大学倶楽部・東日本国際大

吉村作治学長 地方大学の今後のあり方語る

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インタビューに答える吉村作治学長
インタビューに答える吉村作治学長

 少子化時代。大学改革の検討が進む中、地方大学の活路はどこにあるのか。福島県いわき市にある東日本国際大学の吉村作治学長(72)は、日本のエジプト考古学の経験を生かし、意欲的に取り組んでいる。

eラーニングの駆使を

 −−東京電力福島第1原発に最も近い大学に移って3年半。今春からは学長として、ご苦労も多いのでは?

 東日本大震災(2011年)の後、それまでほぼ定員いっぱい(約800人)だった学生数は半分以下に落ち込みました。3年前にこちらに移り、県外からの学生確保に努めましたが、風評被害にはあらがいきれません。だったら地元福島、いわきの学生を、福島、いわきのために、国際的に活躍するような人材に育てようという思いに変わりました。国内学生(約480人)の大半は地元の子です。ここにネパールやミャンマーなどアジアからの留学生が約300人いて、国際的な環境を作っている。いわき発の「グローカル」な人材を世界へ送り出すのが私の役目だと思っています。

 −−最近は留学志望の若者も減っているという調査もありますが。

 必ずしも外国が嫌いというわけではありません。多くが経済的な問題や、就職への負担を敬遠しているだけで、チャンスさえあれば留学はしたいんです。ただ、今の日本の大学のカリキュラムではそれが難しい。だったら留学しやすいように大学側が変わればいい。海外の提携校との単位交換や好きな時間に単位が取れるインターネットを使った「eラーニング」などです。

 現在、考えているのは4年間の中で3カ月程度の留学を2回する。資金は企業の力も借りてファンドを作り、半分は大学がもつ。私自身、何もないところから自分で資金を集めてエジプトで発掘をやってきた経験があります。3年後には全学生が海外留学できるように目指しています。

 −−「eラーニング」と対面講義を組み合わせたハイブリッドダブルフェース型ですね。講義も変わるのでは?

 地方の大学で教養科目のために多くの教員を抱えるのは大変です。そこは「eラーニング」を駆使する。基本は非常勤で、例えば8回のうち7回はパソコンで自習し、1回はスクーリングを兼ねて講義に。講演のような形になるので内容も充実するし学生もだらけない。講師の交通費も抑えられる。その分、専任の常勤教員は専門性を高め、対面形式でじっくりと指導していただく。それが地方の強みです。

 私はこれまで早稲田大学という都市型大規模大学の経験しかありませんでした。初めて地方の小さな大学に来て驚いたことの一つが教員が学生の教育や雑務に追われて研究ができていないこと。専門が薄い教員もいる。これは変わってもらわなければならないし、その環境を作るのが学長の仕事でしょう。

 同じ悩みは全国の地方大学が共有しています。「eラーニング」はいったん整備すれば、あとは運営コストも抑えられます。私自身もすでに「エジプト考古学」をやっています。将来的には被災地の経験を生かした「福島復興学」のようなものを日本だけでなく、世界の大学や企業へと発信していきたい。言葉は字幕をつければいい。災害や原発がある国ならどこも欲しいコンテンツになるでしょう。

 昨年夏、地元の企業と大学とを結ぶ「地域振興戦略研究所」を設置しました。企業には学生の就職もお願いする。出口(就職)を作れば、入り口(入学)も広がります。

 −−学長自身の経験と人脈が生かせそうですね。

 私の人生訓は「ピンチの後にはチャンスが来る」。ただし、一生懸命努力すれば、ですが。努力すれば運がやってきます。小学4年の時に出会った本で古代エジプトに興味を持ち、その夢を追い続けてきました。調査隊として初めてエジプトの地に立って来年で半世紀。日本とは文化も習慣も違うイスラム社会で発掘を続けることは常にピンチの連続でしたが、何とかここまでやってこられました。今ではエジプト考古学の世界で日本の調査団は大きな存在です。

 −−その割に日本はイスラム社会との付き合いが下手ですね。

 確かに政情不安な面はありますが、日本ではあまりに誤った、恐ろしげなイメージが広がっています。事件や事故の時にだけイスラム教徒でもない人が一部分を強調して伝えるからです。私は30年ほどイスラム教徒でした。決して争いを好むような宗教ではありません。人類の宗教の源泉はすべて古代エジプトにあり、基本は「復活」ということ。死後に復活できるように現世では悪いことをしない。自然への感謝という発想も、各地にお祭りが伝わる日本人には理解しやすい点でしょう。

 儒教精神に基づいて建学された当学は全国で唯一、「論語」の必修科目があります。そこでは「仁愛」の教えを学生たちに伝えています。これも世界共通の真理です。

 私がエジプトを通して学んだ多くのことを、ここで還元できればと思っています。


 ■人物略歴

 よしむら・さくじ

 1943年、東京生まれ。早大卒。66年に「早大古代エジプト調査隊」を組織し、現在も調査を続ける。早大名誉教授(工学博士)。開催中の「黄金のファラオと大ピラミッド展」(東京・六本木の森アーツセンターギャラリー)も監修。

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