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大学倶楽部・神奈川大

失語症をアプリで支援 意思疎通円滑に シンプルさ追求 音声を文字に

アプリの説明をする芝野莉奈さん(左端)と名取知晃さん(左から3人目)と、様子を見守る高野倉雅人さん(同2人目)

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失語症支援アプリの画面。「失語症カード」をタッチすると、自分が失語症であることを示す画面が出る=高野倉雅人准教授提供
失語症支援アプリの画面。「失語症カード」をタッチすると、自分が失語症であることを示す画面が出る=高野倉雅人准教授提供
会話相手にスマホ画面を見せ、話してもらうと、文字として表示される=高野倉雅人准教授提供
会話相手にスマホ画面を見せ、話してもらうと、文字として表示される=高野倉雅人准教授提供

 脳卒中などで言語能力に障害が残る失語症は、思うように話したり人の話を理解したりするのが難しくなる。外見からは障害が分かりにくいため誤解されることも多い。近年、周囲とうまくコミュニケーションが図れるよう支援する動きが広がりつつある。

     昨年12月1日、千葉市美浜区で開かれた「若い失語症者のつどい」。ここで、スマートフォンやタブレット端末を使った失語症支援アプリの操作体験が行われた。

     「このボタンを押すと、相手が話した言葉を文字に変換してくれます。しゃべってみてください」

     神奈川大工学部4年の名取知晃さん(21)に促された50代の男性が「さんぎいん」「こっかい」とスマホに話しかけると、画面上に「参議院」「国会」と表示され、男性は笑顔を見せた。一緒に見ていた横浜市の会社員、長尾健太郎さん(33)は、20歳ごろに失語症を発症。「頭の中で言葉の音と文字がすぐに一致せず、メモを取るのも難しい。相手の言うことが文字になると助かる」と話した。

     アプリの開発は、障害者や高齢者の生活サポート技術を研究する神奈川大の高野倉雅人准教授の人間工学システム研究室が今年度に着手した。同研究室の名取さんと芝野莉奈さん(22)が卒業研究として取り組んでいる。

     既存の失語症支援ソフトは単語や絵を多数収録したものが主流で、発症直後からリハビリの段階でも使われている。高野倉さんは「シンプルさ」を追求したいという。「専門家や当事者、家族の意見を聞くと、実生活では直感的に操作できるものが求められているとわかった。できるだけ機能をそぎ落とした」と説明する。

     芝野さんが担当するのは家庭用。失語症の人は家族との意思疎通さえ難しいケースがある。自宅でのコミュニケーションの機会を増やしたいと思った。音声を文字に変換したり、文字を読み上げたりするほか、予定把握のためのカレンダー機能もある。

     名取さんは社会の理解を広げようと外出用を手がける。「私は失語症です。話すときはゆっくりと話してください」と表示させる機能や地図で行き先を示す機能がある。

     当事者とのやりとりから課題も浮かんだ。人によって症状の中身や重さが大きく異なることへの対応だ。22歳の時に発症した脳梗塞(こうそく)の後遺症がある東京都新宿区の派遣社員の男性(46)は「本人の症状をよく理解している言語聴覚士などがアプリの使い方を丁寧に説明すると、よりスムーズに活用できるのではないか」と提案した。高野倉さんは「1~2年後に実用化したい。個々のニーズを反映させてカスタマイズできれば」と話す。

    「意思疎通支援者」を養成

     失語症の人の日常生活でも、聴覚障害者に対する手話通訳のような支援が求められている。だが、厚生労働省が2015年夏に全国の市区町村を対象に行った調査(1238市区町村が回答)によると、失語症の人を対象にした意思疎通支援に関する事業を実施している市区町村は1割程度だった。

     厚労省は、今年度から失語症の人向けの「意思疎通支援者」を養成するよう各都道府県に求めた。既に東京や熊本など11都府県が事業をスタート。日本言語聴覚士協会の調査(昨年11月実施)によると、15県で19年度に開始予定だという。

     意思疎通支援者は、買い物や役所での手続きなどの場面で、話の内容を理解できているか確認したり、本人の意思表示を補ったりする。失語症の人には半身まひのあるケースも多く、基本的な身体介助の知識や技術も求められる。

     日本失語症協議会の園田尚美副理事長は「従来、外出時のサポートはほぼ家族が担ってきた」と指摘。「全国で意思疎通支援者の養成が順次進み市区町村で派遣が始まれば、本人と家族の生活の範囲も広がる」とし、新たな支援ニーズの掘り起こしにも期待する。

     東京都言語聴覚士会で支援者養成事業を担当する宮田睦美さんは「各地域で失語症への理解が広がれば」と話す。

    全国に30万~50万人

     失語症は脳卒中や交通事故による頭部の外傷などによって脳の言語中枢が損傷されて起きる。日本失語症協議会によると、全国に30万~50万人いるとみられる。

     言いたいことが言えない、言い間違えるといった「話す」障害や、聞こえてくる言葉を頭の中で認識するのが困難になるなど「聞く」障害のほか、目にした文字や数字の意味が理解しにくくなったり、正しく書けなくなったりするケースもある。ただし、状況認識や判断といった知的能力は保たれる。

     人によって症状が異なり、重症度や回復ペースにも大きな差がある。専門職である言語聴覚士からリハビリなど適切な支援を受け、日常的なコミュニケーションを通じて徐々に改善することが多い。【岡本同世】

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