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2050年のメディア

第27回 映画「はりぼて」 敏腕キャスターはなぜ辞めたのか=下山進

五百旗頭幸男(左)と取材陣の一人でありもう一人の監督でもある砂沢智史。映画「はりぼて」は全国で公開中。ただし富山での公開は知事選挙の終わった10月31日になる。「チューリップテレビが現在この映画について触れない理由もそこにある」とプロデューサーの服部。

 <Susumu Shimoyama “MEDIA IN 2050”>

 ドキュメンタリー映画「はりぼて」を見た。1990年に開局した富山県のJNN系列のローカル局チューリップテレビが、富山市議会の政務活動費の不正を、情報公開条例をつかって、どんどん明るみにだしていくその4年の軌跡をまとめたものだ。

 香川県選出の代議士小川淳也(おがわじゅんや)をおったドキュメンタリー「なぜ君は総理大臣になれないのか」が、その内容が見る前から予想ができたのに対して、こちらのほうはまったく予想できず。

 なんせ、議員報酬を月10万円あげる案を主導した(年収で1160万円を超える)市議会のボス(自民党)が、「議員報酬引き上げの必要性」をとうとうと説くインタビューをとっておいたあとに、そのボスの政務活動費を情報公開請求して、その不正取得を明らかにしてしまうのである。そうした不正をしている議員たちと一線を画していたかにみえた「良識派」の自民党市議が実は同じことをやっていたことがわかれば、それをカメラをいれてひざづめで追及したりする。で、そのときの元「正義派」のなんとも言えない表情、これぞ映像の力だ。

 そうした不正を指摘されながらも辞めない自民党市議らに対して若手の元日本維新の会の市議が、「犯罪だけはしちゃいけない」と断腸の表情で糾弾する映像が流れる。そのあとに、その市議が、議会事務局の複数の女性職員の机を深夜早朝に漁(あさ)っていたことが明るみにでる。「好意をよせる職員の机を漁ったのか」と追及され、汗を流しながら「それだけではない」と答える元維新の市議。結局議員は建造物侵入で略式起訴されるが、辞職勧告決議にもめげずそれでもなお「辞めない」と強弁するシーンを見せたりする。

 はい、何を言いたいかというと、小さな「正義」で固まっていないんですね。事実をもとにして、市民の税金をどう使うかその一点において妥協をしない。そして、なによりも発見がある。これは、従軍慰安婦問題を扱ったドキュメンタリー映画「主戦場」を見た時にも思ったんだけど、ドキュメンタリーには発見がなければ駄目(「主戦場」にはあったという意味です)。

 それを支えているのは、証拠を固めてから本人に直(じか)にあたる不意打ちの取材だ。たとえば、最初の市議会ボスの政務活動費の不正は、公民館をまわって実際に市政報告会が開かれていないとわかったら、その市議のボスの家に朝駆けをして、カメラをまわしながら直にあてるのである。

 しかし、よくわからなかったのがラスト3分のシーンだ。

 こうした赫々(かくかく)たる調査報道の成果をあげてきた取材陣の筆頭であるキャスターの五百旗頭幸男(いおきべゆきお)の「退社報告」のシーンがいきなり入るのである。会議室で五百旗頭は泣きながら同僚たちにこう訴えるのだ。

「今の会社が向かっている方向というのは、報道が目指す方向とは、皮肉にも4年前を境に逆になってしまっていると思います。報道機関としてまともな方向に戻ってもらいたい。それだけです」

 そして次に、度々登場した報道制作局にあるチューリップテレビの巨大ポスターが、取り払われるシーンが映される。そのポスターに登場する群像のトップに写っているのが、五百旗頭幸男。「正々報道。」の文字が白抜きで映えるそのポスターは丸めてしまわれてしまう。

 ええ? 現在のチューリップテレビは「正々報道。」の旗をおろし、「まともな報道を目指す」テレビ局ではなくなってしまったの?

 映画では、チューリップテレビにどんな「まともでない」ことが起こったのかは、まったく説明がない。パンフレット等を読んでも思わせぶりなことしか書いていない。

 が、ますますわからなくなるのはエンドロールの最後に、「制作著作チューリップテレビ」という文字がせりあがってくることだ。???

 この映画の監督でもある五百旗頭幸男本人に、こちらも不意打ちの取材をしてみた。

 五百旗頭は、2020年3月にチューリップテレビを退社し、石川県の石川テレビに転職している。

 4年前の話を映画にしようと言い出したのは、五百旗頭だそうだ。そこで、五百旗頭は映画の配給元に「テレビの報道とは違うんだから、記者個人がどう思ったか感じたかというドラマがほしい」と言われたという。だからあのシーンは必要だったのだ、と語った。

「番組が潰されたとか、自民党から圧力があったとか、そういうことではありません。もっと複合的なことです。ただそれを明らかにしてしまうと、そもそも映画の公開ができなくなってしまう。そういう意味で、私たちも組織に忖度(そんたく)をする『はりぼて』なんです」

 チューリップテレビの社員何人かに、人を介していったい何が起こったのかを聞いてもらったが、「その件については話したくない」という冷ややかな反応だった。チューリップテレビでは、現在までのところ自社の番組で、この映画のことは一度もとりあげていない。

 この番組のプロデューサーの服部寿人は、これら市議の不正報道の際の報道制作局長(取締役)だったが、2019年6月に社長室長兼メディア戦略局長(取締役)に変わっている。そのことで、五百旗頭は理解者を失ったため辞めたと解説する人もいたが、本人にあてても「それは違う。もっと複合的な理由」ということを繰り返すのみだった。

 元上司だったプロデューサーの服部はギリギリここまで語ってくれた。

「経営と現場はどうやったって考えることは異なる。ボタンが掛け違ってニュースにならないということはそりゃあありますよね。それが退社までいっちゃうかどうかっていうのも本人の考え方だし」

 最後のシーンについては、当然議論もあったが、この表現でいくことにしたのだと、いう。

 社長も試写でこのシーンを見たうえで、公開を決断したのだという。


下山進氏

しもやま・すすむ

 2018年から慶應SFCと上智大新聞学科で調査型の講座「2050年のメディア」を開く。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者を務めた。著書に『勝負の分かれ目』『2050年のメディア』など

サンデー毎日

サンデー毎日は毎日新聞出版から毎週火曜日に発行されている週刊誌。1922年に日本で初めての総合週刊誌として創刊されました。

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