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東京へ ともに歩む

毎日新聞

IL DEVUの(左から)望月哲也さん、大槻孝志さん、青山貴さん、山下浩司さん、河原忠之さん=東京都渋谷区で、佐々木順一撮影

東京・わたし

ボーカルグループ・IL DEVU「五輪、平和につながることを残せたら」

 クラシックボーカルグループ「IL DEVU」は、テノールの望月哲也さん、大槻孝志さん、バリトンの青山貴さん、バスバリトンの山下浩司さん、ピアノの河原忠之さんの5人合わせて総重量500キロ。ユーモアあふれるトーク、温かなハーモニーで人気です。7月にオリンピアンやアスリートと一緒にオリンピック1年前イベント「JOCオリンピック教室校外編 IL DEVU&オリンピアン スポーツと音楽の祭典」(文京シビックホール大ホール)に出演する5人に聞きました。【構成・本橋由紀】

     ――オリンピックについての思い出などをお聞かせください。

     ◆河原さん アテネオリンピック体操男子団体「栄光への架け橋」が一番印象にあります。名ぜりふとともに冨田洋之選手の着地が決まったあの場面です。みんな一丸となって金メダルを取れて、心が揺さぶられました。鉄棒で冨田選手が回転して、手が離れ、ひねりながら下りてくる演技と歌がちょうどリンク。回転しているときから泣きながら見ていた。結果が最後までわからないだけに、ひとしおでした。クラシックで言えば、長いオペラの、一番最後の高音が決まらないと全部がだめになる感じです。それがパンッと決まって号泣しました。

     ◆望月さん すごいと思ったのは、女子が陸上で初めて金メダルを取ったシドニーオリンピックの時の高橋尚子さんです。伏線的ですが、バルセロナオリンピックの時に開会式でドミンゴ、カレラス、モンセラ・カバリエとか、ジャコモ・アラガル、テレサ・ベルガンサらスペインの名歌手が歌いました。弓矢を放って聖火台に点火したのも鮮烈で、強く印象にあります。その後、オーストリア留学中にバルセロナにコンクールを受けに行き、オリンピックスタジアムに見に行ったんです。オリンピックの時には漠然とテレビで、マラソンの有森裕子さんがスタジアムを目指して坂を上っていくのを見ていたのですが、実際は坂なんてものではなく、山の上まで上っていく感じなんです。人が走っていたなんて、信じられないと思いました。

     ◆大槻さん 選手の記憶があります。棒高跳びのイシンバエワさんやハンマー投げの室伏広治さんなどです。父が五種競技をやっていたので、子どもの頃に世界陸上も東京・国立競技場に見に行って、ブブカ選手を間近で見て、すごいと思いました。ビルの10階くらいまで飛んでいる感じ。走るときの音、スパイクがこすれる音、ライブの空気感が大事ですね。

     1998年の長野大会の時に小澤征爾さんの指揮で、5大陸同時中継でベートーベンの交響曲「第九」をやった時にメイン会場で歌ったのも忘れられません。ソロを務めたテノールのポール・グローブスさんは楽譜に家族の写真をはさんでいて、大きな舞台に立つ人も心の支えを身につけているんだと思いました。オリンピックの選手のみなさんも身近なものを身につけるのかなと考えています。

     ◆青山さん 小学生の時、84年のロサンゼルスオリンピックが、オリンピックや世界の国々を強烈に認識する初めての体験になりました。有名なファンファーレや、開会式で空から人がジェット噴射で降りて来る光景は忘れられません。テレビにくぎ付けでした。

     ◆山下さん 柔道が印象に残っています。シドニーオリンピックで篠原信一選手の内股すかしが認められず銀メダルだった時の「自分が弱かった」というコメント。なぜ相手の選手は「自分は負けていた」と言わないのだろう、スポーツマンシップとは?と考えさせられました。対照的に、ロサンゼルスオリンピックの山下泰裕選手対モハメド・ラシュワン選手の試合は、ケガをしている山下選手の脚を狙わなかったラシュワン選手の戦いぶりに、「勝てばいい」という世界的な風潮の中、その名の通り、柔「道」を感じた試合でした。

     ――パラリンピックについてはいかがですか?

     ◆河原さん 家の前がオリンピックのマラソンコースで、東京マラソンでも家の前を通るんです。第1回の時、沿道に出てみたら車いすランナーの走りがすごかったです。一瞬でサーッといっちゃう。その音や感触にすごく感動して。ハンディを背負いながら記録に向かっていくことの素晴らしさを目の当たりにしてびっくりしました。走る速度だけでなく、シャーッという音が記憶にあります。

     西洋で生まれたオペラをやっているので、体格でも言語でもハンディを背負いながら、西洋人と闘っています。ピアニストも声楽家もハンディをもって闘うところはパラリンピックと少し重なるかなと思います。

     ◆大槻さん スプリンターで、片手を生まれつきお母さんのおなかの中に置いてきたと言っている女性のストイックな練習の風景をテレビでやっているのを見ました。手指がないのに、腕立て伏せなどハードワークをしていてすごいと思いました。ほかにも、重度の障がいがあり指のみでコントロールする車いすで人工呼吸器をつけてサッカーをするなど、競技を生きるエネルギーにしていることを描いた番組を見て、熱いものを感じました。

     ◆望月さん 特に気になるのは陸上競技の短距離や走り幅跳びで、脚をなくしながら装具をつけて走っている人たちが、人間の肉体の限界を超えようとしているところです。装具のクオリティーが上がり、例えば走り幅跳びならハンディのある足をあえて踏み切りに使って記録を出すというのをテレビで見て、パラリンピックの行き着く先はどうなっていくのかなと思います。いろいろ可能性がすごいですね。

     ◆青山さん 私は運動音痴でスポーツを全然やれませんが、見るのはとても好きでパラリンピックも注目しています。自分を極限まで鍛えて競技に挑むのは、ハンディがあろうと無かろうと全く関係ありません。パラリンピックはハンディの度合いなどでルールが非常に細かく決められていて分かりやすく、エキサイティングだと思います。

     ――実際にご覧になろうと思っていますか?

     ◆河原さん チケットを申し込みました。開会式と体操団体の決勝も予選も。

     ◆望月さん 自宅の近くに味の素スタジアムや体育館があります。自転車のロードレースのコースが近いので、沿道に見に行きたいです。

     ◆大槻さん 地元の所沢(埼玉県)がイタリアのキャンプ地なので、イタリアを応援します。

     ◆青山さん 自分の住む東京でオリンピックが行われるというのは期待が大きいです。街でスポーツ選手達に直接会える可能性もあるわけで、楽しみです。競技も生で見たいですが、時差がないのでテレビで見るのも十分すてきかなと。

     ――オリンピックやパラリンピックへの提言はありますか?

     ◆山下さん オリンピックとパラリンピックの報道に差がありすぎるのが気になっています。

     ◆青山さん できるだけ多くの種類の競技が行われたら良いと思います。パラリンピックは以前よりは随分と周知されたように思いますが、東京大会をきっかけにさらに身近なものに感じられたら良いですね。

     ◆大槻さん 競技は1位、2位がついて、結果がすべてですが、平和だからこそ大会が開ける。世界中のみなさんが競技を見ながら、平和につながることを残せたらいいなと思います。7月のイベントで僕たちは「スマイル」を歌います。チャプリンが、映画で戦争へのアンチテーゼとして演じたときに使われた歌です。オリンピックが終わった後に、世界平和を感じる時間があるとすてきだなと思います。それと、速いからすごい、遠くまで跳ぶからすごいということはありますが、なぜすごいのか、感動するのかを見た人たちが考えるのも大事かもしれません。選手は技や身体を磨いてそこに存在している。なぜ感動するのかなと感じてみる時間があったらいいですね。

     ◆河原さん 大きなイベントにはプラスもマイナスもあります。オリンピックでは価値観がかわったり、英語が普及したり、いいこともいっぱいありそれは継続してほしいです。一方で、お金があるなら復興に使えというマイナスな意見もあります。終わった後は復興などにお金を使ってほしい。僕らは、次の世代をつくるために、よい日本にするためにプラスもマイナスも含めていい方向にもっていきたいと思います。

     ◆望月さん 前回の東京オリンピックは戦後の復興の象徴として開かれました。今回、子どもたちが人間の肉体の限界を見て、心が動かされる、スポーツ選手になろうと夢を描く、そういうことのサポートができたらいいですね。将来につながるような働きかけを。僕たちに何ができるかわからないですが、7月のイベントで歌ったら、もしかしたら歌いたいと思う子どももいるかもしれない。そういうふうに、子どもたちに明るい未来や夢を抱いてもらいたいです。

     「JOCオリンピック教室校外編 IL DEVU&オリンピアン スポーツと音楽の祭典」は7月27日午後3時から、文京シビックホール大ホールで。

    一般2000円、高校生以下500円。チケットのお問い合わせはサンライズプロモーションhttps://sunrisetokyo.com/ 電話0570・00・3337(全日、10~18時)

    IL DEVU イル・デーヴ

    IL DEVUの5人 Ⓒ日本コロムビア株式会社

     重量級クラシック・ボーカル・グループ。メンバーはオペラ歌手として第一線で活躍しているテノールの望月哲也・大槻孝志、バリトンの青山貴、バスバリトンの山下浩司、歌い手が厚い信頼を寄せている全国引っ張りだこのピアニスト河原忠之による太メン5人。2011年コンサート・デビュー。

    望月哲也(もちづき・てつや)テノール

     文化庁新進芸術家海外留学制度研修員として、ウィーンで研さんを積む。東京二期会、びわ湖ホール、新国立劇場等で数々のオペラに出演。宗教曲、歌曲の分野でも高く評価される。サバリッシュ、ベルティーニ、小澤征爾等著名な指揮者と共演。2020年オペラ夏の祭典「ニュルンベルクのマイスタージンガー」ダービッドに出演予定。二期会会員 https://twitter.com/tmochizuki

    大槻孝志(おおつき・たかし)テノール

     ドイツ及びイタリア留学を経て、東京二期会、新国立劇場、日生劇場、サイトウ・キネン・フェスティバル松本、びわ湖ホール等で活躍。2019年3月小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXVII「カルメン」レメンダードに出演。2019年6月東京二期会「サロメ」ナラボートに出演。現在、東邦音大特任准教授、愛知県芸大講師。二期会会員http://ameblo.jp/taka-singen/

    青山貴(あおやま・たかし)バリトン

     文化庁、ロームの奨学金を得てボローニャ、ミラノで研鑽を積む。第19回五島記念文化賞オペラ新人賞受賞。「トスカ」スカルピア、「セビリアの理髪師」フィガロ、「ラインの黄金」「ワルキューレ」ボータン等を演じる。コンサートでも「第九」、ベルディ「レクイエム」等のソリストを務め、国内の主要なオーケストラと共演している。2020年オペラ夏の祭典「ニュルンベルクのマイスタージンガー」コートナーに出演予定。二期会会員

    山下浩司(やました・こうじ)バスバリトン

     ザルツブルク及びウィーン国立音楽大学にて研さんを積む。東京二期会、サイトウ・キネン・フェスティバル松本、小澤征爾音楽塾特別演奏会、東京のオペラの森、東京・春・音楽祭、日生劇場、びわ湖ホール等への出演多数。これまでに小澤征爾、若杉弘、沼尻竜典、高関健、U.シルマー、M.ホーネック、D. エッティンガー他、著名な指揮者と共演。現在、国立音楽大学准教授。二期会会員

    河原忠之(かわはら・ただゆき)ピアノ

     日本を代表する歌手やソリストが共演者にこぞって指名する人気ピアニストであると同時に、オペラやコンサートの指揮者・プロデューサーとしても注目される存在。幅広い音色、繊細で緻密な音楽表現に絶大な信頼と定評がある。国立音楽大学卒業、同大学院修了。国立音楽大学及び大学院准教授、新国立劇場オペラ研修所音楽講師。

    本橋由紀

    毎日新聞オリンピック・パラリンピック室委員/東京編集編成局編集委員。1963年東京都生まれ。1987年入社。東京社会部、英文編集長、夕刊編集部デスクなどを経て2011年に福島支局長、13年地方部長など。18年7月から現職。高校時代は水泳部、早稲田大学ではラグビー蹴球部副務を務めた。17年のつくばマラソンを3時間43分59秒で走り、ベストを更新した。