『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著 斎藤真理子訳 筑摩書房)は世界中でベストセラーになった。日本でもずっと売れているようだ。うらやましい……いや、いいものが売れるのはたいへんけっこうなことだ。
映画化もされたこの小説が、なぜ、そんなにもヒットしたのか。その大きな理由が、読者の多くが「この主人公はわたしなのだ」と思ったからであるのは、間違いないと思う。主人公のキム・ジヨンと自分は違うけれども、「こんなことはよくあるのだ」と思ったことも。
この小説の主人公「キム・ジヨン」さんは、1982年生まれの女性である。ちなみに、なぜ「キム・ジヨン」になったのかというと、韓国でこの年に生まれた女性でいちばん多い名前だったからだそうだ。小説は個性ある人間を描くものだ、というのが一般的な考え方だが、作者は、その逆こそ必要だ、と考えたのだ。
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