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スポーツ♡マンガ for TOKYO2020

「柔道部物語」「JJM 女子柔道部物語」技や組み手がリアル 金メダリストも虜に

インタビューに答える恵本裕子さん(右)と小林まことさん=横浜市で2019年10月28日午後9時、滝川大貴撮影

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 「クールジャパン」の代名詞ともなっている日本のマンガ文化。その中でも一大ジャンルを成しているスポーツマンガの世界では、空想とリアルが交錯し相乗効果を生み出している。作者やアスリートへのインタビューを通じて、マンガとスポーツの関係を探ってみよう。1回目は「柔道部物語」に触発された柔道女子の金メダリスト、恵本裕子さん(46)と作者の小林まことさん(61)に聞いた。

    背負い投げをかける三五十五=柔道部物語よりⒸ小林まこと/講談社

     名だたる柔道家が「バイブル」として挙げる「柔道部物語」は、「週刊ヤングマガジン」(講談社)で1985年から91年にかけて連載された。高校で柔道部に入った主人公の三五十五(さんごじゅうご)が、一本背負いを武器に全国トップを目指す物語だが、作者の小林さんによると、もともとは短編のギャグマンガとして構想されていたという。

     「最初は地方の柔道部の『あるある』を描ければいいや、と思っていました。主人公が『練習も楽で髪形も自由だよ』と誘われて入部したけど、だまされました。チャンチャン、で終わるつもりだったんです」

     作品の方向性を変えたのは、連載が始まって間もなく届いた一通のファンレターだった。差出人は後に92年バルセロナ五輪で金メダルを獲得する古賀稔彦さん(52)。当時は日体大の学生で、日本柔道界のホープとして知られていた。

     「びっくりしましたよ。『毎週楽しみにしています』なんて書いてある。これはまじめにやらなきゃ、と思い、主人公がちゃんと強くなっていく『王道』にしたんです」

        ◇

    インタビューに答える恵本裕子さん=横浜市で2019年10月28日午後8時53分、滝川大貴撮影

     「主人公も私と同じく高校で白帯から柔道を始めたのに、どんどん強くなっていく。自分に重ねて読んでいました。マンガに出てきた技も見よう見まねでやりました」

     柔道女子で日本に初めての金メダルをもたらした恵本さんも同作のとりこになった一人だ。練習の合間に雑誌やコミックをむさぼり読んでいたという。

     「重心の位置など、玄人が見たらわかるんですよね。主人公は最初は本当に下手っぴなフォームなのに徐々に開花していく。そこに引かれていったんです」

     作者の小林さんも柔道経験者だった。技や組み手の描き方がリアルで参考になったという。

     恵本さんは高校卒業後、住友海上火災(現三井住友海上)に入り世界を目指した。95年の世界選手権では初戦で開始11秒で一本負けを喫したが、96年アトランタ五輪で頂点に立つ。柔道歴わずか8年での快挙だった。

     「私の土台は高校生活。『柔道部物語』が本当に励みになっていました。柔道を楽しく続けられたのは、マンガのおかげです」

        ◇

    「JJM 女子柔道部物語」第1巻の表紙(Ⓒ恵本裕子・小林まこと/講談社)

     それから約20年後。2人の人生が交わった。恵本さんがフェイスブックを通じて小林さんに連絡を取ったことがきっかけで交友が始まると、小林さんの創作意欲が刺激された。

     「恵本さんの話は素人が聞くと面白い話ばかりだった。当時は漫画家を完全に引退して道具も片付けていたんですが、頭の中で出だしの場面からガンガンできはじめたんです。ネタがどんどん浮かぶんですよ。これは何とか形にしないといけないな、と」

    「JJM 女子柔道部物語」で、主人公の神楽えもが柔道部の先輩から小林まことさんの「柔道部物語」をモデルとした漫画を渡される場面(Ⓒ恵本裕子・小林まこと/講談社)

     2016年。2人がタッグを組んだ「JJM 女子柔道部物語」の連載が「イブニング」(講談社)でスタートした。「ダイエット目的」で柔道部に入った主人公の神楽えもが、次第に柔道にのめり込み、世界を目指すストーリー。細かいエピソードも含め、ほぼ恵本さんの実話が元になっている。

     「恵本さんはマンガは素人ですよね。だから最初はこっちが物語を作っていくつもりだったんです。でも、恵本さん、マンガも結構イケるんですよ。こっちがストーリーを話すと『本当はこうだったんです』と教えてくれる。頭で考えたものより、実際の話の方が断然面白いんです」

     柔道家に影響を与えるだけでなく、選手たちの影響も受けてきた小林さんは、マンガの力をこう語る。

    「JJM 女子柔道部物語」で、試合で一本背負いを決める主人公の神楽えも(Ⓒ恵本裕子・小林まこと/講談社)

     「昔、映画館で『ロッキー』を見た。面白かったんだけど、帰り道で(ボクシングマンガの)『あしたのジョー』の方が面白いなあ、と思ったんですよ。映画じゃできないことをマンガはやれているんです。映像には勝てない面もあるけれど、マンガはトータルで表現が豊かなんです。『巨人の星』のように社会現象になることもある。その意味でスポーツとマンガは相性がいいと思う。『柔道部物語』は金メダリストという最高の結論を出せた。『JJM』も、読んだ子供が柔道をやりたいと言い出した、なんて聞くとうれしいですね」

     恵本さんも同じ思いだ。

     「できれば子供たちに読んでほしい。その子たちが柔道を始めて、将来『これを読んでオリンピックでメダルが取れた』と言ってくれれば最高です」

     マンガに影響を受けた選手が、今度はマンガを通じて次世代を触発する。日本のスポーツ界ではそんな好循環が生まれている。【金子淳】

    「柔道部物語」の時代

    彼女に振られたと思い、柔道に打ち込む決意を固める三五十五=柔道部物語より(Ⓒ小林まこと/講談社)

     「柔道部物語」の連載が始まった1985年は、男女雇用機会均等法が制定された年だ。出版・マンガ界でもそうした世相を反映してか、レディースコミックが立て続けに創刊されて一大ブームとなった。

     作品では「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)のグルメマンガ「美味しんぼ」が評判を呼び、コミックが100万部を突破。週刊文春で約2年半にわたって連載されていた手塚治虫の「アドルフに告ぐ」が完結した。

     スポーツシーンでは、阪神タイガースが21年ぶりにセ・リーグ優勝を決めたほか、ドラフト会議ではPL学園の桑田真澄さんと清原和博さんに注目が集まった。相撲界では横綱・北の湖が、柔道では84年ロサンゼルス五輪金メダルの山下泰裕さん(現日本オリンピック委員会会長)が引退した。

     テレビ業界ではザ・ドリフターズの「8時だョ!全員集合」が終了。音楽業界ではチェッカーズのレコード「ジュリアに傷心」が70万枚を売り上げる最大のヒットとなった。また同年8月の日航ジャンボ機墜落事故では、「上を向いて歩こう」などのヒット曲で知られる坂本九さんが亡くなった。

    「JJM 女子柔道部物語」第7巻(Ⓒ恵本裕子・小林まこと/講談社)

    「柔道部物語」と「JJM 女子柔道部物語」

     「柔道部物語」は1985~91年、週刊ヤングマガジン(講談社)で連載された。中学では吹奏楽部だった主人公の三五十五が高校で柔道部に入り、背負い投げを武器に全国トップを目指す物語。高校時代に柔道部だった作者の小林まことさんの体験を下敷きにしており、実際の選手らをモデルにした人物も登場する。

     「JJM」は2016年からイブニング(同)で連載中で、コミックスは累計80万部を突破した。柔道初心者の主人公、神楽えもが8年後、五輪で頂点に立つまでを描く。引退した小林さんの復帰作として話題を呼んだ。

    京都精華大学マンガ学部、吉村和真教授「競技人口増加に一役」

     スポーツマンガは「題材にされていない競技を見つける方が難しい」と言われるほど人気のジャンルですが、その源流は戦後にさかのぼります。まず野球、次に武道(格闘技)という二つの潮流が出現し、1960年代には「巨人の星」(原作・梶原一騎、作画・川崎のぼる)や「あしたのジョー」(原作・高森朝雄、作画・ちばてつや)に代表されるような「スポ根マンガ」へとつながります。「努力と根性によってライバルに打ち勝つ」という価値観は、高度経済成長という時代とマッチしていたのでしょう。

     80年代に入ると、「タッチ」のあだち充さんや「1・2の三四郎」の小林まことさんが出現したことで、スポーツマンガの潮流に「恋愛」と「笑い」という流れが加わります。競技の専門性を追求する流れも強まり、玄人をうならせる作品も多数登場し始めます。

     現在あるスポーツマンガを構成する要素は、だいたいこの時代までに出そろうのですが、90年代には井上雄彦さんの「SLAM DUNK」がバスケットボール人気に火を付けたように、より多くの競技がマンガの題材として取り上げられるようになります。

     マンガは読む人にイメージトレーニングに似た効果を与えるとされます。「翼くん(キャプテン翼の主人公)がやっているんだから、自分にもできるんじゃないか」といった具合に現実のプレーや競技人口の増加にも一役買っています。日本のマンガ文化の豊かさが、この国のスポーツ界を支えている一因だ、と言っても過言ではないでしょう。【聞き手・川崎桂吾】

    20年五輪、装飾にスポーツマンガの活用検討

     2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会は、競技会場の周囲に施す「大会ルック」と呼ばれる装飾にスポーツマンガの活用を検討している。日本のポップカルチャーの代表格であるマンガを使って世界に大会をアピールするのが狙い。具体的な場所やどのマンガを採用するかは今後発表されるが、担当者は「五輪とマンガのコラボレーションで大会を盛り上げていきたい」と話している。【川崎桂吾】

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