Bunkamuraが発信する新たな挑戦
「Bunkamura Challenge」

音楽、美術、演劇、映画にと幅広いカルチャーの拠点として知られる東京・渋谷の複合文化施設「Bunkamura」。隣接する東急百貨店本店跡地の開発工事のため、オーチャードホールを除き、現在一時休館中だ。が、文化創造の最前線に立つ誇りを胸に、発信をやめることはない。
「これからも文化を。これからの物語を。」――新たなチャレンジのスタートを受け、Bunkamuraが策定したコーポレートメッセージだ。「一言で言うと、これは私たちからお客様への決意表明です。そこには『人々の心を動かす文化・芸術をこれからも生み出し、その感動を通して心ゆたかな明日へとつながる物語を紡いでいきたい』との思いが込められています」。嶋田社長はこう話す。「常に半歩先の文化を提供し続けることで、お客様にとっての価値ある物語、すなわち暮らしを実現していただく。私たちは、そのお手伝いをさせていただければうれしいです」
チャレンジには三つのテーマがあるという。一つ目は「間口の拡大です」と嶋田社長。「日本全体の人口が減る中、長らくBunkamuraを愛してくださるお客様に加え、新しいお客様、若いお客様に来ていただく必要があります。一方、例えば音楽の分野を楽しんでいただいている方には、演劇やミュージカルの公演にも来ていただきたい。そのためには、これまで以上に、楽しさの質を高め、またお楽しみいただける機会を増やすことが欠かせません」
二つ目は「渋谷という街にあるBunkamuraらしさを具現化し、お客様に分かりやすい形に落とし込んでいくこと」と嶋田社長。「これは、私たちBunkamuraを選んでいただくための差別化にもつながります」。そして三つ目が「この取り組みを持続していくための仕組み作りです」と強調する。「次世代を担われるアーティストとお客様、そして我々スタッフを育成する仕組みを、いかに構築していくかが鍵になります」
「間口の拡大」「Bunkamuraらしさのアピール」「次世代の育成」――東急文化村の嶋田社長が掲げる「Bunkamura Challenge」の三つのテーマ。その根幹には、1922年に目黒蒲田電鉄株式会社が設立されてから、1世紀以上の歴史を誇る東急グループが大切にしてきたDNAがある。
「東急グループは、まちづくりからスタートしている企業体です」と嶋田社長。「主役は、そこに住まわれる方たち。『住んでいてよかった』『ここに住み続けたい』と思っていただきたい。Bunkamuraも同様、まちづくりの一環なんです。お客様に『来てよかった』『また来たい』と感動してもらえること。そしてまだ、おいでいただいていないお客様には、『いつか行ってみたい』と期待を抱いていただくことが目指す姿となるのです」
Bunkamuraの強みの一つが、施設の「伝統と歴史」であるという。1989年の開業から30年余。今や東京都内の文化施設の中でも、抜群の存在感を放つ。「ただ、一言に伝統と歴史と言っても、例えば江戸時代から続く老舗のように、味や作り方をずっと守る伝統があります。けれども、Bunkamuraは違います。伝統というものの上に革新を乗せ、新しい価値を生み出す――Bunkamuraの35年は、伝統と革新の融合から新たな体験価値を創り出してきた歴史であると思います」と嶋田社長は話す。
好例が「渋谷・コクーン歌舞伎」であるという。歌舞伎俳優の十八世中村勘三郎さんと、オンシアター自由劇場の演出家、串田和美さんがタッグを組み1994年に誕生。古典歌舞伎を一から読み直し、現代に重ね合わせて演出する斬新な手法で話題作を生んできた。勘三郎さん亡き後は、息子である中村勘九郎さんと中村七之助さんがコクーン歌舞伎の屋台骨を支えながら、次代の歌舞伎界を担う主軸へと育っていった。
振り返れば、東横デパート上階の東横劇場で催された「東横歌舞伎」は、若手歌舞伎俳優たちが躍動する舞台として、「三之助」と呼ばれた四代目尾上菊之助さん(七代目尾上菊五郎さん)、六世市川新之助さん(十二世市川團十郎さん)、初世尾上辰之助さんという往年のスターを生んだ。伝統と革新を重んじるスピリットは確実に受け継がれている。

Bunkamuraが休館している数年間は、思い切ったトライアルに取り組める貴重な時間ともいえる。未来へ向け、掲げる活動方針は三つ。
一つは「あらゆる人々に文化・芸術の学びと体験の機会を」。嶋田社長は「これは間口の拡大というテーマにも関連します」とした上で、「お客様の楽しさの質を向上させるため、コンサートや舞台の鑑賞前に、関連する知識や情報を得られる機会を設けたり、公演後の余韻を深めてもらおうとアフタートークイベントを開いたりしています」と述べる。例えば、めぐろパーシモンホールで上演された「魔笛」では、「オペラ・作り方のひみつ~未来のオペラを想像する」と題した「お話とミニ・コンサート」を催し、好評を博した。
もう一つは「文化・芸術とテクノロジーの共鳴」。2024年2月、BunkamuraはNTT ArtTechnology、大日本印刷との共同開発で、バーチャル空間で文化・芸術の新しい鑑賞体験を届ける「Bunkamuraメタバース 」を開設した。12月には、渋谷ヒカリエのヒカリエホールで、イマーシブ(没入型)コンテンツを活用した「グラン・パレ・イマーシブ 永遠のミュシャ(仮称)」展が開幕する。「最新のデジタル技術による新たな鑑賞スタイルを提案できればうれしい」と嶋田社長。「経験値を蓄積し、お客様へ提供していく新たなコンテンツの検討に取り組む方針です」
三つ目は「距離を越えた文化・芸術の発信による地域振興」。嶋田社長は「我々が取り組む次世代の育成ともつながってきます。例えば、地方の自治体や教育施設と協働して、プロのアーティストを派遣し、興味のある子どもたちにレッスンを受けてもらう。その成果を発表する機会も設けます」と語る。アウトリーチ活動の一例が、2023年春から秋にかけて長野県佐久穂町の大日向中学校と連携した探究型・芸術体感プログラム。写真家のかくたみほさんからワークショップを受けた子どもたちが「自分ならではのまなざし」で佐久穂や渋谷の街を写真撮影し、WEB上で写真展を行う意欲的な内容となった。
「実は、休館期間はチャンスなんです」と嶋田社長。「2029年には、開業40年を迎えます。節目の年までに、Bunkamuraに携わる個々の人間の力も同時に引き上げたい。その格好の機会でもあるのです」

筑波大学社会工学類卒。1984年、東京急行電鉄株式会社入社。同社生活創造本部生活サービス事業部副事業部長、イッツ・コミュニケーションズ株式会社代表取締役社長などを経て2023年6月、株式会社東急文化村代表取締役社長に就任。
渋谷から広がる、文化の交差点








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