
ベテラン映画記者が一本の映画をさまざまな視点から論評を加えます。チャートの裏側も紹介。
-
シネマの週末・特選掘り出し!
まなみ100% 平凡な日常 一瞬のきらめき
2023/9/29 13:04 537文字いろんな意味で、取るに足りない話なのだ。片思いの女性に10年間フラれ続け、相手が別の男と結婚してしまう――というだけ。主人公の恋心に人生を懸けるほどの切実さはないし、2人に劇的展開も訪れない。それでも、踏ん切りのつけられない感情を引きずる甘痛い感覚は妙にリアルで、胸をうずかせるのである。 高校生の
-
シネマの週末・この1本
ハント 骨太な韓国スパイ活劇
2023/9/29 13:04 1457文字韓国ではスパイ映画が盛んに作られているが、ハリウッドのそれとの違いは、軍事政権時代の歴史や朝鮮半島分断の現実を背景にしていること。いいかげんな作品を作るわけにはいかないから、作り手たちは気合を入れて取り組み、重厚な映画が出来上がる。Netflixの大ヒットドラマ「イカゲーム」などのスター俳優イ・ジ
-
シネマの週末・トピックス
沈黙の艦隊
2023/9/29 13:04 633文字海上自衛隊の潜水艦がアメリカの原子力潜水艦に衝突して沈没するが、事故は日米が極秘裏に建造した日本初の高性能原潜「シーバット」に乗務員を乗務させる偽装工作だった。しかし、艦長の海江田四郎(大沢たかお)はシーバットに核ミサイルを積載してアメリカの指揮下を離れ、のちに独立国を宣言。日本政府はアメリカより
-
シネマの週末・トピックス
BAD LANDS バッド・ランズ
2023/9/29 13:04 622文字大阪で特殊詐欺グループの一員として、高城(生瀬勝久)の下で働くネリ(安藤サクラ)と弟のジョー(山田涼介)。互いを頼りに生きる2人だが、ある時ジョーが暴走し、取り返しのつかない事態を引き起こす。2人は大金を手にしたものの命を狙われ、逃走を図る。黒川博行の小説「勁草(けいそう)」を、原田眞人監督が映画
-
シネマの週末・私と映画館
まるでタイムマシン
2023/9/29 13:04 570文字東京・銀座四丁目交差点から歌舞伎座へ向かう晴海通りはかつて、道路が途中でこんもりと隆起していた。その下に映画館「銀座シネパトス」があった。1952(昭和27)年に完成した三原橋地下街に三つのホールがあり、その向かいには年季の入った飲食店などがあって、時代の息吹を感じさせた。 海外の掘り出しものや、
-
-
シネマの週末・この1本
熊は、いない 監督自身の苦難と重ねて
2023/9/22 13:17 1443文字イランのジャファル・パナヒは、世界で一番動向が注目される映画監督の一人だ。新作が待たれるというだけでなく、出国も創作も禁じられた状況で心身の安全と健康が気遣われるという意味でも。「オフサイド・ガールズ」などが反体制的だと2010年に逮捕されて以来、当局の目を逃れて映画を撮り続け、国際映画祭での受賞
-
シネマの週末・時代の目
国葬の日 無関心、浮き彫りに
2023/9/22 13:17 516文字昨年9月27日、安倍晋三元首相の国葬が行われた。東京、福島、沖縄、奈良、静岡、広島、長崎など10都市でカメラを回し、国葬や安倍元首相に対する人々の声を論評なしにつないだドキュメンタリー作品。 もっとも気になったのは「どちらかというと」と前置きする人の発言。メディアで何度も耳にした評論家の言葉をその
-
シネマの週末・トピックス
ロスト・キング 500年越しの運命
2023/9/22 13:17 616文字持病を抱え、職場では正当に評価されずに昇進を阻まれているフィリッパ(サリー・ホーキンス)は、息子の付き添いで鑑賞した舞台「リチャード三世」に心動かされる。その日から、まるで天命を受けたかのように、シェークスピアの戯曲では冷酷非情に描かれている王の本当の姿を明かすべく、遺骨探しに夢中になっていく。
-
シネマの週末・トピックス
ジョン・ウィック:コンセクエンス
2023/9/22 13:17 622文字キアヌ・リーブスが伝説の殺し屋にふんした人気シリーズ第4作。裏社会を牛耳る主席連合の粛清を生き延びたジョン・ウィック。しかし主席連合で新たに台頭したグラモン侯爵(ビル・スカルスガルド)が追撃を始め、ジョンは大阪コンチネンタルホテルの支配人である旧友シマヅ(真田広之)を頼ることに。 一作ごとに肥大化
-
シネマの週末・チャートの裏側
新感覚「ミステリ」
2023/9/22 13:17 574文字原作がコミック、テレビドラマ化を経て、テレビ局が中心となり映画版を製作した。「ミステリと言う勿(なか)れ」だ。大ヒットである。最終興行収入で45億円以上が見込まれるという。この数字にはちょっと驚く。ドラマのファンが多いと聞いた。ドラマ映画の底力が実感できた。 モジャモジャ頭の久能整(ととのう)が主
-
-
シネマの週末・この1本
キリング・オブ・ケネス・チェンバレン 無実の黒人殺される過程
2023/9/15 13:01 1473文字本編が1時間23分というコンパクトな米インディーズ映画である。しかし実際の事件に基づく本作は、その“時間”がことさら重い意味を持つ。何の罪もない高齢男性が自宅で目を覚まし、むごたらしく殺害されるまでの経過をほぼリアルタイム進行で映像化した作品だからだ。しかも凶行に及んだのは、市民を守るべき立場の警
-
シネマの週末・特選掘り出し!
アリスとテレスのまぼろし工場 少年たちの情動みずみずしく
2023/9/15 13:01 536文字アニメーション「さよならの朝に約束の花をかざろう」の岡田麿里監督の第2作。中学生の正宗(声・榎木淳弥)は製鉄所の爆発以来、何年も時間が流れず、人々の成長も止まった町で暮らす。変わることは悪とされ、同じ状態でいることを強いられていた。ある日、級友の睦実(声・上田麗奈)の案内で立ち入り禁止区域に忍び込
-
シネマの週末・トピックス
私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター
2023/9/15 13:01 574文字舞台俳優として活躍し、演出家の夫と息子がいるアリス(マリオン・コティヤール)と、人里離れた山中で妻と暮らす詩人で弟のルイ(メルビル・プポー)。2人は長年にわたって互いを憎み合い、長らく顔も合わせていない。しかし、両親が事故に遭い再会することになる。 「そして僕は恋をする」のアルノー・デプレシャン監
-
シネマの週末・トピックス
ミステリと言う勿れ
2023/9/15 13:01 637文字膨大な知識と独自の価値観による切り口で、まるで探偵のようにさまざまな事件の謎を解いてきた天然パーマの大学生、久能整(ととのう)(菅田将暉)。美術展を鑑賞するために広島を訪れ、女子高生の狩集(かりあつまり)汐路(原菜乃華)と出会い、アルバイトに誘われる。それは狩集家の莫大(ばくだい)な遺産相続に関す
-
シネマの週末・チャートの裏側
メディアの変化
2023/9/15 13:01 561文字うれしい光景だった。公開2週目の日曜日午前の回、東京都内のメイン館はほぼ満席。午後の2回目も同様だった。関東大震災下の虐殺を描いた「福田村事件」だ。チャートからは見えてこないが、この大ヒットは今年の映画的「事件」だと言える。一つの鍵はメディアである。 虐殺は、朝鮮人に関する悪質なデマから起きた。そ
-
-
シネマの週末・この1本
ほつれる 心模様を巧みに表現
2023/9/8 13:10 1431文字特別なところのない夫婦の、別れ話のてんまつ。と言ってしまったら身もフタもないが、これが驚くほどリアル。人間関係の緊張が、ヒリヒリするような臨場感とともに伝わってくる。小粒ながら微細な細工が施され、淡々としていても濃密な一作である。 夫の文則(田村健太郎)との関係がギクシャクしている綿子(門脇麦)は
-
シネマの週末・特選掘り出し!
バカ塗りの娘 りりしい女性の息吹
2023/9/8 13:10 528文字津軽塗の世界に足を踏み入れた若い女性の物語。不器用だが情熱を内に秘め、ひたむきに生きる主人公に、昨年を代表する作品「ケイコ 目を澄ませて」が重なった。「ケイコ」が動ならこちらは静と、全く異なる作風だが、芯が強く素朴な女性の生き様が心を震わす。 青森県弘前市。美也子(堀田真由)はスーパーで働きつつ、
-
シネマの週末・トピックス
こんにちは、母さん
2023/9/8 13:10 584文字福江(吉永小百合)は東京・向島で、夫が残した足袋店を1人で切り盛りしている。一人息子の昭夫(大泉洋)は大企業の人事部長で、会社の人員整理に悩み、妻とも別居中。昭夫の娘で大学生の舞(永野芽郁)が、家出して福江の元に身を寄せた。福江は路上生活者支援のボランティアに精を出し、まとめ役の牧師、荻生(寺尾聰
-
シネマの週末・トピックス
6月0日 アイヒマンが処刑された日
2023/9/8 13:10 622文字第二次大戦中にユダヤ人の大量虐殺に関与したアドルフ・アイヒマンは、戦後に逃亡先のアルゼンチンでイスラエルの工作員に拘束された。その経緯やエルサレムでの裁判は過去に何度か映画化されてきたが、本作はこのナチス戦犯をめぐる歴史の一ページを新たな視点で描く。 1962年5月31日から6月1日の真夜中、すな
-
シネマの週末・チャートの裏側
痛切に思う自身の生き方
2023/9/8 13:09 561文字映画が終わった帰りの道すがらも涙が止まらなかった。映画に関連して、一昨年亡くなった自身の母のことを思い出したからである。山田洋次監督の「こんにちは、母さん」だ。東京・向島で足袋店を営む母と、大企業で要職につく息子を中心に描く。人の生き方の話である。 人の生き方とは何か。90歳を超えた山田監督は、こ
-