理由を探る認知症ケア フォロー

いつも入浴を断る女性に響いた ヘルパーが漏らした一言

ペホス・認知症ケアアドバイザー
 
 

 夫の死後、1人暮らしを続けている80歳のFさん。要介護認定の申請をすると、軽度のアルツハイマー型認知症と分かり、要介護1の判定を受けました。「入浴見守り」などの介護サービスを頼めることになり、自宅を訪れるようになったホームヘルパーとFさんは、世間話を通じて信頼関係を深めていきます。しかし、Fさんはヘルパーによるサービスの提供を「自分でできるから大丈夫」と断ることが増えてしまいました。困ったヘルパーは、Fさんに思わずある一言を漏らしてしまいます。すると、Fさんはすんなりとお風呂に入ってくれるように。Fさんを変えた一言とは、どんな言葉だったのでしょうか。認知症ケアアドバイザーのペホスさんが解説します。

遠方に暮らす母親を心配する娘

 Fさん(80歳、女性)は8年前に夫をみとって以来、1人暮らしをしています。娘さんが2人いますが、2人とも飛行機や新幹線で移動しなければならないほど離れた場所で生活しているため、年に2〜4回くらいしか帰省できません。娘さんたちは、1人暮らしをしているFさんのことが気がかりでなりませんでした。

 そこで、長女が自分の近くに呼び寄せようと引っ越しを提案しましたが、「お父さんとの思い出がある家を離れたくないし、いまさら知らない土地に行くのは気乗りがしない」とFさんが望まなかったため、呼び寄せることができずにいました。

 そして、1人暮らしも3年が経過しようとしている頃に、ご近所の民生委員さんから「最近、お母さんがゴミの日を間違えたりしているよ」と連絡がありました。

 長女はいよいよ心配になり、Fさんと連絡を取ったところ、「ゴミの日は、ちょっと勘違いしただけよ。他のことは間違ったりしてないし、あんたの名前だって忘れてないんだから、大丈夫よ」と言われ、話が終わってしまいました。

初めて介護相談をすることに

 長女は、この電話のやりとりから、ますます先行きの不安が募り、Fさんの地域を担当する介護の相談窓口(地域包括支援センター)に相談することにしました。

 電話に出た相談員にこれまでの経緯を伝え、自宅での面談をお願いし、長女も面談に合わせて帰省することにしました。

 そして、面談中、再三にわたって…

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認知症ケアアドバイザー

ペ・ホス(裵鎬洙) 1973年生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリ、訪問介護、介護老人保健施設などで相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にて、コーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、かかわる人の内面の「あり方」が、“人”や“場”に与える影響の大きさを実感。それらの経験を元に現在、「認知症ケアアドバイザー」「メンタルコーチ」「研修講師」として、介護に携わるさまざまな立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の大切さの発見を促す研修やコーチングセッションを提供している。著書に「理由を探る認知症ケア 関わり方が180度変わる本」。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。ミカタプラス代表。→→→個別の相談をご希望の方はこちら