
50年以上続く毎日新聞夕刊社会面掲載のコラム。編集局の副部長クラスが交代で執筆。記者個人の身近なテーマを取り上げます。
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SNS映えの景福宮
2023/6/3 13:08 460文字新型コロナの感染拡大が収束に向かい、外国人観光客でごった返すソウル市中心部。名所となっている故宮「景福宮(キョンボックン)」で5月24日夜、「水刺間(スラッカン) 試食空間」というイベントがあった。水刺間とは、李氏朝鮮の時代、宮廷で食べる料理を作っていた台所だ。 参加者は、当時を再現した夕食や茶菓
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あまおう
2023/6/2 13:06 459文字栃木県に次いでイチゴ生産量全国2位の福岡県が誇る「博多あまおう」は、市場への投入から20年たっても主力品種という特別な存在だ。 1980年代後半から90年代初頭、全国の人気を二分したのは福岡県の「とよのか」、栃木県の「女峰(にょほう)」だった。その後、全国各地で新品種開発が進み、栃木県では主力が女
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当事者が開く道
2023/6/1 13:06 465文字9年前の夏、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の陽性者を支援する認定NPO法人「ぷれいす東京」代表の生島嗣(ゆずる)さんと初めて会った。当時、看護師がHIV感染を理由に退職勧奨を受けたと訴えた裁判の取材をしていて、HIV陽性者を取り巻く社会環境についてうかがった。 驚いたのは、生島さんの説明が、自分た
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航空取材「最大の敵」
2023/5/31 13:09 436文字事件・事故や災害だけでなく、季節の風景取材などでも活躍するヘリコプター。大阪(伊丹)空港内の格納庫は重要な取材拠点の一つだ。航空取材の最大の敵。第一は悪天候だが、個人的には乗り物酔いも加えたい。写真部員席の引き出しには「マイ酔い止め」を常備している。 大きな音を響かせて現場上空を飛び交う報道ヘリ。
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ほやおやじ
2023/5/30 13:09 465文字宮城県内のスーパーなどの鮮魚コーナーに、地元で養殖が盛んなホヤが並び始めた。皮をむいて刺し身で食べるのが一般的だが鮮度が落ちるのが早い。仙台市で水産加工業を営む木村達男さん(71)は、ホヤを焼いたりゆでたりして、県外流通が可能な加工品づくりに挑み約20年。周りから「ほやおやじ」と呼ばれる存在だ。
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宿題
2023/5/29 13:02 454文字ある男性の死を知った。高桑五郎さん。2009年に10人が亡くなる火災が起きた群馬県渋川市の高齢者施設「静養ホームたまゆら」で、運営法人の理事長を務めていた。 犠牲者の多くは東京都の生活保護受給者。たまゆらは都内の施設に入れなかった人たちの「受け皿」だった。一方、高桑さんは防火体制の不備を問われ、1
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信頼
2023/5/27 13:09 452文字山口市湯田温泉の「BAR 田中ゲイ企画」のオーナー、田中愛生(あいき)さん(33)は、30歳の節目に、自分がゲイであることを母直子さん(58)に手紙で告げた。母からの手紙には「自分の産んだ子以上に可愛い存在がこの世にあるとは思えない。自由に楽しく生きていければ男だろうが、女だろうが関係ないと思う」
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嫌がらないで
2023/5/26 13:15 446文字穏やかな瀬戸内海に面したアース製薬の研究所(兵庫県赤穂市)。生物研究課の担当者は週1回、二重になったドアを開けて4畳半ほどの部屋に入り、この中で放し飼いにしている生物の餌を交換する。床や壁の褐色のまだらは装飾ではない。約60万匹のゴキブリだ。 殺虫剤やゴキブリ捕獲器の開発には効き目を試す害虫が欠か
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届け、車いす
2023/5/25 13:06 455文字故障した車いすを整備できず、新調もしづらい――。ロシアによる侵攻で苦境にあるウクライナの障害者を支えようと、NPO法人さくら・車いすプロジェクト(東京都墨田区)が昨年末から新たな活動に乗り出した。 車いす145台をポーランド経由でウクライナの病院などに届け、さらに関係団体や企業の賛同を得て365台
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ジェンナーとワクチン
2023/5/24 13:05 451文字「今年は没後200年です。しかし、そのことは全く知られていません」。ウイルス学の泰斗、山内一也・東京大名誉教授(91)から先日、そのようなメールをもらった。 歴史上、初めてのワクチンは英国の医師、エドワード・ジェンナー(1749~1823)によってもたらされた。天然痘が猛威を振るっていた1796年
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地域ブランドを守る
2023/5/23 13:06 460文字米沢牛、草津温泉、江戸切子、戸越銀座商店街、京仏壇。こうして並べると脈絡がないようだが「地域団体商標」に登録された点で共通している。地域ブランドを守ることで地域経済を活性化させようと、2006年に導入された国の制度で、地域に根ざした団体の申請を受け、全国で約750の商標が登録されている。商標により
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「つちふまズ」の挑戦
2023/5/22 13:11 459文字これで2度目だ。彼の言葉にグッときたのは。1度目は2021年暮れ。札幌・ススキノで杯を交わしながらだった。「彼女はいらない。おもしろいネタを追求するだけです」 お笑いコンビ「つちふまズ」(札幌吉本)の小澤さん(32)。大学卒業後、医薬品卸大手で営業マンをしていた小澤さんは安定した生活を手放し、相方
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再びスタートラインに
2023/5/20 13:15 456文字韓国・ソウルに住む俳優の李瑛恩(イヨンウン)さん(38)は今年4月、「朝鮮国民女優・文藝峰(ムンイェボン)の誕生」(青弓社)と題した本を出版した。文藝峰(1917~99年)は、戦前の日本統治下で人気を博し、戦後は北朝鮮へと渡るなど激動の人生を送った映画俳優。その戦前の活動に光を当てた作品だ。 韓国
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平和と明太子
2023/5/19 13:06 453文字スケトウダラの卵から作られる辛子(からし)明太子は博多の名物だが、卵のほぼ全量を輸入に頼っている。大半がロシア産かアメリカ産。北海道や東北でも取れるが国産は1割にも満たない。 ロシアによるウクライナ侵攻後も、政府は国内の水産業者に配慮してロシア産海産物は禁輸対象外とした。このため、今のところ原料を
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偽装の達人
2023/5/18 13:09 448文字流行の勢いが止まらない。性交渉で感染する梅毒のことだ。 この病気の取材を最初にしたのは2019年。前年に国内の感染報告が過去最多の約7000人となり、私を含め多くの記者が啓発記事を書いた。そのかいもあってか、この年の後半から患者は減り始め、いったんは落ち着いた。 しかし、新型コロナ出現とともに他の
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海水浴場にカッパ
2023/5/17 13:14 456文字半世紀以上前の1960年ごろ、今は工場地帯になった大阪湾には多くの海水浴場があり、家族連れなどでにぎわった。その様子を紹介する記事によく登場する言葉が「カッパ(河童)」。7月初旬の紙面には「カッパの天国」の見出しが躍る。 毎日新聞朝刊の大阪版で、新旧の風景などを比較する「れとろ探訪」という連載を担
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仙台発の髪形
2023/5/16 13:06 461文字仙台市内で車を運転中、「仙台刈り」と書かれた黄色いのぼりが目に入った。気になって後日、この髪形を発案した同市の理容店「ヒットカット」の八木均さん(58)をたずねてみた。 きっかけは東日本大震災。八木さんの友人の理容師が気仙沼市の店を津波で流された。避難所でカットを再開しようとしていた友人に、はさみ
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女は度胸
2023/5/15 13:34 463文字「なってよかった」。4年前、長野県生坂(いくさか)村議になった望月典子さん(81)の一言にほっとした。出馬を決めた場に立ち会っていたからだ。 人口1700人の山あいの村は村議選の無投票が続き、17年は定数割れ。欠員1人を埋める19年の再選挙も告示前日まで動きがなかった。「意中の会員に出馬を断られて
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天の贈り物
2023/5/13 13:08 460文字母は息子を「天からの贈り物」、息子は母を「かけがえのない存在」と表現する。 山口県山陽小野田市の岩屋晃平さん(24)は先天性血栓性血小板減少性紫斑病を患う。血栓ができ、血小板が減少する難病だ。病と闘いながらプロゲーマーを目指したが、最近、対戦相手に負けることが増え、2月4日の誕生日に母紀子さん(5
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時代を映す
2023/5/12 13:07 458文字明治の東京で催された内国勧業博覧会の錦絵、日中戦争の激化で中止された「幻の万博」の入場券、1970年大阪万博の開会式で宙を舞った折り鶴――。博覧会に関わる約2万点が大阪・難波のビルの一角で当時の熱気を伝える。 ここはパビリオンの内装も手掛ける乃村工芸社の大阪事業所。品々は大きさや形状に合わせて棚や
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