2016年夏の就活=東京都内で
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くらし育児サバイバル

「会社人間は無理!」内定ゆとり世代女子はわがままか

藤田結子 / 明治大商学部教授

 来年4月入社の内定を得た学生の多くは10月1日または3日に、会社の内定式に参加します。彼らは「ゆとり世代」「ミレニアル世代」と呼ばれますが、その中でも女性たちは、どんな思いで内定式に臨むのでしょうか。

「仕事中毒の老害」世代に違和感

 生まれたころからインターネットが身近にある彼らは、ツイッター、インスタグラムなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を使って、レストランや旅行の写真を友だちとシェアするのが日常の一部です。高級ブランド品を無理して手に入れるような物欲はなく、気の合う仲間と日々を過ごすことを大切にする世代です。

 東京都内の大学4年生、佐藤愛さん(仮名)もその一人。来春、住宅関連会社に就職することが決まっています。彼女は「仕事でとくに大きな夢はありません。仕事の内容よりも会社で長く働くことが重要だから、職場環境が気になります」と言います。

 愛さんはまず、仕事第一というオジサン世代の価値観に共感できません。「正直、私たちゆとり世代をいびり、自分らの仕事中毒の価値観を押し付けるような老害と一緒に働きたくないんです。そう思うのはわがままでしょうか」

 愛さんはかなり具体的な人生プランを描いています。25歳で、営業職から土日休みの職に移り、結婚を前提に恋人と同棲(どうせい)。30歳で結婚し、郊外に住んで車を購入。株式などの不労所得収入も得る。35歳でマイホームを購入し、育児休業から職場復帰、というものです。

 「仕事はがんばりたいけど、家庭を一番に考えて働きたい。仕事人間にはなりたくない。給料をたくさんもらうために、朝から晩まで会社にこもって働く生活に魅力を感じません。子どもが巣立ったら、毎年海外旅行に行きたい。高齢者施設に入る可能性を考えて、貯金もします」

昨年の企業の内定式
昨年の企業の内定式

子ども2、3人の育児と仕事を両立させたい

 仕事への熱意の量には関係なく、大学4年生の女子たちには「仕事と子育ての両立」を目指す傾向があります。仕事で成功したいと願うバリキャリ系女子、田中美咲さん(大学4年生、仮名)は来春、大手金融会社に就職予定です。

 美咲さんは言います。「20代のうちは、同期の中でトップクラスの営業成績を出して、社内公募で海外留学をしたい。男性と同じぐらいバリバリ働いて、どんどんチャレンジして昇進したい。子どもができても大丈夫なように、将来の働き方もよく考えておきたいです」

 では、複数の内定を得て、働きやすさを重視して団体職員として働くことを選んだ鈴木優花さん(大学4年生、仮名)はどうでしょうか。

 「ゆるさに甘えずに常に目標を持って働いていたいです。結婚して3人子どもを産んで、仕事と両立しながら幸せな家庭を築きます」

 大学生の時点では、バリキャリ志向の女子も、ゆるキャリ志向の女子も、将来的に子どもを2〜3人持ちたいという意欲を口にします。しかし、東京都の2014年合計特殊出生率(1人の女性が生涯産む子どもの平均数)は、わずか1.15人。会社で正社員として働き続け、子供を育てる彼女たちの夢はかなうでしょうか。

女子の「ささやかな夢」がかなわない社会

 以前にも紹介しましたが、日本女子大学の大沢真知子教授らが11年、短大・高専以上の教育を受けた首都圏在住20〜40代の女性約5155人を対象に、学校卒業後のキャリア形成を調べたデータがあります。

 なんと、卒業後最初に就いた正規雇用の職を辞めないで働き続け、かつ2人以上の子供を持つ女性は、たったの1%(51人)しかいませんでした。

 企業は、女性は結婚や出産で離職することを見越して、予防策を講じてきました。男性と同様のキャリア形成の機会を与えず、「どうせ女性は辞めるから」と考え、男性にばかりやりがいのある仕事や成長の機会を与えてきたのです。それが逆に、女性たちの離職を促したとも言われています。

 女性たちが最初に就いた職を辞めた理由を見ると、「ほかにやりたい仕事があったから」(24%)「仕事に希望がもてなかったから」(13%)など、仕事に対する不満が、「結婚のため」(9%)を大きく上回っていました(「なぜ女性は仕事を辞めるのか」岩田正美・大沢真知子編著、青弓社、2015年)。

 また、「オジサン世代」の仕事第一の価値観も障害になっています。米シカゴ大学の山口一男教授によると、女性の活躍が進まない理由の一つに、長時間労働要件というべきものがあります。男性社員と同様に長い時間働くことが、総合職採用の条件や昇進の条件になっているというのです。

1990年春入社の女子学生を集めた内定式。何人が今も働き続けているだろうか=1989年10月撮影
1990年春入社の女子学生を集めた内定式。何人が今も働き続けているだろうか=1989年10月撮影

長時間の働き方は女性を活躍させない

 子供を産んで働くとき、女性が長時間要件を満たすのは相当に困難です。企業が男女の働き方を改革しなければ、若い世代が子育てしながら働き続けることは、極めて難しいのです。

 10月、何万人もの女性が希望を抱いて内定式を迎えます。多くの女子が、働き続けて子どもを2人育てる、という「ささやかな夢」をかなえたいと思っています。しかし現実にはこれまで、100人に1人しかかなわなかった夢です。

 上の世代の元・女子たちは涙をのんできました。今こそ、若い世代の希望がかなうよう、上の世代が働き方を変えていくときです。

 <「育児サバイバル」は原則月2回掲載です>

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藤田結子

藤田結子

明治大商学部教授

東京都生まれ。慶応義塾大を卒業後、大学院留学のためアメリカとイギリスに約10年間滞在。06年に英ロンドン大学で博士号を取得。11年から明治大学商学部准教授、16年10月から現職。専門は社会学。参与観察やインタビューを行う「エスノグラフィー」という手法で、日本や海外の文化、メディア、若者、消費、ジェンダー分野のフィールド調査をしている。4歳の男の子を子育て中。

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