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薬物依存に刑罰は有効か

松本俊彦・国立精神・神経医療研究センター部長

 昨年、芸能人の覚醒剤事件に絡み、私はテレビでこうコメントした。「薬物依存症からの回復には刑罰だけでは限界がある。取り締まりで薬物の供給を断つのは大事だが、同時に薬物依存症の治療体制を整備し、需要を減らす努力も必要だ」。その後、番組には視聴者から「犯罪者に治療なんて税金の無駄遣い。厳罰化しろ」といった感想が多数寄せられたと知り、気持ちが暗然とした。

 刑罰は薬物依存症からの回復に有効なのか。もう一つエピソードを紹介しよう。数年前、刑務所で薬物乱用離脱プログラムの講師を務めた時の話だ。私は受刑者たちに「覚醒剤をやめられず、親分や兄貴からヤキを入れられた(暴力的制裁を受けた)ことがある人、挙手して」と質問してみた。間髪おかずに全員が手を挙げた。当たり前だ。依存症という病気は、本人よりも先に周囲を悩ませ、いらだたせる。続けて私は「ヤキを入れられてど…

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国立精神・神経医療研究センター部長

まつもと・としひこ 国立精神・神経医療研究センター病院精神科医師、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長、精神保健指定医、精神保健判定医、精神神経学会精神科専門医・指導医。