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東京へ ともに歩む

毎日新聞

日本実験棟「きぼう」の模型の前で。一番好きな宇宙食は「カレーとシュリンプカクテル」と話す星出さん=茨城県つくば市で2019年9月3日、小川昌宏撮影

東京・わたし

宇宙飛行士の星出彰彦さん「地上の競技のルール変え、宇宙オリンピックも面白い」

 来年5月ごろから、3回目の宇宙に飛び立つ宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士、星出彰彦さん(50)は、東京オリンピック・パラリンピック聖火リレーのスペースアンバサダーに就任しました。東京大会への期待や、高校時代から熱中したラグビーと宇宙飛行士の共通点について聞きました。【柳沢亮】

    東京2020大会への期待やラグビーの魅力を語る星出彰彦さん=茨城県つくば市で9月3日、小川昌宏撮影

     ――スペースアンバサダーは、宇宙から活動するのですね。

     ◆来年、宇宙での長期滞在が決まっている僕と野口聡一飛行士が選ばれました。ふたりとも聖火リレーを盛り上げていきたいと思っていますが、具体的にどのような活動をするかはまだ聞いていません(笑い)。

     ――星出さんの過去2回の飛行は2008年と12年でしたね。

     ◆オリンピックに縁がありますね。12年はロンドン大会中に宇宙にいて、応援したり、結果を聞いて一喜一憂したりしていました。宇宙飛行士はアメリカ人もロシア人もいて、自国の選手以外が出場している競技では一緒に応援もしました。

    雪原に着陸したソユーズの帰還カプセルから運び出される星出彰彦さん=カザフスタンのアルカリク近郊で2012年11月19日午前11時18分、鳥井真平撮影

     ――国際宇宙ステーション(ISS)で各国の宇宙飛行士と応援し合うと盛り上がりそうですね。多国籍の人同士のコミュニケーションで大事にしていることはありますか。

     ◆相手を尊重することと、人となりを知ることです。国や文化、言語が異なりますが、結局はお互い「人」。宇宙飛行士はもちろん、世界中の管制官やインストラクター、メディカルスタッフなどみんな違うキャラを持っている。でも、ISSで成果を出すという同じ目標に向かって進むチームですので、そのメンバーを尊重することが大事です。

     08年の飛行で船長を務めたマーク・ケリー氏は「トイレの便座を皿にして食事ができるぐらい奇麗に使え」と言いました。共同生活をする中で、お互い気持ちよく生活できる環境を整えるためです。スペースシャトルの打ち上げや船外活動、ロボットアームでISSの日本実験棟「きぼう」を設置する訓練は散々しますが、現場でみんなが力を発揮するためにはそれぞれが互いに尊重し合い、作業しやすい環境を整えることが大切です。東京大会の「おもてなし」の心のベースにあるのも相手を尊重することだと思います。

     ――スポーツとの関わりで、星出さんはラグビーの経験があります。始めたきっかけを教えてください。

     ◆中学、高校と寮生活を送っていた茗渓学園(茨城県)で、中学1年生から毎年、体育の授業でラグビーがありました。毎年2月には「突寒ラグビー」があり、早朝から霜で凍ってザクザクしたグラウンドでラグビーボールを抱えて走っていました。高校2年生から留学したシンガポールの学校も英国系だったのでラグビー部がありました。茗渓学園時代は水泳部でしたが、慶応大に進学してからは理工学部のラグビー部に所属し、学業より部活を優先するような学生生活でした。

     ラグビーは体の大きい人や強い人、足が速い人など、多様な特長を持った人たちが一つになって勝利に向かうことに魅力を感じました。私は体が小さいですが、それでもチームに貢献できる面白さがあったので興味を持ったのだと思います。

    船外活動をする星出彰彦さん=2012年9月5日撮影、JAXA/NASA提供

     ――ラグビー選手と宇宙飛行士に共通することはありますか。

     ◆いろいろな人が集まって仕事をすることでしょう。宇宙飛行士は、1人では宇宙に行くことすらできない。ロケットを作る人、管制官、実験の研究者……。この世界では非常に大きなチームの一員として活動させてもらっていると、多くの局面で感じます。アメリカ航空宇宙局(NASA)でも20年ほど前から、チームの力を結集して遂行能力を上げるスペース・フライト・リソース・マネジメントという考え方が取り入れられ、宇宙飛行士の間でもチームで仕事を進めることが重視されるようになりました。全ての作業を一人のスーパーマンがやっていた時代から変わったのです。

     ――20年の3回目の飛行では、チームのリーダーである船長としてISSに長期滞在されますね。どのようなリーダーを目指しますか。

     ◆日本人では過去に若田光一飛行士が船長を務めました。(若田さんは)カリスマ性がありつつ、和を尊ぶ。自分の意見を持ちつつ他人の意見を聞き、物事をうまく修正することに優れた人です。これまでさまざまな船長・リーダーのやり方を見てきましたが、自分自身に合う、合わないがあります。ケースごとに対応の仕方やリーダーシップの取り方を変える必要もあります。優秀な飛行士ばかりなので、彼らが活動しやすく、かつ地上とのコミュニケーションを円滑にとれるようなチームを目指したい。ラグビーもキャプテンシーが重視されるスポーツですが、いろんなキャプテンがいる。弁が立つ人もいれば、背中で語る人もいる。僕はどうするか、まだ試行錯誤していますね(笑い)。

     ――宇宙とスポーツ科学の関わりも気になります。

     ◆スポーツに生かせるかどうかはわかりませんが、宇宙飛行士の体を使い、骨や筋肉が重力の無い状態でどの程度変わるのかという研究もあります。宇宙で全く運動をしないと筋肉が落ち、骨も骨粗しょう症のようになるんですよ。地上を歩いているだけでも骨や筋肉が刺激を受けます。また、宇宙における人体への影響を調べ、月や火星に行くに当たってどう乗り越えていくかという研究も今後大事になります。

    星出彰彦さん(上)とサニータ・ウィリアムズ宇宙飛行士=2012年9月23日撮影、JAXA/NASA提供

     ――宇宙でのオリンピックも面白そうですね。

     ◆前回の飛行では無重力空間を泳いでみました。水中は抵抗があるので前に進みますが、密度の薄い空気中だと、前進するどころか後退してしまいました。一緒に飛行したサニータ・ウィリアムズ飛行士はISSでトライアスロンをしました。自転車とランニングはマシンがあるのでそのまま、水泳はできないので代わりに同程度の時間になる筋トレで地上のアスリートと競っていました(笑い)。

     宇宙ではバスケットボールのゴールの高さも関係ないですからね。将来的には地上の競技のルールを変えて、「宇宙オリンピック」を行うのも面白いと思います。

     ――最後に、東京大会の日本選手団に期待することはありますか。

     ◆さまざまなアスリートが東京大会に向かって努力していて、現在は最後の追い込みでしょうか。夢に向かって努力する姿がものすごく美しいので、彼らの活躍を通じ、日本や世界に感動を届けてもらいたい。

     ――08年の飛行でラグビーボールを宇宙に持って行きましたが、次回も持って行く予定はありますか。

     ◆その時はISSでパスしてみたいと、ラグビーボールを持っていきました。今回は、考え中です。

    H2Aロケットの模型の前で、宇宙滞在中は「新鮮な野菜や果物がほしくなる」と話す星出さん=茨城県つくば市で2019年9月3日、小川昌宏撮影

    ほしで・あきひこ

     1968年生まれ、東京都世田谷区出身。慶応義塾大学理工学部機械工学科卒。92年に宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構=JAXA)入社、H2ロケット開発などに携わる。97年に米ヒューストン大学大学院で航空宇宙工学修士課程修了。99年に日本人宇宙飛行士の候補者に選ばれ、2001年に宇宙飛行士に認定。08年に米スペースシャトルで初めて宇宙へ行き、ロボットアームでISSに日本実験棟「きぼう」を取り付ける作業をした。12年はソユーズ宇宙船で2度目の宇宙で124日間滞在。20年には日本人として若田光一さん以来2人目のISS船長として半年間の滞在を予定している。

    柳沢亮

    毎日新聞オリンピック・パラリンピック室員。1990年埼玉県生まれ。2013年入社後、新潟支局、東京経済部を経て19年5月から現職。高校時代は野球部に所属し、本塁打数は通算1本(非公式)。草野球の試合にいつ呼ばれてもいいように定期的にグラブを磨いているが、いまだ出番はない。最近の楽しみは、相思相愛の長男(1)と近所の児童館で遊ぶこと。