最近なんとなく憂鬱な気分が続いているのは、年を重ね、できないことが増えてきたから……? 中高年世代は「SOC(選択最適化補償)適齢期」。20世紀最大のピアニスト、アルトゥール・ルービンシュタインがとった戦略で、人生後半戦の作戦を立ててみませんか。
「雑巾が絞れない…」まさかの加齢現象に衝撃
中高年女性の間では加齢変化の話題がよく出る。「五十肩で腕が上がらない」「老眼が進み、本やメニューが読めない」といった軽い愚痴から、「尿漏れが心配で外出できない」などの笑えない深刻な悩みまで、その内容はさまざまだ。
一方、男性は加齢にかかわる愚痴や悩みをあまり口にしないようだ。国立長寿医療研究センター老化疫学研究部副部長の西田裕紀子さんは次のように話す。
「女性と違って、簡単に弱みをさらせないのかもしれませんね。とはいえ、男性ももちろん加齢変化を実感しているはず。たとえば加齢による握力低下は、もともとの握力が強いこともあり、男性の方が女性より顕著であることがわかっています。雑巾を絞ろうとしたり、楽器を弾こうとしたりして初めてその低下に気づき、ショックを受ける人は少なくないようです」
若い頃は、努力次第でできなかったことがどんどんできるようになっていった。ところが、年をとるとあたりまえにできていたことがそのとおりにはできなくなる。「こんなはずはない」と驚いたり、不安になったりする人もいるだろう。中にはストレスをためこみ、老年期うつを発症するケースもある。
老年期うつは、抑うつ気分や不安、罪悪感、食欲減退、不眠、思考力や記憶力の低下といった一般的なうつの症状のほか、頭痛、肩こり、吐き気などの身体症状も目立つという。ただの体調不良と軽視し、見逃しやすいので要注意だ。うつ病と同様、老年期うつも認知症の危険因子と考えられており、油断できない。
老いたルービンシュタインがとった戦略
一方で、残された機能を生かし、人生を思いきり楽しむ人もいる。
代表的な例がポーランド出身のピアニスト、ルービンシュタイン(1887~ 1982年)だ。卓越した技術もさることながら、レパートリーの広さでも抜きんでており、リサイタルではさまざまな作曲家の曲を弾きこなすことで知られた。
そんな彼も高齢になると次第に指が不自由になってくる。以前のような演奏ができなくなってきた、と気づいたルービンシュタインはある戦略を実行した。レパートリーを厳選し、1曲にかける練習時間を増やしたのだ。
また、速く弾けなくなってきたため、「ここは」と思うところだけスピードを上げるようにした。その前の部分はあえてゆっくり弾き、コントラストを強調させた。抑揚の利いたみごとな演奏は人々を魅了し、ルービンシュタインは晩年も高い評価を受けることとなった――。
「ルービンシュタインがとった対策は、心理学の世界では『SOC』と呼ばれます。SOCはSelective Optimization with Compensation(選択最適化補償)の略。ドイツ出身の心理学者、ポール・バルテスが提唱した理論です」と西田さんは説明する。
具体的にどんな理論なのだろう?
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