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大学倶楽部・杏林大

辞書編さんで有名な一家の3代目 「了解=りょ」はOK 金田一秀徳教授

インタビュー後もふらり。釣り堀を見つけ、「たまに糸を垂らしてみるのもいいね」

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 駅前の喫茶店で待ち合わせると、かの3代目は小さなかばんを肩にかけ、サンダル履きでふらりと現れた。辞書の編さんで有名な金田一(きんだいち)家。初代の祖父は京助さん、2代目の父は春彦さん。共に日本語学の権威である。「七光り、十四光りです」とユーモアたっぷり。テレビのバラエティー番組でも、すっかりおなじみになった。

 「ヒデホちゃんもいつか辞書作るんだよね?」。周囲の大人たちにそう言われて育った。反発やら困惑やらで、大学卒業後は就職せず、読書とパチンコにふける「高等遊民」に。父の助言もあり、中国やアメリカで日本語を指導するようになった。その経験を積み重ねた結果、日本語学者の道を選んだ。

 重圧を背負うことを宿命づけられた人生。「金田一」という看板を下ろしたいと思ったことは、一度や二度ではないだろう。そう聞くと、アイスコーヒーの氷をストローでつつき、顔を上げた。「何度も思いましたよ。僕の顔も見ないで、後ろの看板を見る人もいる。僕を見てよと思いながら、本当の僕を見られるのがやっぱり怖くて。でも、みーんな看板にだまされているかもしれませんよ」

 長男は劇団を主宰し、長女は和菓子職人に。「息子は劇をつくるのがうれしくてやっている。娘はあんこでヨーロッパを征服すると宣言しパリに渡った」。思えば、祖父はアイヌ文学を好んで大成したものの、お金にはならないから辞書を書いた。音楽好きの父は、全国の方言のアクセントを研究した。「僕ら家族はみんな稼ぎながら、好きなことをやってきた」

 最近、長女が夢の舞台とするパリを訪れた時、理想とする暮らしのヒントを見つけた。「フランス人って、暮らしが保守的ですよね。例えば、いまだにLPを持っている。僕らはCDが普及すればCDじゃなきゃ駄目だと信じている」。こだわりの自宅は「保守的」な生活を送る基盤になっているという。「とんでもない洋館を買ったんです。そろそろ築95年。福沢諭吉の弟子が別荘にしていたそうです。夏は風も蚊も入ってくるけれど、新築のマンションなどちっともうらやましくない」

 かばんから取り出したスマートフォンの画面には、緑に囲まれた風情のある洋館の外観。先生が手にしているこのスマホ、最新機種のようだ。「保守的に暮らすと言っておいて、僕サイテー? でも買い物にも外出にも便利で、年寄りにこそ必要です」

 スマホがもたらした言葉の変化については、意外にも寛容だ。「<了解>を<りょ>と記すのも、面倒だからでしょう。新しいメディアだから、仕方ない。小説や詩を書く人は言葉で生きているから、すごく嫌でしょう。でも、僕は言葉の観察者。なるべく冷静に変化を見ています」。ただ、政治家の発言には我慢ならないらしい。「言葉の使い方が無責任で、その通りに実行しない。防衛大臣は勝手に<戦闘>を<衝突>と置き換える。もうめちゃくちゃです」

 還暦を過ぎ、気がかりなのは人工知能(AI)。「僕の人生も残すところ、長くて30年ほどでしょうか。でも学生たちはあと70年生きて生活にAIが関わる。僕なら憂鬱になるね」。未知なる世界を見たくないの?

 「絶対に見たくない。平安時代から約1000年で、時代がこれほど変化するのはどう見ても不自然です。人間の脳が処理できる情報量を超えるからインターネットで記憶する。体が巨大すぎて滅びた恐竜のように、人間は頭が大きくなりすぎて滅びてしまうんですよ」

 立ち返るべき精神は「温故知新」という。「皆さん、古典を読んだらいい。年を取るとその良さが素直に分かる。古典を学ぶ最大の目的は、昔の人も今と同じようなことを考えていたと知ることだと思うんです」。だが、若者にはその面白さが伝わりづらい。古典と若者をつなぐ教材に挙げるのが、古今和歌集にある小野小町の和歌だ。

 <思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを>

 この恋歌、夢を通じて少年と少女が出会う新海誠監督のヒット映画「君の名は。」のモチーフになった。

 「これこそが古典の読み方です。講義や教育番組の出演を通して、若い人に古典を楽しめるようなヒントをあげる。それが人生の夕方を迎える僕の使命かもね」【鈴木梢】


 ■人物略歴

きんだいち・ひでほ

 1953年、東京都生まれ。上智大卒、東京外国語大大学院修了。現在は杏林大外国語学部教授。Eテレ「NHK高校講座」でベーシック国語を担当するなどテレビ出演も多数。

杏林大

公式HP:http://www.kyorin-u.ac.jp/
所在地:〒181-8611 東京都三鷹市新川6-20-2
電 話:0422-47-5511

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