神奈川県相模原市の市街地を流れる姥川で、清流に生息するコオニヤンマなど4種のトンボが生息しているのを都市部でのトンボの生態を研究している明星大学非常勤講師の田口正男さんが新たに確認した。田口さんはこれまで確認した種と合わせ、少なくとも7種以上が生息していると推察。トンボの存在は、下水道改良や上流部での護岸改修が奏功し、姥川の環境改善が進んだ証しとみられている。
姥川は相模原台地を形成する横山丘陵の段丘崖に沿った延長約6・5キロ(中央区上溝~南区下溝)の細流で、相模川支流の鳩川と合流。長年、雨水を処理する「都市下水路」として利用されていた。上流部の「日金沢(ひがねざわ)」は歌舞伎や浄瑠璃で知られる伝説「小栗判官物(おぐりはんがんもの)」の主人公「照手(てるて)姫」が産湯を使ったとされる伝承の地だ。
JR相模原駅周辺の市中心部では、雨水と汚水を一つの管で流す合流式下水道が採用されていたため、大量の雨で下水管があふれ、姥川などの河川に汚水が流れ込むことが問題になっていた。そこで市は1999年、下水道を雨水と汚水に分ける分流式に改善する事業に着手。徐々に分流化が進み、汚水の流入が抑制されてきたという。
一方、市は2005年3月、2級河川並みに河川法の規定が一部適用される「準用河川」に格上げ指定。07年度から日金沢から最上流部の横山公園までの977メートル区間で、国が提唱する「多自然川づくり」に基づく護岸改修に着手。これまで日金沢から上流627メートル区間で、鉄線の枠に自然石、砕石などを詰める(蛇=じゃ=かご)の工法で護岸を整備した。
市などによると、横山丘陵の段丘崖には「井戸のつぼ」と呼ばれるわき水の場所が多くある。蛇かご護岸に改良したことで段丘崖からの湧水(ゆうすい)が川に流れ込むようになり水質などが改善されたという。
田口さんの定点観測調査では、これまで姥川流域で見られたトンボは、16年度までにアキアカネ、コノシメトンボ、ウスバキトンボの3種だった。ところが今夏はコオニヤンマ、オナガサナエ、ダビドサナエを確認したほか、ミヤマアカネの羽化後間もない幼生や成体も見つけた。田口さんは「姥川に清流が戻り、横山丘陵の斜面緑地が残っていることで、市街地での生物群の回復につながったのでは」と話している。【高橋和夫】