くらしマンション・住宅最前線

大浴場付きマンションは高齢化時代の新たな湯治場

櫻井幸雄 / 住宅ジャーナリスト

 以前は盛んにつくられたのに、最近見なくなったのが「温泉」や「共同浴場」付きのマンション。自宅につけられた浴室とは別に、マンション全体の共用施設として大きな浴場をつくり、ゆったり入浴を楽しむ。「気持ちよさそうだ」とあこがれる人が多いのだが、一方で敬遠する人もいる。

 敬遠する理由は、ご近所さんと裸のつきあいをするのは苦手、そもそも人に裸を見られたくない、他人と同じ湯に入るのは嫌−−というものだ。人によって大歓迎されることもあるが、そっぽを向かれる可能性もある。好き嫌いがある施設なら設置しないほうがよいだろう、と採用例が減ってきたのだ。

利用する人が維持費用を負担する仕組み

 大浴場は清掃や維持のための費用が大きくなる、という問題もある。

 マンション居住者全員が毎日活用するなら、その維持費を出し合うことはできる。しかし、人によって利用度が異なると、利用しない人から不満の声が出る。「利用していないのに毎月お金を負担するのは損だ」というわけだ。

 それで、マンションの温泉や共同浴場施設は徐々に姿を消していった。

 ところが、今、大浴場付きのマンションを訪ねると、意外に評判がよいのだ。それは、不公平が出ない工夫と合理的な活用法が生み出されているからだ。

 たとえば、埼玉県のあるマンションでは、「大浴場を利用したい世帯は、1戸あたり月額2000円のパスを発行する」というシステムが採用されている。

 大浴場を利用するか、しないかは居住者の自由。「利用したい」という人だけから維持費用を集め、利用しない人には負担をかけないわけだ。この方式なら、不公平感は出ない。

 利用者は毎月2000円を払うことになるのだが、これは「1人2000円」ではなく、「1戸あたり2000円」。つまり、月額2000円でパスを手に入れれば、毎日家族で順番に利用できるわけだ。そうすると、新たな長所が生まれる。

高齢者の新たなコミュニティーとして機能

 それは、自宅のお風呂を使わずに済むので、水道代や光熱費が節約できること。加えて、風呂掃除の手間も省ける。だから、家族4人ならばお得度が増すし、高齢の夫婦2人暮らしや1人暮らし世帯では、風呂掃除しなくてよいことが喜ばれている。これなら月額2000円も損ではない。

 1カ月2000円の利用パスは、途中解約も途中契約も可能。さらに、長期不在が生じるときは、不在期間中解約も可能になる。非常によく考えられているわけだ。

 日本は少子化とともに高齢化が進み、高齢の夫婦2人暮らしや1人暮らしが増えてくると考えられている。その高齢者は一戸建てからマンションに住み替える人たちが多い。マンションのほうが段差のない生活ができるし、冬暖かく、夏は涼しい。自宅まわりの掃除やゴミ当番をしなくてよい。北国ならば雪下ろしをしなくてよいなど、多くの便利さがあるからだ。

分譲中のルネ蘇我ディアパーク(千葉市中央区)のサウナ付き大浴場。利用料は1戸あたり月額1000円だ
分譲中のルネ蘇我ディアパーク(千葉市中央区)のサウナ付き大浴場。利用料は1戸あたり月額1000円だ

 その高齢者にとって、大浴場付きのマンションは都合のよい住まいとなる。1人暮らしになっても、楽にお風呂に入ることができる。万一、風呂場で倒れても、まわりの人が助けてくれる。大浴場でコミュニケーションが生まれる利点もあるだろう。

 最近、姿を消している温泉や大浴場付きのマンション、価値をもう一度見直してもよいのではないだろうか。

 <「マンション・住宅最前線」は毎週木曜日更新です。次回は4月7日です>

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櫻井幸雄

櫻井幸雄

住宅ジャーナリスト

1954年生まれ。年間200物件以上の物件取材を行い、首都圏だけでなく全国の住宅事情に精通する。現場取材に裏打ちされた正確な市況分析、わかりやすい解説、文章のおもしろさで定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞、日刊ゲンダイで連載コラムを持ち、週刊ダイヤモンドでも定期的に住宅記事を執筆。テレビ出演も多い。近著は「不動産の法則」(ダイヤモンド社)。

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