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東京へ ともに歩む

毎日新聞

東京五輪で採用する予定の採点支援システムの画面。跳馬での複雑なひねり技も正確に表示される=富士通提供

Together

公平で正確な採点を 体操で富士通のAI採用

 さまざまな分野で話題の人工知能(AI)は、スポーツの魅力を高める効果も期待されている。国際体操連盟(FIG)は富士通と共同で開発した「採点支援システム」の採用を決定。2020年東京五輪での活用を目指している。公平で正確な判定、競技時間の短縮、選手のトレーニングなどに関しメリットの多いAIが、体操界の強力なサポーターに名乗りを上げる。【円谷美晶】

    採点支援システム

     「東京五輪ではロボットが採点しているんじゃないの?」。15年9月、当時日本体操協会の専務理事だった渡辺守成・国際体操連盟会長が何気なく口にした「冗談」が、すべての始まりだった。単なる「冗談」で終わらせなかったのは、富士通で今回のシステムのプロジェクトリーダーを務める藤原英則さん(48)だ。「お家芸」とされた体操で、日本のテクノロジー(科学技術)を世界に発信する意義を感じ、開発をスタートさせた。

     当初のメンバーは、藤原さんら企画推進部の社員と技術者の4人のみ。体操に関しては素人で、誰も男女計10種目を答えられなかった。全員で体操教本を読み、技術者は審判講習会に参加した。「東京五輪のレガシー(遺産)を作りたい」。現場の心は一つだった。

     一方で、社内で賛同を得るには時間がかかった。「なんで体操? 野球やサッカーじゃないの?」。上層部からは懐疑的な声が多かったという。そこで社内の企画コンペに提案。最優秀賞を獲得し、認知度がアップした。その後はスポーツ庁の会議でプレゼンテーションしたり、テレビ局に持ちこんで番組で取り上げてもらったり……。「営業努力」は1年ほどで実を結び、メディアの注目度がアップ。メンバーは発足時の30倍以上となる130人に増え、社内のナンバーワンプロジェクトに位置づけられる。

     そもそもなぜ体操でAIが求められたのか。審判員は技の難度や出来栄えを目視で判定するが、最近は高難度の「ひねり技」などが増えたことで、負担が増していた。日本協会前審判委員長の竹内輝明さんは「審判の目でも非常にとらえにくい」と現状を説明する。

     「救世主」として生まれた採点支援システムでは、選手の動きを立体的に解析する「3Dレーザーセンサー」とAIを活用。毎秒230万点のレーザーを選手に照射し、18カ所の関節の位置をとらえる。手足の位置や関節の曲がり具合などから男女合わせて1300種類以上ある技を覚えたAIが瞬時に技の名前や回転数、動きの正確性などを判別する。360度から立体的に選手の動きを確認できる「マルチアングルビュー」により、審判の公正で正確な判定をサポート。竹内さんは「特に(技の難度を示す)Dスコアの確認に利用できるのでは」と期待している。

    新たな採点支援システムでは、選手の体の角度などを正確に解析できる=富士通提供
    体操のあん馬の実演デモ。後方のモニターに表示されたのは、3Dレーザーセンサーによる認識画像=東京都港区で2018年11月20日午後1時42分、円谷美晶撮影

     実用化に向け、藤原さんらは大学やクラブ、国内外の大会に足を運び、演技を撮影して膨大なデータを蓄積。審判員の感覚に頼っていた手足の曲がる角度などの採点基準についても、FIGや審判員と協議しながら数値化を図っている。

     10月の世界選手権(ドイツ・シュツットガルト)では、国際大会で初めて正式に新システムを導入する。東京五輪では、男子のあん馬、つり輪、跳馬、女子の跳馬と平均台の計5種目、24年のパリ五輪では男女全10種目でAI採点の導入を目指している。

     では将来、審判員はいらなくなるのか――?

     藤原さんは「人がいらなくなる世界を追求しているわけではない」と否定する。システムを活用して審判の「目」を養い、選手のトレーニングの質も向上させる。観客や視聴者の楽しみ方も広がるだろう。AIの活用は、人の能力や競技の魅力を高めるという新たな挑戦なのだ。

    白井「自分の良さが機械にも伝わるように」

    リオデジャネイロ五輪の体操種目別決勝の跳馬で、高難度の技「伸身ユルチェンコ3回半ひねり」を決めた白井健三。15枚の連続写真を合成=リオデジャネイロのリオ五輪アリーナで2016年8月15日、小川昌宏撮影

     AIによる採点支援システムについて、選手の間では「採点するのが機械でも人間でも、正確で美しい演技をやることに変わりはない」「公平に採点されるのはいい」などさまざまな声が上がっている。

     床運動で自身の名を冠する「後方伸身宙返り4回ひねり」など高難度な技を持つ白井健三(日体大大学院)は「審判が人でも機械でも戦略の変更は全くない。自分の良さが機械にも伝わるように演技したい」と話す。

     5月のNHK杯で2位となり、3大会連続の世界選手権代表入りを決めた谷川航(セントラルスポーツ)は「気にしていない」としつつ、「人が見るよりも正確な角度をはっきり見られる。『この選手、勢いあるな』という『印象』で採点が甘くなることがなくなるならば、公平でいいのでは」と話した。別の男子選手も「ごまかしがきかないので怖い面もあるが、公平に採点が行われるのはいいこと」と受け止めている。

    円谷美晶

    毎日新聞東京本社運動部。1985年、東京都生まれ。2009年入社。北海道報道部、千葉支局を経て、東京社会部では気象庁や東京都庁を取材。18年から東京運動部で五輪取材班となり、体操、トライアスロンなどを担当。高校までの部活動は陸上で中・長距離の選手。いつも皇居周りを走っていた。