お客様の経営とITをデザインして
未来を描き、実現する

フューチャーアーキテクトは、ITを武器に戦略から実装までを担うコンサルティング企業です。
長年培ってきた知見と技術力を強みに最新テクノロジーを駆使して戦略的なシステムを構築し、
お客様のビジネス変革を実現してきました。この特集では、フューチャーアーキテクトが
お客様とともにさまざまな課題に挑んできた事例を全5回にわたって紹介します。

髙村 健太郎、中元 淳、山本 力世の写真
CASE STUDY05 株式会社アイ・ブレインサイエンス

ベンチャースピリッツで挑む
日本初の認知症検査システム開発

“超高齢社会”が進行する日本。認知症患者は、軽度も含めると1000万人以上といわれ、今後さらなる増加が見込まれている。そんな中、ITコンサルティング大手「フューチャー」(東京都品川区)は、大阪大学発ベンチャーの「アイ・ブレインサイエンス」と共同で、人の視線を追跡する「アイトラッキング」を用いた日本初の認知機能検査システムの開発に挑んだ。ソフトウエア医療機器分野での先駆者として、世界を目指すプロジェクトを追った。(文中敬省略)

髙村 健太郎の顔写真
髙村 健太郎
株式会社アイ・ブレインサイエンス
  • 株式会社アイ・ブレインサイエンス
    代表取締役社長

基礎医学研究と並行してHOYA株式会社や株式会社ニデックにて新しい医療機器、医療材料等の開発に従事する。再生医療を手掛ける株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング(東証グロース)取締役、株式会社メディネット(東証グロース)COO、株式会社スリー・ディー・マトリックス(東証グロース)代表取締役を歴任。2019年、大阪大学発のベンチャー企業として株式会社アイ・ブレインサイエンスを設立し、代表取締役に就任。東京医科大学医学博士。専門は免疫学、眼科学。

中元 淳の顔写真
中元 淳
フューチャー株式会社
  • フューチャー株式会社
    執行役員
    AI&ヘルスケア担当

2002年、フューチャーシステムコンサルティング(現フューチャー)に新卒入社。流通小売業を中心にコンサルティングに従事し、IT戦略による企業変革、事業改革をリードしてきた実績のほか海外駐在の経験を持つ。2015年に研究開発・AI専門チームを設立するかたわら、フューチャーグループ内の複数のベンチャー企業の取締役を務める。現在はITによるイノベーションで医療・ヘルスケアの課題解決に取り組む専門チームHealthcare Innovation Groupを新規に立ち上げ、責任者として医療現場の改善とDX推進に取り組んでいる。

山本 力世の顔写真
山本 力世
フューチャー株式会社
  • フューチャー株式会社
    Strategic AI Group
    シニアアーキテクト

大学在学時より複数のIT案件に関わり、国内ITスタートアップ2社を経て2013年にフューチャーアーキテクト(現フューチャー)入社。R&D部門にてAI関連技術の検証、大手小売企業や新規事業向けのオリジナルIoTデバイスの企画・開発、農業向けサービスの新規事業立ち上げに参画。IoTやXRなどの先端技術調査・検証やAIとIoTを組み合わせた大手小売企業での実店舗PoC、医療関連機器のIoT化に従事し、タブレット端末による視線を用いた医療機器プログラム(SaMD)を共同研究・開発・製品化を手掛けている。

目の動きをタブレットのカメラで追う「日本初」の検査機器開発

日本は、人口に対する65歳以上の割合(高齢化率)が21%を超える“超高齢社会”に突入した。認知症は高齢者ほど有病率が高く、高齢化率の上昇は患者数の増加につながる。2024年5月、国の「認知症施策推進関係者会議」で公表された「認知症及び軽度認知障がい(MCI)の有病率調査ならびに将来統計に関する研究」によると、2022年の認知症患者数は約443万人、有病率は12.3%。さらに軽度認知障がいも加えると、患者数の合計は1000万人を超え、実に高齢者の3~4人に1人の割合を占める。そして、2040年には認知症患者数は約584万人、軽度認知障がいも加えた患者数は1197万人となると推計されている。

認知症には特効薬がなく、早期発見で進行を抑えるのが最大の対策だ。しかし、初期段階では、加齢によるもの忘れなのか認知症によるものかの区別がつきにくく、病院に連れていくことが難しい。さらに、認知症の検査は専門医や臨床心理士がインタビューを行って診断するが、質問数が多く一人あたり20分近くかかるため、認知症の自覚がない患者にとっては相当なストレスとなる。そうした検査への拒否感から、どうしても発見が遅れがちになるのが大きな課題となっていた。

そんな中、大阪大学大学院准教授の武田朱公は、患者の目の動きを追う「アイトラッキング」によって、ストレスなく認知症の検査ができる評価方法の開発を進めていた。だが当時は、高価で大型の専門的な機器しかアイトラッキングができなかったため、クリニックなど臨床の現場に導入するのは現実的ではなかった。そこで2018年春、武田は実用化の可能性を見出したく、ITの知見を活用したバイオメディカル分野でのビッグデータ分析など、医療機関や研究機関と連携して開発に取り組んでいたフューチャーに相談を持ちかけた。

研究開発・AI専門チームを設立していた中元淳は、「武田先生から『タブレットに付いているカメラを使用することで検査機器を小型化し、臨床の現場で使えるようにするという発想はあるものの、どうやって実現すればいいのか全く見当がつかない』という話を聞き、早速試してみようと意気投合した。我々エンジニアは技術的に面白いことが大好きだし、社会的にも意義のあることなので挑戦したいと思った」と出会いを語る。

開発の責任者として白羽の矢がたったのは、フューチャーの研究開発部門でAI関連技術の検証、大手小売企業や新規事業向けのオリジナルIoTデバイスの企画・開発などを担当してきた山本力世だ。「ちょうどその時期、iPhone XにTrueDepthカメラが初めて実装され、顔認証をはじめ顔の表情の変化や目の動きなどのトラッキングもできるようになった。このカメラを利用すれば、数百万円する高額なデバイスの精度まではいかなくても、近いことができるはず」と開発をスタートさせた。

現在は、カメラで目の動きのデータを直接取り出すサービスがOSに標準搭載されている。だが、当時そのようなサービスはなく、山本は試行錯誤しながら独自の計算式を作り込んで、数カ月かけてプロトタイプを開発。そこから実験を繰り返してデータを積み重ね、約1年かけてようやく実用化が見えてきた。iPadを3分間見るだけで認知症かどうかを判断できる画期的なものだった。

中元 淳の写真

世界展開の可能性を秘めた「SaMD」

実験が繰り返されていた2019年2月、医学博士でもあり、医療機器や医療材料などの開発に従事してきた髙村健太郎に、阪大からプロジェクトの事業化の可能性について声がかかった。「ずっとメディカルヘルスケアの分野で仕事をしてきたが、プロトタイプを見て、これを医療機器にできたら普遍的に使えるし、世の中の役に立つ」と直感した。長年の経験を活かして厚労省や国の検査機関などへ事前に相談したところ、「これはいける」という手応えを感じたという。そこから髙村は急ピッチで準備を進め、半年後の11月には大学発ベンチャーとして「アイ・ブレインサイエンス」を設立した。

髙村が事業化の成功を確信したもう一つは、世界展開の可能性だった。「プロトタイプの段階で、画面に文字が少なく言語特異性が低かった。認知症は世界的にも増えていて、特にアジア圏は増加率が高い。ASEAN加盟国では日本での承認をもとに規制当局の登録を受けられる国もあるので、まずはアジアからスケールできる。さらに、このソリューションは『Software as a Medical Device(SaMD)』と呼ばれる医療機器のソフトウエアなので、通常の医療機器なら輸出のために必要な輸送コストや現地生産のための設備投資などが一切かからないことに、大きな優位性を感じた」と語る。

髙村 健太郎の写真

2020年4月、フューチャーはアイ・ブレインサイエンスと出資・協業契約を結び、2021年2月にはついにアイトラッキング式神経心理検査用プログラム「ミレボ」の初版を完成させた。その後も改修を重ね、同年12月に医薬品医療機器総合機構(PMDA)へ医療機器承認を申請、保険診療時の利用を記録するなどの実績管理システムの構築を経て、2023年10月、ミレボは日本初の認知症検査機器のソフトウエアとして承認された。

医療機器の開発について、中元は「これまでITコンサルタントとしてさまざまな業種・業界のミッションクリティカルなシステムを多数手掛けてきた。会社としてもPOSのハードウエアからソフトウエアまで作ってきた長年の実績があり、緻密に品質を作り込んでいくことには自信があったが、医療機器は人の体に影響するものなので、今まで以上に安全性と品質に細心の注意を払った。また医療機器として承認を得るには、徹底した安全管理、品質管理をしているかも関わってくる。ハードルは高かったが、新しいことへの挑戦と品質への訴求を両立できる我々だからこそ実現できたと思っている」と胸を張る。山本は「医療機器の規格に適合する作業やその体制づくりは大変だったが、幅広い業界で開発に携わってきた経験がさまざまな場面で役に立った」と振り返る。

髙村も「フューチャーは技術の提供だけでなく、何もないゼロの段階から会社として本腰を入れ、医療の立場に沿った体制で取り組んでもらえたのが非常にありがたかった。ITソリューションを持っているだけの会社ではできないことだ」と高く評価する。

山本 力世の写真

“輸入型”の医療業界に一石を投じる

医療機器承認前の2020年8月には、ミレボと同じ技術を使った一般向け健康アプリ「MIRUDAKE」の販売を開始した。髙村は「現在は医療行為に当たらない範囲で、介護業界やスポーツクラブなどで利用されている。高齢者自身やその家族が認知機能を調べる機会はなかなかないので、まずは高齢者が自分の認知力を知り、運動や食事などで改善しようとするモチベーションになればいい」と期待する。

国内の承認を受けて、いよいよ本格的なスタートを切ったミレボは、インドネシアの承認を受けて、マレーシア、タイ、ベトナム、台湾などアジア諸国への展開を進めている。髙村は「アジアでは医療体制が整っていないところが多く、がんや心臓疾患などに比べると認知症の診断自体が盛んではないため、ミレボのように簡単に診断できるものは非常に評判がいい。特にインドネシアなど島の多い国では、iPadひとつで持ち運べる利便性が喜ばれている」と語る。

今回のプロジェクトについて、山本は「iPadの新機能を使った開発を実現できたので、今後も新たに市場に出てくる一般普及型のデバイスを有効活用したサービスを創る研究を続けていきたい。社会的なインパクトと、技術者の好物であるワクワクする新技術が重なった今回のプロジェクトには、大きなやりがいを感じた」と笑顔を見せる。

中元は「我々は常にベンチャースピリッツを持ち続け、パートナー企業と共にリスクを取って新しいことにチャレンジし続けている。今後もアイ・ブレインサイエンスと協力してより高度なソリューションを開発し、世界各地で起こりつつある高齢化社会のさまざまな課題を解決していきたい。そして、今回のSaMD開発で培ったノウハウをコンサルティングとして社会に還元していきたい」と語る。

髙村は「日本は高齢社会の“先進国”。これから高齢化が進む国から参考にしてもらえるよう、リーダーシップを取っていきたいと考えている。長く医療業界に携わってきたが、医療機器も医薬品もほとんど欧米中心の“輸入型”だった。SaMDの分野で日本から世界に輸出していくことで、医療業界に一石を投じたい」と決意を述べた。

フューチャーは、2024年8月からSaMDの研究開発・製造販売の知見を持つコンサルタントによる、新たな医療サービスの社会実装の加速に貢献する伴走型支援を開始した。高齢化社会への対応や医療のDX化などさまざまな社会課題に、フューチャーは技術とベンチャースピリットで立ち向かっていくだろう。

中元 淳、髙村 健太郎、山本 力世の写真
CLIENT INFORMATION
会社名
株式会社アイ・ブレインサイエンス
代表取締役社長
髙村 健太郎
設立
2019年11月13日
従業員数
19名 ※2024年9月1日時点
URL
https://www.ai-brainscience.co.jp/
会社名
フューチャー株式会社
代表取締役会長兼社長 グループCEO
金丸 恭文
設立
1989年11月28日
従業員数
連結:2,948名 (2023年12月末現在)
URL
https://www.future.co.jp/