メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ALL FOR 2020

東京へ ともに歩む

毎日新聞

トリップアドバイザーの牧野友衛社長=東京都渋谷区で2019年3月27日、宮間俊樹撮影

東京・わたし

観光から考える東京五輪・パラの可能性 トリップアドバイザー・牧野友衛さん

 五輪の開かれる2020年に、政府は日本に4000万人の観光客を呼び込もうとしています。旅行の口コミサイトとして世界最大の閲覧数を持つトリップアドバイザー日本代表の牧野友衛さん(46)に観光の観点から、2020大会に向けた考えを聞きました。【聞き手・本橋由紀】

    オリンピック、パラリンピックについて話すトリップアドバイザーの牧野友衛社長=東京都渋谷区で2019年3月27日、宮間俊樹撮影

     ――これまでの五輪やパラリンピックについて、どのようなことを覚えていますか?

     ◆1984年のロサンゼルス大会で、コカ・コーラが大会とコラボして作っていたヨーヨーのことが強く印象に残っています。あとは、仕事も含めて五輪に関わっていく中で、12年のロンドン大会から「スポーツだけではなくて、文化の祭典でもある」との認識が広まった気がします。

     ――五輪やパラリンピックについてどのようなことをお考えですか?

     ◆東京の観光振興を考える有識者会議の委員として、五輪に向けた観光の整備について話してきました。20年に向けて観光面でどうやって魅力的な街にしていくかと。今、世界的にも「旅行のありかた」が変わってきています。「観光」スポットを巡るのではなく、「体験」にシフトしており、どうやって体験に結びつけるかを考えています。例えば、美術館や博物館などの開館時間を延ばす。五輪でゲームを見た後に行けたらいいと思います。また、展示の理解度は、日本人が見るのと、日本のことや歴史的背景などを知らない外国人が見るのとでは違うので、多言語対応や背景を含めた説明をしなければいけません。「徳川家康」や「江戸時代」だけではピンとこない人たちに向けた翻訳や、ガイドツアーを多言語で整備していくことなどを話し合っています。

     ――外国から大勢の方がいらっしゃいます。

     ◆昨年来日した外国人は3100万人、20年の目標は4000万人です。トリップアドバイザーのサイトでいうと、日本の情報を調べている人が一番多いのは米国、続いて中国、アジア系、欧州でも高いシェアがあります。日本に関心を持っている方が増え、日本全体で13年からの年平均増加率はプラス24%です。

     ――五輪やパラリンピックを意識した活用はしていますか?

     ◆現在、トリップアドバイザーには全世界で毎分200くらい口コミの投稿があり、7億6000万の口コミ情報が掲載されています。五輪のような大規模なイベントでの機会を不正行為に利用しようとする人々は必ず存在し、トリップアドバイザーのようなサイトでは、特定の施設の評判を不正に高めようとする口コミ投稿者が増加します。このため、弊社では不正な口コミを対処するチームがいます。例えば、18年のサッカーのロシアワールドカップ(W杯)のとき、サイトへのスパム行為が非常に横行しました。スタジアム周辺のレストランで不正に口コミを操作することを請け負う業者がいたので、警告を出し、そのアカウントを止めました。そうしたことが東京大会でも起きるかもしれませんので、旅行者が不正行為の被害に遭わないよう、必要な対策をとっていく予定です。

     ――Twitter社にもいらしたことがあるのですね。

     ◆五輪との関係で言えば、ソーシャルメディアの解禁が12年のロンドン大会でした。そのときにTwitter社にいて、日本オリンピック委員会(JOC)と、選手がどのように使ったらいいかのガイドラインを作りました。国際オリンピック委員会(IOC)のガイドラインがあり、米国の本社がIOCと連携し、日本では我々がJOCと連携しました。すでに選手が使っているアカウントを認証してもらい、実名を使っていなかった方には代表として名前を公表することを勧めたり、他の選手を一緒に写してはいけないとか、スポンサーシップの問題でロゴを出してはいけない等を説明しました。

     ――どのような競技を見ていましたか?

     ◆水泳やサッカー、日本が強い競技を見ていましたね。また、選手の方からの投稿を参考にして競技を見ていました。当時、だいたいの選手のフォローをしていましたが、北島康介さんを中心とした水泳が面白かったです。競技グループごとに使用頻度も異なっていたため、その違いも面白かったです。

     ――パラリンピックについてはどうですか?

     ◆パラリンピックの元選手と話す機会があるのですが、いろいろと気づかされることが多くあります。アクセシビリティーの問題、観光でホテルに車椅子が入れるかどうかという問題です。基準が整っておらず、サイズなどの統一がされていないとか、車椅子対応の部屋の予約はオンラインではできないことがあるとか。そういう意味では今回、東京大会でも駅やホテルもアクセシビリティーを本格的に考える機会になると思います。

    五輪は外国人の目線で日本を見直すことができるいい機会

    オリンピック、パラリンピックについて話すトリップアドバイザーの牧野友衛社長=東京都渋谷区で2019年3月27日、宮間俊樹撮影

     ――五輪をきっかけにこの国は変わるでしょうか。

     ◆変わると思っています。すごくいい機会です。目標値の4000万人、これだけ多くの人たちが、日本を訪れることはこれまでありませんでした。64年の東京五輪の時は35万人、02年のサッカー日韓W杯でも500万人ぐらいです。過去最大数の外国の人たちが日本に来るので、日本の良さを知ってもらういい機会だと思います。また、20年はきっかけで、ゴールではありません。五輪でどれだけの人たちに満足して帰ってもらえるかは、30年に6000万人という目標を達成できるかどうかのキーだと思っています。世界的には旅行者は増えています。国連世界観光機関(UNWTO)の予測によると20年で14億人、30年で18億人と言われていますから、その中でどれだけ日本に来てもらえるか。世界で海外旅行している人が14億人だとしたら、日本もまだまだ伸びしろはあります。

     ――日本の良さとは、どのようなところをアピールするのがいいでしょうか?

     ◆日本の良さというのは実は難しいところがあります。日本人が考えている良さと外国人が考えている良さは必ずしも一緒ではありません。例えばトリップアドバイザーで18年に発表した「外国人に人気の観光スポットランキング」では、東京都の中の1位は「新宿御苑」でした。新宿御苑はこの5年で、入場者数が倍になり、8割くらいは外国人です。さらに、体験ツアーやアクティビティーで、東京で一番人気の高い体験は外国人にとっては公道を走るカートです。あるいは街中をサイクリングするツアーやロボットレストランなどです。東京の人にとっては「そんなのあったかしら?」みたいな話です。このように外国人の評価する日本の良さを日本として押し出していくか、もしくは日本人の評価する良さを打ち出していくかは、考えなければいけないと思います。

     日本の良さを知ってもらうには、日本のこういうところがいい、ということを外国人に分かる文脈でちゃんと説明しなければいけません。これは実はすごくいい機会なのではないでしょうか。同じ背景を理解していない外国人に、これが日本の良いところと説明することは、日本の価値を相対化し、客観視できるいい機会だと思うのです。五輪によって、本当にグローバルな考え方ができる下地ができてくるという気がしています。

     つまり、五輪は日本をプレゼンテーションするいい機会であり、日本がグローバル化する、海外の人から見た目線で日本を見直すことができるいい機会なのです。それは多様性を認めることにつながります。同じ価値観を共有しない人たちと理解し合う、それがダイバーシティーにつながってきます。日本人が海外に行かなくても、外国人が4000万人も来るのですから、許容度が広がる社会になっていく。例えば、1泊2食付きの宿泊が当たり前ではなく、2食はオプションとして選択もできるという社会です。きっかけとしては外国人の受け入れかもしれないですが、最終的には日本人にも住みやすい社会につながる気がします。多様化がキーになるのではないでしょうか?

     ――提言はありますか。

     ◆日本人ももう少し海外に行った方がいいと思います。18年の訪日外国人の数は3100万人ですが、海外に行く日本人は1895万人です。外国人として、他国を旅行してみて初めて気付くことがあります。言葉がまったくわからない海外では心細くなります。僕は韓国に行った時にハングル文字に囲まれてどうしたらいいかわからないと感じました。欧州や米国の人が漢字に囲まれたら、その心細さを感じる。そうしたことを体感することは大事です。

     もうひとつは旅行の多様化です。日本人の旅行は1泊2日の温泉旅行が多いですが、海外からの旅行者のように例えば京都で2週間滞在してみるのはどうでしょうか。それはまた働き方改革にもつながるような気がします。もっと有給休暇を取って、長く旅行する。これまでとは違う楽しみ方をすることが、日本人にとってもプラスになると思いますし、外国人を受け入れるときの理解にもつながるという気がします。

     ――2020大会では五輪が旅行の動機でしょうが、それに加えるものが何かあるといいと。

     ◆先ほどの「日本の良さ」ともつながりますが、まず、自分たちが日本の魅力を語れるようになるのが大切です。ネットが情報の経路として重要なのはもちろんですが、旅行者は日本に住む友達や家族、知り合いの意見を聞くこともすごく重視しています。そこで聞かれる僕らが日本の良さを知らないと答えられません。「歌舞伎ってどう見ればいいの?」「相撲ってわからない」と聞かれたとき、どうやってそれらの魅力を話せるか、引き出しがあるか。東京に来て五輪の間に日程上、2、3日余裕がある場合にどこに行けばいいのかと聞かれたら答えられるようにする。

     20年は出発点です。1億2000万人しかいない日本に、4000万人の外国人が来るなんて、これまで経験したことがないのですから。

    まきの・ともえ

     1973年東京都生まれ。AOL、Google、Twitterで製品開発や業務提携を担当し、Twitterでは成長戦略の責任者として国内での普及に尽力。2016年より現職。総務省「異能(Inno)vationプログラム」や農水省、東京都などの専門委員として、イノベーション・戦略・マーケティングの観点からアドバイスを行う。

    本橋由紀

    毎日新聞オリンピック・パラリンピック室委員/東京編集編成局編集委員。1963年東京都生まれ。1987年入社。東京社会部、英文編集長、夕刊編集部デスクなどを経て2011年に福島支局長、13年地方部長など。18年7月から現職。高校時代は水泳部、早稲田大学ではラグビー蹴球部副務を務めた。17年のつくばマラソンを3時間43分59秒で走り、ベストを更新した。