くらし高齢化時代の相続税対策

弱気な母親の財産を勝手に分け合う娘2人の“強欲”

広田龍介 / 税理士

 年をとると、親の権威は弱まる。自分の気力体力に自信がなくなり、子供たちの力に頼ることが多くなるからだ。生活資金の出し入れや生活用品の買い出し、病院に通うのにも子供頼みになる。子供に指図していたころとはまったく逆の立場だが、これが世代交代というものだろう。

 財産管理を任された子供たちは、親の財産にも遠慮なく口を出すようになる。相続税を負担するのは自分たちで、親ではない。その負担を軽くするために、生前贈与で早めに親から財産を取り上げ、節税する。「1円でも税金を節約し、財産を引き継ぎたい」−−それが相続人である子供の本音だ。

 相続税節税のため、銀行融資を受けて不動産に投資させたり、建物を造らせたりもする。やりすぎると税務リスクも生じる。そんな目にあったA子さん(89)の事例を紹介する。

相談もなく自宅土地を半分に分ける娘たち

 A子さんは、東京都内の高級住宅地に約600平方メートルの土地と自宅を持っている。築40年ほどの建物は地味だが、離れには茶室があり、落ち着いたたたずまいだ。夫に先立たれ、A子さんが1人で住んでいる。長女、次女の娘2人は嫁いで別の場所で暮らしている。

 以前は着物姿で社交的な性格だった。ところが、自宅の庭で転び、足の骨を折って車椅子に頼るようになってから、健康に自信を失いかけている。

 A子さんは自宅以外にも不動産を持っている。相続税を納められる程度の金融資産もある。しかし、娘2人がA子さんに相談することなく、これらの財産を2分の1ずつ分ける相談を始めてしまったのである。

 自宅敷地を真ん中で分割し、300平方メートルずつに分ける▽金融資産は、A子さんの今後の生活資金として5000万円を取り分けたあと、2人が等分し、A子さんの名義で運用する▽その他の不動産はA子さんから相続した後、売却する−−などなどだ。気が早いというか、勝手というか……。

元気な母に生前対策を強要

 長女と次女は相談の後、さっそく行動に移った。長女はまず、自分が相続する土地の空いている部分に、一戸建ての賃貸用住宅を建てるようA子さんに頼んだ。賃貸用住宅を建てることで、土地建物の相続税評価額を大きく下げることができるからだ。

 一方、次女は自分の孫、つまりA子さんから見るとひ孫への教育資金1500万円を贈与するようA子さんに迫った。さらに自分の子供には住宅資金1000万円を贈与するよう求めた。いずれも、非課税措置のある贈与特例である。

 相続税や贈与税をできるだけ減らそうと考えた娘たちが、A子さんが生きている間に生前対策を無理強いした、と言ったら言い過ぎだろうか。それほど娘2人の要求は強かった。A子さんは自分の財産が手元からどんどん離れていくことが不安だった。娘2人がさらに、残ったお金にも手を出してくるのではないかと思うと、夜も眠れないほどだった。

 家族が財産を巡って争うのを防ぐために、生前対策は重要だ。しかしこのケースは、相続の前にすで親子の気持ちが離れ、A子さんが心安らかな老後を送れていない点で本末転倒だ。家族とは何か、改めて考えさせられたケースだった。

 <「高齢化時代の相続税対策」は毎週日曜日更新です。次回は4月24日です>

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広田龍介

広田龍介

税理士

1952年、福島県いわき市生まれ。85年税理士登録。東京・赤坂で広田龍介税理士事務所を開設。法人・個人の確定申告、相続税申告、不動産の有効活用などを中心に幅広くコンサルティング活動を続けている。相続税に関する講演やセミナーも開催している。

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