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大学倶楽部・神奈川大

戦意高揚に利用されたメディア 国策紙芝居241点を研究 安田特任教授ら

『国策紙芝居からみる日本の戦争』と紙芝居「爪文字」の複写

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 総力戦となった第二次世界大戦下、国家は国民を戦争に動員すべく、文字だけでなくポスターやチラシなどのメディアも活用した。近年、こうした非文字資料の研究が深化している。『国策紙芝居からみる日本の戦争』(神奈川大学日本常民文化研究所非文字資料研究センター「戦時下日本の大衆メディア」研究班編・勉誠出版・6480円)は、この分野における大きな成果だ。

 国策紙芝居は国民の戦意高揚のため1930年代後半から、業界団体を中心に作製、配布された。神奈川大は2012年度に241点の作品を購入、研究を進めてきた。

 本書は全3編。第1編の解題では全作品をカラーで紹介、1点ずつ解説も記している。

 古代から20世紀前半まで、描かれる時代は幅広い。また筆致も童話風の柔らかいものから、現代の劇画のように臨場感豊かなものまでさまざまだ。

 戦時色が濃くなるにつれ、すでに制約されていた表現の自由は一層規制された。「皇軍」の勝利に貢献すると思われる作品が優先されただろう。実際、同大学コレクションの作品には最前線で勇ましく戦う兵士、それを「銃後」で支える子どもたちが多数描かれている。

 そうした中で目を引くのが「爪文字」だ。1943年12月13日、全20枚の作品で、南太平洋・ニューギニア戦線を描いたもの。日本軍守備隊は、地上戦でこそ勝利するが、敵の優位な航空部隊に苦戦する。最期を迎えた守備隊員は岩に文字を残す。「てんのうへいかばんざい ヒカウキ ヒカウキ」

 41年12月の開戦間もなく、日本軍は南方の要衝を次々と占領した。だが戦争が長期化するにつれ、米軍など連合国軍が攻勢を強め、日本軍の敗色が濃くなっていた。こうした実情は、新聞報道などで国民にも広まっていた。本作品では、大本営発表のような架空の勝ち戦だけでは紙芝居にならなかった実情がうかがえる。

 第2編の論考編では研究班代表で日本近現代思想史が専攻の安田常雄・神奈川大特任教授(72)をはじめ、近現代史、社会史などの研究者が執筆した。

 大串潤児氏は紙芝居の担い手と実演者に迫った。松本和樹氏は愛媛県の教育現場で紙芝居が活用された実例に光を当てている。小山亮氏は、国策グラフ雑誌には写真が掲載される天皇が、国策紙芝居には描かれないことを指摘した。さらに戦争と紙芝居の関わり、紙芝居作家にとっての芸術に迫った鈴木一史氏、植民地だった台湾での紙芝居活動を明らかにした新垣夢乃氏など、テーマは多彩だ。

 第3編では「戦時下紙芝居全国調査(暫定版)」などのデータを収録。どの作品がどこに収蔵されているのか、脚本家や画家、出版者、枚数などが分かる。研究者や好事家にとってはありがたい資料ともなる。

 基礎研究ができたことで、同時代の各国の実態との比較調査の土台にもなる。一方で課題も明らかになった。作品がどこでどれくらい上演され、何人が見たのか。どれくらい影響があったのか、なかったのか。朝鮮などの植民地での実態はどうだったのか。

 また安田教授は「敗戦時に廃棄されたものや、連合国軍総司令部(GHQ)に没収されたものもある」とみる。総数はおよそ1000点ともされるが、今後どれだけ探し出せるのか。さらには描き手や脚本家など、戦時下の実相を知る上で一層の調査が待たれるところだ。【栗原俊雄】

神奈川大

公式HP:http://www.kanagawa-u.ac.jp/
所在地:〒221-8686 横浜市神奈川区六角橋3-27-1
電 話:045-481-5661

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