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東京へ ともに歩む

毎日新聞

歌舞伎のイメージなどを描いたこだわりのネイルを披露するトランポリンの森ひかる=東京都北区の国立スポーツ科学センターで2019年11月23日、喜屋武真之介撮影

Passion

東京五輪の星へ トランポリン女子・森ひかる 「勝負ネイル」でキラリ

トランポリン世界選手権前の試技会で演技を披露する森ひかる。ピンと伸ばした指先にはこだわりのネイルが光る=東京都北区の国立スポーツ科学センターで2019年11月23日、喜屋武真之介撮影

 2020年東京五輪・パラリンピックに向けて新設された東京・有明体操競技場で28日、トランポリンの世界選手権が開幕した。本番と同じ会場で初の五輪切符獲得に挑むのは、女子のエース、森ひかる(金沢学院大ク)。高校1年からトランポリン王国の石川県へ移住し、世界の舞台を目指してきた。宙返り、ひねり……。空中を舞う時、その指先にキラリと光るものがある。レオタードの柄をイメージした「勝負ネイル」だ。20歳の素顔と強さの秘密に迫った。【円谷美晶】

     午前11時すぎに始まった女子予選。森は入場の際、笑顔で観客席に両手を振ると、アップに臨んだ。トランポリン台から弾みをつけ、ポーン、クルクルッ。縦回転の3回宙返りに横回転のひねりを加えた大技「トリフィス」の確認に余念がない。「世界選手権で決められなかったら、五輪では決められない。自信を持っていきたい」と、大舞台を前に意気込んだ。

     昨年の世界選手権は個人で5位に入賞し、非五輪種目のシンクロナイズドでは金沢学院大の先輩、宇山芽紅(23)とペアを組み、全種目を通じて日本女子初の金メダルを獲得した。今年9月のワールドカップ(W杯)第3戦(ロシア)では日本女子初の2位に入り、10月の第4戦(スペイン)も3位と2戦連続で表彰台に立ち、今回の世界選手権では個人でのメダルも視野に入れる。

     東京都足立区出身。4歳の時、近所のスーパー屋上にあったトランポリンに出合い「楽しい」と魅力にとりつかれた。2人の兄と一緒にクラブに入ると、小学6年で早くも「トリフィス」を習得。13年、史上最年少の14歳で全日本選手権女子個人優勝を果たしたが、16年リオデジャネイロ五輪は年齢制限で出場できなかった。

     「東京五輪に向けて、後悔したくない」。都立足立新田高1年の秋、石川県への「トランポリン留学」を決意した。強豪・金沢学院大の付属校である金沢学院東高(現金沢学院高)に編入。トランポリンが正式採用された00年シドニー五輪で6位入賞の丸山章子監督(日本体操協会女子強化本部長)に師事した。

     五輪出場の夢へ、歩み出した道のはずだった。しかし、新しい学校や練習環境の変化に戸惑い、孤独を感じた。何より大好きな東京の友人たちが恋しかった。「最初の1カ月は毎日のように泣いていた」。それでも、友人たちとの電話や「頑張って」の励ましを力に変えていった。「今はこの決断が良かったと思っている。トランポリンを一番にする生活ができ、感謝している」と振り返る。

    トランポリン世界選手権前の試技会で演技を披露する森ひかる=東京都北区の国立スポーツ科学センターで2019年11月23日、喜屋武真之介撮影

     トランポリンは演技の出来栄え、難度、高さ、移動という4要素の合計点で競う。10回の跳躍を連続で行い、姿勢の出来栄えなどを評価する演技点、技の組み合わせから算出する難度点、高さを得点化する跳躍時間点などの合計を競う。

     集中力と勝負強さがカギとなるが、その秘密の一つは指先にある。「爪を見るとテンションが上がります」。23日の公開練習後、満面の笑みで見せてくれた爪には、世界選手権で着用する歌舞伎をイメージしたレオタードに合わせたネイルが輝いていた。

     ネイルは大学生になった昨年から始めた。五輪に向けた選考レースは想像以上に激しく、時に心が折れそうになる。トランポリンにすべてをささげ、自由に遊ぶ時間も少ない日々だが、華やかな爪は一人の女性として、一人の選手として活力を与えてくれるのだ。自身のインスタグラムには、さまざまなデザインのネイル写真を載せている。

     今年4月のW杯第2戦(ベラルーシ)で日本協会の選考基準を満たし、早々と世界選手権の代表に内定した。その後は東京五輪を見据え、2種類のトリフィスを入れた新構成に挑んできた。もともと得意で、中学時代は2本入れた構成を跳んでいたが、演技点や跳躍の高さなどを伸ばすため、金沢に来て難度点を下げていた。だが東京五輪まで1年を切り、満を持してトリフィス2本の構成を復活させた。そしてW杯2戦連続の表彰台など、安定した演技を続けていた。

     ところが、今月の全日本選手権は準決勝で、7本目の跳躍で演技中断となり、まさかの敗退。「W杯でメダルが取れて、どこか気が抜けていた」と話す。演技直後は失敗の実感が湧かなかったが、翌日の練習で「駄目だ、全然駄目だ」と落ち込んだ。跳躍が高すぎる、位置が中央を狙えていない。気づいたことはすぐノートに書き、ミスの原因を見つめ直した。「世界選手権では絶対にメダルを取る。私が絶対にオリンピックの枠を取る」。強い決意がこみ上げた。

     今回の世界選手権で、個人決勝に進出した日本人最上位者が五輪代表に決定する。大切な友人たちがいるふるさと東京で、幼い頃から描いた「五輪出場」の夢を実現させたい。

    歌舞伎のイメージなどを描いたこだわりのネイルを披露するトランポリンの森ひかる=東京都北区の国立スポーツ科学センターで2019年11月23日、喜屋武真之介撮影

    円谷美晶

    毎日新聞東京本社運動部。1985年、東京都生まれ。2009年入社。北海道報道部、千葉支局を経て、東京社会部では気象庁や東京都庁を取材。18年から東京運動部で五輪取材班となり、体操、トライアスロンなどを担当。高校までの部活動は陸上で中・長距離の選手。いつも皇居周りを走っていた。