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教え子犠牲、尾木特任教授が講演 事故再発防止に組織罰を

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軽井沢スキーバス転落事故について話す法政大の尾木直樹特任教授=4月8日 拡大
軽井沢スキーバス転落事故について話す法政大の尾木直樹特任教授=4月8日

 JR福知山線脱線事故の遺族らでつくる「組織罰を実現する会」が、このほど東京都内で開いたシンポジウムで、法政大学の尾木直樹特任教授が、被害者の立場から講演した。尾木特任教授は昨年1月15日に起きた軽井沢スキーツアーバス事故(長野県)で、ゼミ生4人を亡くした。事故の風化を防ぐとともに、再発防止と組織罰の必要性を訴えた。

 バスには僕のゼミ生10人が乗車。4人が死亡、6人が重傷を負った。考えもしなかった衝撃が襲ってきて、どう向き合えばいいいのか分からない状況がしばらく続いた。入院し続けている学生、事故に遭わなかったけれど4人の仲間を失ったゼミ生。ずっと厳しい1年を過ごしてきた。つらさを共有していると思ったが、一人一人が孤立しながら深く傷つき自分を責めていた。そんな感じで1年過ごしてきて振り返ると、なぜあの事故が起きたのか。改めて憤りを強く感じる。

 私たちは「事故」ではなく「事件」だと考えている。風化させてはダメだが、学生らに語らせるわけにはいかない。さらに傷つくのは目に見えている。だからメディアでは法政の学生のことはあまり伝わっていないと思う。でも事件としての深刻さをアピールしないといけない。その一つが、組織罰ということになるのかなとも思う。最初は意味がわからなかったが、話を聞いて合点がいった。業務上過失致死傷罪は個人にしか問われない。法人にも問われるべきという発想は理にかなっている。それが出てこないと会社として身を正す、安全対策が大丈夫か常に心を込めて点検するとか、意識を高揚させるという発想は出てこない。社会は、安全安心を実現しようと個人には訴えるが、法人に対しては極めて甘い。

 教育学の立場で言うと政府は今、道徳教育を強化している。気持ちは分かるが道徳律だけでずっと口酸っぱく言えばいじめがなくなるものではない。道徳的判断と行動には大きな落差がある。日本は世界一道徳教育には力を入れている。それでもいじめをストップできない。道徳は基本的に人と人の間、人間の関係性で出てくる。一方的に文部科学省や教育機関が吹き込むことでなく、実践に移せる力は高い社会的な理念が必要だ。その一つが、会社であっても、重大事故を起こして関係性が証明される状況のもとでは、責任者は当然処分される、という形で、社会みんなで安全な社会を作っているんだという高い意識こそが大切。過失でも死亡事故が起きたときは、当然処分されるというのは「社会的正義」でもあると思う。そういう社会的姿勢が教育学から言っても極めて重要だ。今の法律の中では会社の責任を問うのは難しいが、そういう社会を作るというメッセージ性が大きい。そこを強調したい。社会的理念形成へと一歩踏み出して行ければ、この大変な事件・事故に巻き込まれた私たちにもひとつの希望が持てる。亡くなった4人の学生に対して、なんらかの形で法が変わった、社会が前進しているということを報告したい。

 ポシェットに4人の遺影を持ち続けている。事件を深掘りして法体系を整えることが、再発防止のためのもっとも強力な武器。事故が相次いでいるが、メディアや社会的にも注目してもらいたい。法人の社会的責任ということに踏み込めないのか今後とも考えていきたい。【構成・田辺佑介】

ことば 軽井沢スキーツアーバス事故

 2016年1月15日、長野県軽井沢町の国道18号「碓氷(うすい)バイパス」入山峠付近で、乗客乗員計41人が乗ったバスが対向車線側の崖下に転落。乗客の大学生13人と運転手2人が死亡し、26人が重軽傷を負った。

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