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東京へ ともに歩む

毎日新聞

入念に作業の準備をする服部風馬さん=新潟県十日町市で2019年2月28日午後7時8分、北村秀徳撮影

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東京五輪 マラソン代表狙う服部きょうだいの絆

第72回福岡国際マラソンで優勝しガッツポーズする服部勇馬=福岡市中央区の平和台陸上競技場で2018年12月2日午後2時25分、矢頭智剛撮影

 2018年12月の第72回福岡国際マラソンで日本勢として14年ぶりの優勝を果たし、2020年東京五輪の男子マラソン代表入りを狙う服部勇馬(25)=トヨタ自動車。五輪出場の夢を追う「陸上界のプリンス」を支えているのが4歳下の弟風馬さん(21)だ。「兄には走り続けてほしい」と3年前に陸上選手を引退し、家業のとび職を継いだ。兄は「実家を継いでくれた弟のためにも頑張りたい」と感謝の思いを胸に躍進を誓う。力を合わせて大舞台を目指す服部きょうだいの絆に迫った。

     2月下旬、新潟県十日町市。住宅の建設現場で、ベテランのとび職人にまじって、ひとりの青年が黙々と足場用の鉄板を運んでいた。風馬さんだ。祖父龍一さん(79)が創業し、父好位(よしのり)さん(50)が社長を務める地元の建設会社「服部総業」(32人)の従業員として働いている。まだ若手の身。「とび職は10年やって一人前。できることをやって技を覚えていく日々です」。兄そっくりの、すっと通った目鼻周りに汗をにじませながら言った。

    服部勇馬、弾馬の弟、「服部総業」の服部風馬さん(21)=新潟県十日町市の服部総業で2019年2月21日午後0時39分、北村秀徳撮影

     風馬さんは4人きょうだいの三男。勇馬と次男弾馬(はずま)(24)=トーエネック=が現役の陸上選手だ。馬を飼っていた龍一さんの影響で、勇馬、弾馬とともに名前に「馬」の字が入る。下に妹の葉月さん(15)がいる。

     物心ついた頃から2人の兄の背中を追ってきた。3人そろって山の中を駆け回るのが遊びで、小中学校の徒競走では敵なし。勇馬は陸上強豪校の仙台育英高(仙台市)に進学し、弾馬も同校に入った後、豊川高(愛知県)に転校して、そろって京都・都大路が舞台の全国高校駅伝で活躍した。風馬さんも豊川高を選び、寮生活をしながら、兄に追いつき、追い越せとばかりに練習に明け暮れた。

     しかし、力の差は徐々に表れてきた。兄たちが国内大会で次々と記録を樹立していくのに対し、自分は1、2年時に部内競争で敗れるなどして全国高校駅伝出場を逃した。「兄にできて俺にできないはずはない」。必死に走り込みを続けたが3年の秋、右足のアキレスけんを損傷。都大路を走ることはかなわなかった。

     それでも陸上をやめる気はなかった。「大学で再挑戦し、兄たちに追いつきたい」と思ったからだ。その一方で「大学でもいい記録が出せなかったら……」と悩んだ。

     年が明けた16年1月。東洋大のメンバーとして箱根駅伝に出場する2人の兄の応援に両親、葉月さんと一緒に出掛けた。当時、勇馬は東洋大の4年生。ほれぼれする華麗な走りで、各校のエースがそろう「花の2区」で区間賞(区間1位)を獲得した。3区の弾馬も区間3位の力走。東洋大は往路2位だったが、翌日の新聞には、2人のたすきリレーの様子が「東洋大の服部兄弟」の大見出しで載った。それを見て風馬さんは決断した。

     豊川高の寮に戻った1月中旬、龍一さんに電話をかけた。「俺、戻って家の仕事を手伝うよ。勇馬、弾馬には陸上に専念してもらいたいから」。「いいのか?」と聞かれ、「それが自分流の陸上への関わり方なんだ」と答えた。龍一さんは「そうか、帰っておいで」と優しく受け止めてくれた。

    服部きょうだいの実家の建設会社「服部総業」=新潟県十日町市で2019年2月21日午後0時44分、北村秀徳撮影

     兄たちには直接報告しなかった。照れくさかったからだ。でも2人とも分かってくれていた。「実家を継いで、遠くから支えてくれる弟がいる。そのためにも頑張り続けたい」。勇馬はある国内大会での優勝インタビューで、わざわざ自分のことを持ち出してくれた。弾馬も折に触れ、感謝の気持ちを口にしてくれる。「そんな一言に支えられて日々頑張れています」。風馬さんは笑みを浮かべる。

     17年8月、皇居周辺で行われた一般参加のリレーマラソンに3人で出場した。呼び掛けたのは勇馬。久々に風を切り、たすきをつなぐのが楽しかった。「兄弟そろって走るのは、やっぱり格別」

     兄たちとは週に4回ほど会員制交流サイト(SNS)のテレビ通話で連絡を取り合っている。2人が帰省する正月とお盆は、家族全員で近くのラーメン店を訪れる。「テレビで輝いている勇馬は兄とは思えないほど超人的だけど、帰省してごろごろしている様子を見るとやっぱり兄だなと安心します」と笑う。

     勇馬が出場する東京五輪代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」(9月15日、東京)は家族総出で応援する予定だ。「五輪の代表に選ばれたらうれしいけれど、一番うれしいのは周囲から愛される選手になってくれること」。遠く離れた雪国から、日本陸上界の期待を担う2人の兄を後押しする。【北村秀徳】

    幼少期の服部勇馬(中央奥)、弾馬(左)と風馬さん(右)、葉月さん(中央手前)=風馬さん提供

    北村秀徳

    毎日新聞新潟支局。1995年、東京都生まれ。2018年入社。新潟支局では主に県警、スポーツなどを担当。中・高・大学の部活動はバスケットボール。家族そろって箱根駅伝の大ファンで、東洋大時代の服部兄弟をテレビ中継で見ていたこともあり、今回の取材を決めた。