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パンデミックは気候危機に何をもたらすのか

八田浩輔・ニューヨーク支局専門記者
新型コロナウイルスの感染拡大が深刻なスペインの高速道路。人の移動が止まった影響で、各地で温室効果ガスと大気汚染物質の排出量が大きく減っている=3月15日、AP
新型コロナウイルスの感染拡大が深刻なスペインの高速道路。人の移動が止まった影響で、各地で温室効果ガスと大気汚染物質の排出量が大きく減っている=3月15日、AP

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)の「副作用」として各地で温室効果ガスや大気汚染物質の排出量が急減している。しかしコロナ危機は、中長期的には気候変動対策に大きな影を落としかねない。世界的な景気後退が確実視される中、「脱炭素社会」の早期実現に向けた関心や投資の機運がしぼむ可能性がある。

大きく減った温室効果ガスと大気汚染物質

 フィンランドの研究機関の推計によると、中国では3月1日までの4週間で二酸化炭素(CO2)排出量は2億トン減少し、前年同期比では25%減となった。この間の削減量はオランダの年間排出量に相当するという。2月から中国政府が全国規模で感染拡大を抑止する措置を講じた影響で経済活動は落ち込み、国内の発電所の石炭消費量は同期間に3割減った。

 発生源の中国から遅れること1カ月超で「世界の流行の中心地」(世界保健機関=WHO)となった欧州でも同様の状況がみられる。

 独シンクタンク「アゴラ・エネルギーベンデ」は3月下旬、2020年のドイツの温室効果ガス排出量は少なくとも5000万トン、場合によっては1億2000万トン減るとの予測を発表した。ドイツは20年に温室効果ガス排出量を1990年比で40%削減する目標を掲げてきた。この目標は数カ月前まで実現不可能とみられていたが、「コロナ危機」によって達成が見込まれるという皮肉な状況を生み出した。

 欧州連合(EU)の専門機関が…

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ニューヨーク支局専門記者

2004年入社。科学環境部、ブリュッセル支局などを経て現職。気候変動をめぐる国際政治の動向を追いかけています。共著に「オシント新時代 ルポ・情報戦争」(毎日新聞出版)、「偽りの薬」(新潮文庫)など