミングの第1回スピードジャパンカップで軽快に壁を上る楢崎智亜=東京都昭島市で2019年2月10日午後3時33分、梅村直承撮影

     こうした中、昨年9月の世界選手権で、独自の登り方を披露して海外勢を驚かせたのが楢崎だ。スピードの壁は世界共通で、ひし形模様のハンド・ホールド、足場となる小さな球状のフット・ホールドの2種類が決まった位置に配列される。

     スタート直後、楢崎は左ななめ上にあるフット・ホールドを踏まず、そのまま体を引き上げて直線的に登る。ハンド・ホールドも左側を飛ばして一気に真上のものをつかむ。

     楢崎は16年世界選手権のボルダリングで日本選手で初めて優勝した実力者。毎回新たな課題(ルート)に挑むボルダリング出身者だからこそ、先例にとらわれず、生まれた登り方だ。黒阪さんは「スピード(が専門)の選手には思い付かない動き。衝撃的だった」と振り返る。

     2人の分析では、同じスピードの選手と比べた場合、この時点で楢崎は頭一つ分リードしており、智亜スキップを使うことで0.2秒短縮できる計算だ。日本では楢崎を参考にほとんどの男子のトップ選手が取り入れ、海外でも若い選手を中心に広がっている。

     昨年の国別ランキングで、日本はスピードで14位と順位を上げた。記録だけを見れば、世界記録と日本記録では1秒以上もの差があるが、競泳選手だった神舘さんは4種目で戦う個人メドレーを引き合いに強調する。

     「メドレー選手の自由形の記録を自由形の世界記録とは比べないのと同じ。複合を目指す選手の間で、日本のスピードは決して世界にひけをとらない」

    「智亜スキップ」と一般的な登り方の違い

    田原和宏

    毎日新聞東京本社運動部。1972年、奈良県生まれ。教職などを経て2001年入社。06年からスポーツ取材に関わり、福岡、大阪勤務を経て13年から現職。16年リオデジャネイロ五輪では体操、卓球などを担当。東京五輪取材班キャップ。スポーツクライミングなど新競技にも注目する。職業病なのか、「おかしいやろ」が口癖。