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ユニバ・トーク

10月19日 音楽はみんなのもの

 新型コロナウイルス感染防止でオーケストラの劇場公演中止が全国的に続く中、アマチュアオーケストラ新交響楽団(東京)の第251回演奏会が18日、東京都豊島区の東京芸術劇場コンサートホールで開かれた。当日は来場者へのホール入り口での検温やマスク着用徹底、前後左右1席おきでの着席など徹底した感染対策での演奏会だったが、生演奏に飢えていた多くのクラシックファンが場内を埋め尽くした。ホール受付でチケットを見せながらいつものように1階席の最前列を指定したら、演奏者との距離を取る必要から3列目になったものの、指揮者の真ん前、16番の座席を用意していただいた。

     今回の演奏曲目はシベリウス「カレリア組曲」、芥川也寸志「交響三章」、シベリウス「交響曲第1番」の3曲。フィンランドの作曲家、ジャン・シベリウスが作曲したカレリア組曲は旧チェコスロバキアのレオシュ・ヤナーチェクが作曲した「シンフォニエッタ」と並んで国民楽派の中でも親しみやすい名曲で、この2曲は僕が中学生のころに文字通りレコード盤が擦り減るほど聴いた、当時のお気に入りの作品だった。

     一方、芥川也寸志は、「新響(しんきょう)」の愛称で親しまれている新交響楽団を1956年の創設時から献身的に育成してきた作曲家。現在も89年に逝去した同氏の生前に直に指導を受けた団員が28人いるという。ストラビンスキーやショスタコービチなどロシア人作曲家の作品を得意とする新響がそれ以上に芥川や彼の師匠である伊福部昭の作品演奏を得意として度々、演奏曲目に取り上げるのもうなずける。

     ところでこの日の演奏曲目はどれもファゴットやクラリネットなど木管の温かい音色が印象的な作品が多かった。指揮を務めた湯浅卓雄の選曲だったのかどうかは知らない。それはそれで心安らぐひとときだった。だが、実はコロナ発生前には新響のおはこである、ストラビンスキーのバレエ音楽「春の祭典」が予定されていたそうだ。大編成で、しかも金管楽器が激しく吹き鳴らす作品なので、生演奏では「会場にコロナの飛沫(ひまつ)ばらまき放題は必至」ということで避けられたらしい。乙女をいけにえにして神の怒りを鎮めるという儀式がテーマの「ハルサイ」を演奏することで、新型コロナを収束させるというイベントがあってもよさそうだ。

     さて今回もホール受付には点字プログラムが用意されていた。国内はもちろん、世界的にもオーケストラが定期演奏会のプログラムを活字プログラムの読めない視覚障害者のために点字で用意しているという話は聞かない。芥川がいつも口にしていたという「音楽はみんなのもの」の哲学を愚直に実践する新響に頭が下がる。【岩下恭士】