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東京へ ともに歩む

毎日新聞

陸上の織田記念女子100メートル(視覚障害T11)決勝で力走する高田千明(左)と伴走する大森盛一さん=エディオンスタジアム広島で2019年4月28日、久保玲撮影

Together

ディズニーで磨いた対話力 パラ陸上選手の指導に生かす元五輪選手

リオデジャネイロ・パラリンピック女子走り幅跳び(視覚障害T11)で助走する高田千明を誘導する大森盛一さん(手前)=リオデジャネイロの五輪スタジアムで2016年9月16日、徳野仁子撮影

 陸上男子短距離で五輪2大会に出場した大森盛一さん(46)は今、2020年東京パラリンピックでメダルを狙う選手を指導している。現役引退後にテーマパークのスタッフや商社の営業など別世界の仕事を通して培った「対話力」を生かし、指導者として「東京」を見据える。【小林悠太】

     富山県出身の大森さんは24歳で挑んだ1996年アトランタ五輪で輝きを放った。男子1600メートルリレー決勝でアンカーを務め、5位入賞に貢献。そのレースで出した3分0秒76の日本記録は今も破られていない。その後は故障などもあり97年の世界選手権を最後に代表から遠のき、00年夏に引退した。「一生、陸上だけで終わりたくない」。そう決意したオリンピアンは陸上の枠を超え、「第二の人生」をスタートさせた。

     さまざまな仕事を重ねていったが、約1年間務めた東京ディズニーランドのキャスト(従業員)の経験は貴重なものだった。人気アトラクション「ジャングルクルーズ」の船長を担当し、「台本通り言ってもウケない。言葉の間や言い方を工夫した」と対話力を磨いた。生命保険会社や商社にも勤め、相手との接し方一つで成績が変わる営業の厳しさも知った。「人生の修業。相手にいかに分かりやすく伝えるかを考えてきたことが、陸上の指導にプラスになった」と振り返る。

     転機が訪れたのはアトランタの祭典から10年後の2006年冬のことだ。生命保険の営業で陸上クラブのコーチに会った際、「一緒に選手を指導してくれないか」と誘われた。「機会があれば、いつか陸上の世界に戻りたい」との思いを抱いてきた大森さんは、二つ返事で協力を約束した。ボランティアのコーチとして約6年ぶりに現場復帰を果たし、「やっぱり、ここが自分の居場所だ。この空間が好きだ」と実感した。クラブには、後に視覚障害のクラスでパラリンピックに出場することになる高田千明(34)らパラスポーツ選手がいた。08年4月に陸上クラブ「アスリートフォレストTC」を設立すると、クラブのメンバーになった高田との師弟関係は続いた。

     常に意識しているのは、誰もが分かりやすい言葉で教えることだという。例えば、陸上界でよく言われる「脚が後ろに流れないように」という指導では、「かかとをお尻の下にすぐに引きつけて」と具体的に表現してアドバイスする。

     視覚障害のある高田に対して、アニメーションのように動きを一コマずつ切り取り、手足を持って丁寧に教え、理想のフォームを体に覚え込ませた。「大森さんの指導は分かりやすく、安心感があります。競技をする上で自分の体の一部であり、なくてはならない人です」と高田は感謝する。

     成果が一つの形になったのは、16年リオデジャネイロ・パラリンピックだ。高田は視覚障害のクラスで女子走り幅跳びと100メートルに出場。大森さんはコーチ兼伴走者を務めた。20年ぶりに華やかな舞台に立ち、「やっぱり最高の雰囲気だった」と笑顔があふれた。走り幅跳びで力をつけた高田はリオ大会で8位入賞、17年の世界選手権では銀メダルを獲得した。東京パラリンピックでもメダル候補として期待されている。

     大森さんは東京大会でも伴走者として新国立競技場のトラックを駆けるかもしれない。伊東浩司さん(日本陸上競技連盟前強化委員長)らアトランタ五輪のリレーメンバーは大学などでトップ選手を指導してきたが、「同年代の選手で新国立のトラックを走れる人はいません。『どうだ、うらやましいだろ』って思いますよ」と大森さん。「夢の舞台に高田とともに立ちたいですね」。すがすがしい顔で言い切った。

    1996年アトランタ五輪の陸上男子1600メートルリレー決勝で5位入賞した(左から)苅部俊二、伊東浩司、小坂田淳、大森盛一の日本チーム=米アトランタで1996年8月3日、山下恭二撮影

    小林悠太

    毎日新聞東京本社運動部。1983年、埼玉県生まれ。2006年入社。甲府支局、西部運動課を経て、16年から東京本社運動部。リオデジャネイロ五輪を現地取材した。バドミントン、陸上、バレーボールなどを担当。学生時代、184センチの身長を生かそうとバレーに熱中。幼稚園児の長男、次男とバレーのパスをするのが目下の夢。