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立命館大学薬学部の北原亮教授と生命科学部の寺内一姫教授らの研究グループが、シアノバクテリアの「体内時計」が200気圧(水深2000メートル相当)で、1気圧に比べて1・5倍速く進むことを発見した。一つの酵素活性の圧力による促進が原因であることを解明した。
私たちの体は、約24時間周期の「体内時計」を持っており、遺伝子発現や免疫系、自律神経系など多くの生理機能がこの24時間の振動、すなわち概日リズムで制御されている。バクテリアから哺乳類の体内時計では、時計機能を担うたんぱく質が異なるにもかかわらず、その周期長、つまり24時間は「温度」に左右されないという共通した性質(温度補償性)がある。しかし、深海や地中などさまざまな圧力環境で生物が発見されているにもかかわらず、圧力に対する体内時計の研究はほとんどなかった。
今回の研究では、体内時計の性質が備わった最も単純な生物といわれるシアノバクテリアを用いて、体内時計の圧力応答を調べた。シアノバクテリアの体内時計
は、KaiA、KaiB、KaiCという三つのたんぱく質とATP(アデノシン三リン酸)から構成されている。KaiCがKaiAおよびKaiBと相互作用し、KaiC自身がリン酸化と脱リン酸化を繰り返す約24時間のリズムを作り出している。今回の研究において、1気圧では22時間になるリン酸化リズムの周期長が200気圧では14時間まで短縮することを発見した。さらに、KaiCが持つATP加水分解活性(酵素活性)の圧力による促進が、周期長の短縮と相関があることを示した。この圧力による酵素活性の促進は、反応の遷移状態の体積が反応前に比べ小さくなること、つまりKaiCのATP加水分解には「収縮」が必要であることを意味する。この体積収縮こそが、ATPや水、触媒残基の配置に影響し、より効率的な反応をもたらしたと考えられる。
周期長を決定するたった一つの酵素活性の圧力依存性が、生物の体内時計を大きく狂わせる可能性がある。ヒトの体内時計でも周期長に強く関係する酵素反応がわかっている。圧力軸の実験が、概日リズムの発生原理や温度補償性のメカニズムの解明を加速させる可能性がある。