
TBSの東京オリンピック総合司会を担当する、安住紳一郎アナウンサー。当代きっての人気アナは、オリンピックをどう報じるのか=東京都港区のTBSで2019年11月16日、手塚耕一郎撮影

「五輪報道の転換期になる」「競技中心でシンプルに」TBS総合司会の安住紳一郎さん
TBSの安住紳一郎アナウンサー(46)が同局の「東京オリンピック2020」総合司会に就任しました。老若男女を問わず幅広い層から支持されている、テレビ界きっての人気アナウンサーは、東京オリンピックをどんな切り口で視聴者に伝えようと考えているのでしょうか。抱負と意気込みを聞きました。【聞き手・神保忠弘】
――主に生活情報番組やバラエティー番組で活躍されてきた安住さんが、総合司会に選ばれたのは、どんな役割を求められたからだと思いますか。
◆従来の(スポーツ番組の)やり方ではないスタイルで、ということだと思います。民放のオリンピック放送に対しては、いろいろなご意見をいただいています。その中の「もっと競技中心、アスリート中心にすべきだ」という声を受けて、スタジオ部分はシンプルにしようという方針があり、その中で私が指名されたのだろうな、と考えています。
――従来の民放のオリンピック放送は、ある意味でスポーツのバラエティー化でしたね。NHKとの差別化という意図もあったと思いますが、その流れが変わってくると?
◆これまでは一つのショーとして(オリンピックを)見せるということだったと思いますが、その部分をシンプルな感じに戻そうという話がありました。自分はそういう役割に適任だなと考えて、引き受けました。

――具体的にどういう番組にしたいという考えや理想がありますか。
◆繰り返しになっちゃうんですけれども、競技を中心に、起こっていることを中心に伝えるということを、私がけん引していかなければいけないと考えています。
東京で開かれることで、競技が始まる前とか前日の様子とかも、すごく注目されると思うんですよ。練習だとか、本番に臨む前とか……。まだTBSが放映する競技は決まっていませんが、そこから(番組作りは)できるかな、と考えています。
――海外で開かれるオリンピックとは全く違う視点や取り上げ方、切り口が出てくるでしょうね。
◆ここ5年ぐらい、テレビ、ラジオはみんな、やり方を模索しながら変わってきています。特に民放……NHKもそうかもしれませんが……オリンピックの中継を契機に、ずいぶん変わるはずだと思います。
――どういうふうに?
◆いろいろなものがそぎ落ちていって、いい意味で転換期になるかもしれません。
――例えばオリンピック報道ならバラエティー色、芸能色がそぎ落ちていく部分の一つになるでしょうか。
◆それも一つの見せ方かな、と思っています。今回、TBSはそっちの方向で収斂(しゅうれん)されていくんじゃないかと見ているんです。もちろん華も必要ですが。
――フジテレビはアイドルグループ・関ジャニ∞の村上信五さん、NHKもやはりアイドルグループの嵐が、オリンピック放送のメインを務めると発表されています。それを見ると、フジテレビは従来の作り方にシフトしているのかなと思うし、NHKもバラエティー的な色を加えてきそうです。そうした他局の動きは意識されますか?
◆いや、ないです。とにかく自分の局がどう(色を)出すのか、ですね。それでダメだと言われればダメなんで。
――難しいですね。シンプルといっても、競技だけを流しているだけじゃ……。
◆そうなんですよ。だからこそ民放はずっとそういうふう(=バラエティー色)にやってきたのだと思いますけれども。
――今、司会されているスポーツ情報番組の「東京VICTORY」(毎週土曜・午前7時~)は、東京2020大会に向けてトップアスリートをゲストに迎えるトーク番組ですが、選手たちを必要以上にドラマチックに扱わず、バラエティー的に取り上げるのでもなく、素の姿をスッと見せて、なるべく競技に直結した部分を取り上げていますね。これは(本番のオリンピックに向けての)パイロット的な感じがするし、安住さんの狙う流れなのかなと思いますが。
◆あの番組は東京オリンピックの会場だとか、決勝はいつだとか、極力そういう具体的な情報を提示して、アスリートの打ち合わせをのぞくみたいな感じでやっています。
――それが安住さんの言う「シンプル」な作り方でしょうか。
◆そうですね。「東京VICTORY」をやっているチームもオリンピック(放送)をやるので、予行演習といったら失礼なんですけれども、お互い考えていることをぶつけ合いながら進めている感じですね。
――番組で印象に残っているゲストは。
◆いっぱいいますけれども、一番驚いたのはバスケットの3×3の三好(南穂)選手。バスケット以外は全然運動できないんですって。なぜかバスケットボールの3ポイントシュートだけに特化しちゃったんですよ。このフィジカル第一主義みたいな時代に、本当にそんな人がいることにビックリしちゃって。
あとボルダリングの野口(啓代)さん。ボルダリングがオリンピック競技になると思っていなかったので、普通に趣味でやっていたのが、急に金メダル候補になって。3歳ぐらいからオリンピック目指していた人がいる一方で、そういう人もいる。面白いですよね。野口さんに「ずっと憧れていたオリンピックですね」と言うと、「えっ?」て顔して(笑い)。
――番組内ではポンポン質問をされていますが、毎週アスリートにあれだけの質問をするのは、相当な予習が必要じゃないですか。

◆結構大変です。マニアックすぎてもいけないので、そのあたりのバランスがね。視聴者との間の上手な橋渡しができたらな、と。選手たちの資料を読んだり、取材していた記者たちに話を聞いたり……。この選手の努力はすごいとか、この選手の転換期はここだねとか、そうした雑談から、自分の人生に落とし込んで考えたりとかして。
――そのメソッドは……。
◆完全にバラエティーとかワイドショーで培ったものですね。スポーツ選手に対するリスペクトだけでいくと、思いが空回りしてしまう可能性があるので。例えば柔道の技のすごさでも、胴着をつかまれてグッと下げられただけで普通の人なら肩が脱臼するとか、そういうところから、柔道にチンプンカンプンな人にもうまくアプローチできたらいいなと考えています。
――TBSは民放の老舗で、スポーツ中継についても長い伝統があります。アナウンサーにも有名な方が多い。そうした局の伝統を意識されることはありますか。
◆もちろん、あります。特にTBSは、優秀なスポーツアナウンサーが伝統的にたくさんいて、この人たちからの薫陶を若いときから受けていますから。私がそれを引き継ぐ正統派でないことは重々承知しているんですけれども。
――スポーツ報道の肝というか、これを忘れてはいけないよ、みたいな教えはありましたか。
◆今回、僕は実況するわけじゃないですけれども、TBSはラジオをやっていることもあって、「語るな、現象に遅れるな」とよく言われていました。ラジオは絵(画像)がないので、「ピッチャー、第1球投げました」の「投げました」を(現実より)遅れるな、と。この投手にはこんな特性がある、みたいなことを話したくなるけれども、その話は途中でやめて「投げました」を合わせろと、よく言われていました。
――事実をしっかり伝えて、あまり前に出すぎるなということですかね。
◆そうそう。ついポエム的なことを入れてくる人もいますが(笑い)。現象第一ということでしょうね。
――話題をオリンピック放送に戻しますが、過去のオリンピック中継などで印象に残っているものとか、記憶に残っているシーンとかは。
◆本来なら物心ついて初めて見るはずだったオリンピックはモスクワだったのですが(日本の出場が)流れたので、11歳ぐらいのときに1984年のロサンゼルス・オリンピックを見たんですよ。その華やかさに驚いちゃって。あの開会式。イーグルサムが出てきたり、人が空を飛んだり……。「アメリカってすげえ!」みたいな。
――印象に残っている中継とかはありますか。
◆うちの先輩たちが歴史的なシーンを中継しているのを見るとうれしくなって。(2008年北京オリンピックの)ウサイン・ボルトの100メートルの中継は初田(啓介)さんが中継したのかな。あれは、すごく誇らしい気持ちになった。
――入局以来、いずれはオリンピックに関わってみたいというお気持ちはあったのですか。
◆いやあ……自分のところにお鉢は回ってこないだろうなと思っていたので。本当に今回はうれしいやら驚くやら、ですけれども。
――東京オリンピックに向けて楽しみと不安、どちらでしょう。
◆もちろん楽しみですね。いろいろ混乱も、嫌な思いもするのだろうけど、オリンピックが始まればみんな夢中になって、日本選手を応援して、世界のトップアスリートたちの姿に驚いて、そして何年後かに「東京オリンピックでこういうことがあったね」と話すんだろうなと思うと、ああ、この時代に生きているんだな、と思いますね。
――アナウンサーの立場を離れ、個人として東京2020大会への期待とか、こんな大会になってほしいな、とかありますか?
◆前回の64年のオリンピック以降に日本が変わったように、今回の東京オリンピックを契機にいろいろな価値観、日本人の持つものが変わると思うんですよね。いま抱えているいろいろな問題とか含めて、一歩進むんだろうなと思っています。自分の生活を重視するとか、経済至上主義から少しは解放されるのかな、とか……。国際化とかオーバーツーリズム的な問題にも少し句読点が打たれるのかな、とか考えています。
――来年のTBSのオリンピック放送を見られる視聴者の方へのメッセージ、あるいはこういうところを見てほしいという点をお願いします。
◆世界でもオリンピックを生放送で見られる国は、意外に限られているんです。「スポーツ中継とかオリンピック放送はNHKだけにしてくれ」っていう声も、私の耳には届いていますが、民放も高い放映権料の一部を負担して、皆さまにオリンピックを生で見られるように頑張っているので、そこは理解してほしいのが一つ(笑い)。あとはそれぞれの放送局が、いろいろ工夫しながら中継していきますので、そのあたりも注目して見てほしいなと思います。さまざまな努力を私たちもいたしますので「ぜひオリンピックをテレビで見てください」という気持ちです。
――必ず各局の色は出ますものね。
◆そうなんですよね。最近はちょっと、その色が嫌がられているんで、無色に近い、心地よい色をつけていきますんで。
――すごく難しいでしょう。無色に近い、心地よい色というのは。
◆でもね、まったく無色だとさすがにみんなびっくりしちゃうんで、上手な、ほどよい匂い、高級ホテルみたいな匂いをつけていきます。
――大変ですね。
◆そうなんですよ。いざ蓋(ふた)を開けたら全然違ったりして。ものすごい色がついていて「うわー」みたいな。全然バラエティーになっちゃったりして(笑い)。

あずみ・しんいちろう
1973年8月3日生まれ、北海道帯広市出身。明治大学卒業後、97年4月にTBSに入社。バラエティー番組や生活情報番組を中心に活躍し、同局の看板アナウンサーに。2009年にはオリコンが実施した「好きな男性アナウンサーランキング」で5回連続1位となり、殿堂入りした。現在のレギュラー番組はテレビ「ぴったんこカン・カン」(金曜夜8時~)「新・情報7days ニュースキャスター」(土曜夜10時~)「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」(金曜夜8時57分~)「東京VICTORY」(土曜朝7時~)、ラジオ「安住紳一郎の日曜天国」(日曜朝10時~)。
神保忠弘
毎日新聞オリンピック・パラリンピック室委員/編集編成局編集委員。1965年神奈川県生まれ。89年入社後、小田原支局、横浜支局、運動部、大阪運動部、運動部デスク、運動部長などを経て、2019年5月から現職。学生時代は一貫して帰宅部、私生活は徹底したインドア派なのに、なぜ長くスポーツ報道に関わっているのか時々、不思議に思う。