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大学倶楽部・愛知大

東海キャンパる 徴兵国家の若者 思いは… 韓国、ベトナムの留学生と考える

留学生(左)を取材する学生記者

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 この国にもかつて、兵役の義務があった。第二次世界大戦末期には兵力不足から、私たちと同じ大学生も国のために動員された。あれから70年あまり。今の日本で徴兵制度なんて考えられないけれど、世界に目を向ければ、今も兵役がある国は少なくない。そんな国々の若者たちは、どう感じているのだろう。2019年、夏。海外の同世代の言葉を通して、「徴兵」、そして「国防」について考えた。

     東海キャンパる編集部は、徴兵制のある韓国とベトナムからの留学生を取材した。

     ◆韓国

     成人男性は兵役の義務を負い、兵士として約2年間、軍事訓練を受ける。除隊後も8年間は予備役として年に数回、訓練に参加する。

    除隊後、適切な補償を パク・ジェヒヨクさん(27)

     名古屋大の大学院生。2年間、海軍将校として服務した経験がある。

     Q 軍歴を教えてください。

     A 一般の大学で2年間、軍事教育を受けた後、海軍将校に志願した。私の大学では、卒業後に船会社に就職すれば兵役は免除されるのだが、経験を積みたくて。軍隊入りを志願した2010年は韓国海軍哨戒艦沈没事件があり、北朝鮮との間に緊張が高まった時期。家族は反対したが、韓国人男性として軍隊に入ることが義務だと思った。

     Q 無事に終わった?

     A 国境線を守る船での勤務だったので、危険な場所だった。北朝鮮の船が侵入してきて、戦闘準備態勢に入った体験もある。

     Q 韓国では徴兵検査を拒否したり、国籍変更して逃れたりする若者も増えていると聞きました。

     A 知ってはいるが、兵役に就いた男性はそういう人を嫌う。「自分は低い給料で2年間働いたのに……」との思いからだろう。

     Q 徴兵制についてどう思いますか。

     A 韓国人男性は軍隊に多くの時間を奪われるので少し大変だと思う。けれど、北朝鮮の挑発が再び起きる可能性もあると思うので、終戦や統一までは制度は必要だろう。

     Q 変わってほしいところは。

     A 兵役を終えた人には国家から適切な補償があってしかるべきだ。就職活動時に加算点を与えたり、初任給を上げたり……。20代前半という時期に、2年という期間を低賃金で強制的に働くというのは大変なこと。もし北と統一すれば、兵役義務から自由になると期待している。

    兵役避け国籍捨てる キム・ヒョンスさん(22)

     米ニューヨーク在住の大学生。小学3年の時に家族で米国に移住した。(インターネット中継で取材)

     Q 移住したのはなぜ?

     A 高度な教育を受けたかったから。

     Q 兵役に就く予定は。

     A ない。韓国に就職する場合以外にメリットがないので、時間のムダだと感じている。米国の市民権を得て、兵役を逃れる予定だ。でも、韓国内で就職するなら兵役に就いた方がいい。若者はみんなそうしており、企業も服務経験を重視するからだ。

     Q 友人や家族は徴兵制をどう考えていますか。

     A 周りは反対が多い。

     Q 制度は必要だと思いますか。

     A 個人としては行きたくないけれど、北朝鮮との今の関係を考えると、国家としては必要だと思う。

     Q 変えてほしいことは?

     A メリットを増やしてほしい。特に、除隊後の「就職のしやすさ」。今は米国か日本での就職を考えているが、韓国以外の国での就職にもメリットがあれば自分も参加すると思う。また、期間も1年や半年などに短縮してほしい。

    苦痛、でも「必要悪」 匿名男性(24)

     愛知県内の大学に留学中。大学入学前、兵役で陸軍に入隊した。

     Q 軍隊の率直な感想は。

     A 訓練がとにかく大変だった。寒いし、暑いし、けがをすることもある。基本的に山や海で行われるが、自然に立ち向かうことは常に相当な危険を伴う。訓練中は一度も深く寝たことがない。

     Q 徴兵制度について、どう思いますか。

     A 友達ともよく話すが、兵役が好きな男性はいない。みんな「やりたいことをやるために、やらなければならない」と考えている。ただ、国防の観点からは、一種の「必要悪」。北朝鮮とは休戦中だが、決して戦争が終わったわけではないからだ。また、大規模な戦力は戦争の抑止力にもなる。

     Q 変わってほしいところは?

     A 一つは、軍人に対する人々の認識。尊敬されないどころか、ばかにされる対象になっている。なぜか。平和のために夜も眠らず、銃を持っている軍人たちを見たことがないからだろう。訓練で何も見えない海に入るのは、泳ぐのが好きだからではない。戦争に備えるためだ。あざけられる仕事には誰も就きたいとは思わない。もう一つが低い報酬だ。法定の最低賃金の3分の1ももらっておらず、韓国男性の間では「ほぼ奴隷並みの生活」と言われている。たとえ徴兵でも、人生を犠牲にして国家を守る軍人にはまともな報酬が与えられるべきだ。今の時代、強要から愛国心は生まれない。戦争が一番嫌いなのは間違いなく軍人だろう。戦争になったら一番先に死ぬことになるから。

     ◆ベトナム

     18~25歳の男性に2年間の兵役の義務がある。女性も志願すれば軍務につける。

    戦争抑止に役立つ ブ・ティエン・ズンさん(23)

     名古屋大学の大学院生。大学1年の時に、1カ月の軍事訓練に参加した。

     Q 兵役に就く予定は?

     A 気持ちとしては参加したいが、研究など他にやりたいことがあり、余裕がないので行かないと思う。法律に明記されているわけではないが、大学に進学した人は1カ月の軍事訓練を受ければ兵役は免除されるようだ。ベトナムでは職に就いている人や大学で勉強している人は徴兵されにくいと聞く。

     Q 手当と衣食住が保障されていることから、経済的に貧しい人が兵役を希望し、定員が埋まるという話を聞いた。

     A それはある。給与は日本円で月6000~7000円で、ベトナムの平均月収とほぼ同じ。経済的余裕がない地方の家庭は特に、兵役を歓迎しているようだ。国のためというより、自分のために行く人が多いと思う。

     Q 徴兵制についてどう思うか。

     A 人間育成の観点から必要だと思う。私も軍事訓練の間、周囲との協力や自分のことは自分でやることなどが求められたが、これらは社会に出て大いに役立つと思う。また、戦争を防ぐ意識を人々の中に醸成する上でも必要だ。訓練に参加することで、国民の多くに武器を扱う怖さなど軍事に対する知識が付く。それによって軍人と国民が軍事に関する議論を交わすことができ、戦争に突き進もうという流れを止めることができるのではないか。

     軍はあくまで国を守るためのもので、必ずしも戦争を引き起こすものではない。また、どこかの国が攻めてこないとも言い切れない。徴兵制は地震に備えることと同じだ。

     Q 制度で変えてほしいところは。

     A 2年は長すぎる。半年に短縮すべきだろう。

    世界の事情は

     中国は徴兵制だが、志願者だけで必要人数が埋まるため、強制する必要がない。台湾では2018年末に徴兵制が正式終了したが、兵員の確保に難航している。

     スウェーデンは男性に課していた兵役の義務を10年に廃止し志願制に移行したが、同様に要員不足が生じた。ロシアの脅威に備え、女性も対象に加えて18年に再開。欧州では他に、ノルウェー(15年から女性にも適用)、スイス、オーストリアなどが徴兵制を維持している。

     フランスは1996年に徴兵制度を廃止、06年から志願制になっていたが、今年6月から16歳の国民に「公共奉仕」の義務を課す制度が試験的にスタート。軍の野外訓練なども含まれており、「新しい形の徴兵だ」との見方もある。

     米国はベトナム戦争から撤退した73年に徴兵制から志願制に切り替えた。ただ、貧困を理由にした入隊もあり、「経済的徴兵制」との指摘もある。通信社報道によると、北朝鮮の徴兵期間は男性10年、女性5~6年と世界最長だ。

     一方の日本は1873(明治6)年の徴兵令が始まり。1927年には新たに兵役法ができ、男性は満20歳になると兵役の義務が課せられた。太平洋戦争で戦局が激化すると、43年には、学生に対する徴兵猶予制度が廃止され、戦場に向かうことに(学徒出陣)。敗戦で廃止された。

     ■取材して一言

     ◆平和、国防…を再考

    名古屋市立大・今村清太郎

     テレビで徴兵制があるどこかの国を取り上げていた。その国では志願兵が一定数に満たないと、抽選で兵役に就く若者を決めるそうだ。運よく免れて喜んでいる人もいれば、涙を流している人もいる。徴兵制がある国の若者は、何事にも代えがたい貴重な時間を訓練にささげなければならない。世界で武力衝突がなくなりさえすれば、徴兵制もきっとなくなる。そして多くの若者が貴重な時間を自分のために使うことができるようになると思う。

    名古屋大・宮島麻実

     「各国が武力を持たなければ、世界が平和になると思っているのですか?」。留学生の言葉。そう思っていた私は、はっとした。兵役がある国の若者は戦争の恐怖を身をもって感じていた。だからこそ、平和をより深く願い、より深く考えているのだろう。誰も戦争を望んでいない。緊張関係にある国同士が対話を進め、戦争を考えなくてもよい日が来れば、若者が軍務を強制されることもなくなるし、それが国を守ることにもつながるのだと思う。

    愛知大・永原尚大

     実弾を撃つ場面を見たことがある。小銃から重低音が響くと、標的の風船が一瞬で割れた。この時は訓練だったが、もしも実戦だったら……と思うとぞっとする。これまで戦闘は自衛官や軍人など「特別な人」がやるものだと思っていた。でも、そんな人たちは笑ったり泣いたりする「普通の人」でもあることに取材相手を通じて気づいた。普通の人が当事者になるからこそ、全員で「平和」を考えなければいけないと思った。

    名古屋市立大・足立結

     「戦争が終わっていないから兵役は必要だ」という言葉は衝撃だった。韓国と北朝鮮は事実上の「終戦」と認識していたからだ。戦争なんて自分とは関係ないことだと思っていたが、その火種がすぐ隣でくすぶっていたなんて……。ただ、市民に役務を強制するやり方には今も違和感がある。貴重な時間を奪われたうえ、内容に見合った報酬も与えられないままでは、参加する若者の理解は得られないだろう。

    名古屋大・飯嶋千遥

     「徴兵制」という言葉には漠然とした抵抗感があった。だが、留学生を取材後、印象は変わった。国民に平和意識を育み、戦争を防ぐために必要な知識を提供する役割も担っていると感じた。私は今まで、戦争に向き合うことを避けてきた。「戦争は軍人がするもの」と思って、他国との争いに武力行使を選んでしまうことはないか、と不安になった。「戦争に行きたくないから、なんとしても平和を守らなくてはいけない」という考え方があるのだと知った。

    南山大・近藤素弘

     2年という長期間、20代で兵役に就くのは、軍としては必要かもしれないが、教育的観点からするともったいない気がする。取材した韓国の学生のように、徴兵制度を嫌い、他国に移り住んでしまう若者が増えると、自国を担っていく力のある人材の流出につながりかねない。韓国は、政治的デモに若者が参加している様子をよく見るため、愛国心が日本人より強いと思っていたが、徴兵に反対する若者が多いと聞いて、意外な感じがした。

    愛知大

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