探究心を刺激する「本物」との出会い アートが子どもたちに与える好影響

アートが子どもたちに与える好影響
消火栓の取っ手がワニの顔に、ヒーターの側面がオウムの横顔に、穴の空いた木の幹がゲームに出てくるキャラクターに……。普段見ている何気ない物が、別の物に見えたことはないだろうか。
Bunkamuraオープンヴィレッジの活動の一環で、2023年から文化・芸術を多角的に捉え体感しながら知識や教養を身につけ感性を育んでいく「探究型・芸術体感プログラム」を実施している。第1回は大日向中学校(長野県佐久穂町)でプロの写真家らによるワークショップやWEB写真展の開催を行った。

2024年6月には、プログラムの第2回として、「イエナプラン」という自主性を重んじる教育方針を掲げる大日向小学校(長野県佐久穂町)での「ワールドオリエンテーション」と呼ばれる探究型学習の時間の中で、3・4年生の子どもたち約60人を対象にワークショップを開催した。ワークショップでは鈴木康広さんを招いた。鈴木さんは2024年夏に二子玉川ライズ スタジオ & ホールにてBunkamuraの主催・制作により開催した「鈴木康広展 ただ今、発見しています。」で独創的な作品世界を展開するなど精力的に活動するアーティストだ。
あるものが別のものに「似ている」という気づきから、何かに置き換えて表現する「見立て」をテーマに子どもたちと一緒に学校の校内で見立て探しを行い、さまざまな発見を共有し合った。
教頭の青山光一さんは「子どもたちが “本物の”アーティストと直にふれ合うことによって教育の技術や手法を超えた化学反応が生まれた」と今回のワークショップの意義を語る。

大日向小学校では、6月のワークショップ終了後も「見立て」への探究心を深め、作品制作に取り組んだ。サボテンが「毒キノコ」に見えたという内保いのりさんは「普段は見ないようなところも探して楽しかった」と笑顔を見せた。
今回のプログラムに参加する上で、「子どもたちの探究心のスイッチを押してほしい」と期待していた青山さんだが、ワークショップを通じて驚いたことがあるという。

「普段の学習になかなか向き合えない子たちが前のめりで参加していて、終わったあともその“余韻”のようなものを残していると感じました。ワークショップが終わったあと、帰りのバスの中で『○○に見える』と言って写真を撮っている子もいました。多分それは『授業でやるから』やっているわけじゃない。学校の中だけで終わる学びではなく、その子の中にちゃんと残っている学びになっていると感じました」

ワークショップに参加した浦中冴さんも「このワークショップのおかげで、いろいろなところを見て『○○に見える』と気づくようになりました」と話しており、自発的で継続性を持った学びにつながっていることがうかがえる。
また、日本の多くの公立学校ではいわゆる「必要5科目」の評価に重きが置かれている一方、大日向小学校・中学校が採り入れているイエナプランでは「表現すること」を非常に大事にしていると、青山さんは言う。
「人間は国語と算数だけでできているわけではないと思います。歌を歌うとか、体を使って表現するとか、人前でプレゼンするとか、そういったことも子どもたちの大切な資質だと思いますし、右脳を刺激する教育が必要です。それが柔軟性や人への寛容さにつながる気がしているんです。Bunkamuraオープンヴィレッジの取り組みは子どもたちの中にあるものを『本物の人』との触れ合いによって、引き出しているのだろうと思うと、大日向小学校が目指す教育のあり方と、非常に相性がいいと思います」

ワークショップに取り組む中で、生徒同士の関係の変化に気づいた子もいる。松本あかりさんは「それまでは仲良くなかった子同士が、『これ面白いよね』って言い合って楽しそうにしていて、『見立て』の力はすごいなあ、と思いました」と話していた。「見立て」のワークショップは青山さんのいう「人への柔軟さ」をまさに育んでいたのかもしれない。
担任教諭に当たる「グループリーダー」の原田友美さんは、前任地で図工の教員をしており、鈴木さんが教科書に載っていたことを覚えているという。その上で、鈴木さんと子どもたちが実際に対面した意味を次のように語った。
「子どもたちにも鈴木さんが教科書に載っていた話をしました。中には『自分たちとは違う世界に住んでいる人が作品を作っている』と思ってしまう子もいる。でも実際に会うと、子どもたちと地続きになるようなイメージがあります。『自分とは違うスゴイ人』ではなく、『同じ人間だ』と理解して、『自分も同じ場所に行けるかもしれない』という感覚になれるのではないかと思います」

7月には大日向小学校で子どもたちの「見立て」作品の鑑賞会が開かれ、他学年の生徒も一緒に参加した。多くの生徒から高評価を得た「うみ」という作品を撮影した熊本葵さんは「多分他の人は自分と違う見え方をしているから、何に見えるのか気になったので聞いてみたい。ワークショップに参加する前と比べていろいろな物の見え方が変わって面白かった」と話していた。
“本物の”アーティストとのふれ合いが子どもたちの学びにさまざまな好影響を与えることがわかった今回のワークショップ。探究型・芸術体感プログラムを推進するBunkamuraオープンヴィレッジの担当者は「柔軟な発想力などたくさんの可能性を秘めている子どもたちの新たな感性を引き出すお手伝いができたように思います。今後もさまざまな文化・芸術を通して、子どもたちの好奇心や探究心を刺激するアウトリーチ活動にチャレンジしてまいります」と語った。


文化・芸術を通じた新たな発見に出会える「学び」と「体験」の機会を広げるアウトリーチ活動。
詳細はこちら感性が育つ、新しい世界との出会いの場
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