渋谷発、ワクワク文化体験。
─Bunkamuraが挑む新たなツーリズム

多様な人々や文化が交差する渋谷から、日本各地の扉を開こう──。東急文化村が運営するBunkamuraが、新たな文化情報の発信とアウトリーチ活動を推進する「Bunkamura オープンヴィレッジ」の取り組みとして、地域文化の魅力をさまざまな手段で伝え、旅のきっかけを促す「文化ツーリズム」に力を入れている。そんな中、世界初・日本発のコンテンツである「マンガデザイン(R)」を学ぶ学生が独自の切り口で47都道府県の文化をマンガで紹介するサイトがこのほどオープンし、若者目線で地域を結ぶ新たな情報発信の窓口として話題になっている。その狙いと最終的に目指すゴールとは──。
文化ツーリズムとは、日本各地の地域に根ざした文化や名品を紹介することで、見た人に実際に訪れたいと思ってもらい、地域振興につなげることを目指す取り組みのこと。
事業開始のきっかけは2023年、隣接する土地の開発計画「Shibuya Upper West Project」に伴うBunkamuraの長期休館だった。休館をきっかけに文化・芸術のリアル体験を提供してきた「場」を飛び出し、今度はアーティストたちが自ら地方に赴いて地域の子どもたちに芸術に触れる「学び」と「体験」機会を提供する活動を新たにスタートした。長野県の大日向小・中学校と交流を続け、地元の自治体や教育機関の担当者と話しをするうちに、彼らが地元のPRや発信力に課題を抱えていることに気づき、こんなアイデアが浮かんだ。
「多彩な文化・芸術活動を伝えてきた自分たちが彼らの代わりに情報発信メディアとして日本各地の文化の魅力を伝えることで、より深く地域の振興に貢献できるのでは」
渋谷を拠点に35年にわたり年間約300万人の来館者に対して音楽、演劇などあらゆるジャンルの国内外最高峰のアーティストによるライブパフォーマンスや近代美術の流れを焦点に置いた展覧会やヨーロッパやアジア映画を中心に芸術性の高い映画作品を提供してきた長年の実績と、そのネットワークで培った豊富なリソースの強みを生かせば、日本各地の伝統文化などの魅力をよりストーリー性を持たせて奥深く伝えられ、見た人が「実際に訪れたい、体験したい」と、感じられるのでは──そんな思いがふくらんだ。
さらに、「Shibuya Upper West Project」とともに文化複合拠点として生まれ変わるBunkamuraの再開業を見据え、さまざまな国籍や若者が集まる渋谷から世界に向けてより幅広い層にアプローチする構想とも相まって、プロジェクトが本格スタートした。
そんなBunkamuraが新たな発信の窓口として目をつけたのが、日本発コンテンツ「マンガ」だ。昨年6月、BunkamuraがNTT ArtTechnologyとDNP大日本印刷と共同開発したBunkamuraメタバース空間で「マンガデザイン(R)」を学ぶ大阪芸術大学の学生と連携して彼らが探して描いた北海道の魅力を紹介する展示を実施したところ、学生と同じ年代の若者層など、これまでにない層との接点を築くことができた。この経験を踏まえ、同年10月に「学生×文化×マンガ」の掛け合わせである「マンガデザインで文化ツーリズム」サイトをオープンし、今年4月には47都道府県全てのティザーコンテンツがそろった。

オープンから数ヶ月経ち、北海道や京都など定番観光エリアのほか、自分の地元をチェックする人など、これまでに多くの反響をよんでいる。
学生たちが「マンガデザイン(R)」で描いた地域の文化で、実際に渋谷で体感できるモノやコトを紹介する「シブヤで文化ツーリズム」も2025年6月からスタートし、広がりも見せている。
渋谷ヒカリエ8Fにある日本各地のロングライフデザインを発信する「d47」の併設ショップで滋賀県のページで描かれた地元のパン屋「つるやパン」のイベントが月に1回開催されており、その情報が紹介されている。

「学生ならではの目線で調べた内容であることが最大の特徴です」。
そう話すのは、「マンガデザイン(R)」の生みの親である、大阪芸術大学客員教授で「マンガデザイナーズラボ」代表の吉良俊彦氏。「マンガデザイン(R)」とは、世界初・日本発の「マンガ」をグラフィックデザイン化したもので、広告主が版権を気にせず、マンガが持つわかりやすさやストーリー性などの強みを最大限に生かして柔軟に思いを伝えられる広告モデルのこと。
吉良氏によると、作品は、同大で吉良氏の授業を受講するデザイン学科、キャラクター造形学科など「クリエイターの卵」約100人が授業の一環として制作している。学生は「一地域、一週間」という短いスパンで課題を与えられ、描くネタ探しから作品の仕上げまでをこなす。学生自身が都道府県のことを調べるため、一般的な観光ガイドにはない情報が集まると言う。
完成した作品は吉良氏ら複数のマンガデザイナーズラボのデザイナーが「作品としての面白さ」「ネタの内容」などの審査基準でコンペティション形式で選考し、上位の評価を得た者の作品がBunkamuraウェブ上にアップされる。これまでに掲載された作品は岩手の「もち膳」、島根の「でやんな祭」など、学生が目を付けた地元のニッチな名物や伝統文化だったり、京都の「京舞」や静岡の「静岡おでん」など定番の名物でもコミカルなタッチから繊細な技法を駆使した作品など、バラエティ豊かで見るだけでワクワクするものばかりだ。




発表を通じて学生は自分の強みを認識することができたり、ネタ探しのために家族との会話の機会が増えたり、実際に自分が担当した地域を訪れるなど、学生自身の成長にもつながっていると言う。吉良氏は今後について「ウェブ上だけでなく、実際の体験もできるリアル展示をぜひ実施したい」と更なる事業の発展に期待を寄せる。
また、地元・渋谷の観光PRを担う一般財団法人「渋谷区観光協会」も文化ツーリズムの活動に強く共感している。PR担当の西祐美子さんによると、同協会では2023年から「持続可能な観光」を推進するプロジェクトを立ち上げ、渋谷にある神社仏閣や緑など、歴史ある魅力的な観光資源の掘り起こしやサステナブルツーリズムを行政や地元企業など官民一体となって進めている。その一つの取り組みが文化ツーリズムに当たると言う。
Bunkamuraの文化ツーリズムについては、「その分野に精通している方がガイドするツアーは、観光やガイドのプロとはまた違った楽しみ方ができ、心に響き、残るものになるため、Bunkamuraの文化ツーリズムの活動にとても期待しています」と高く評価し、今後について、「渋谷を楽しむ新たな観光として、ぜひ一緒に盛り上げていきたいと思っています」とコメントした。
プロジェクト全体を通して、Bunkamuraが目指す最終的なゴールは「渋谷でのリアル体験創出」だ。
これまでBunkamuraが手がけてきたコンサート、演劇、アートなどは「その場所に行かないとできない特別な体験」だった。来た人がアーティストや作品が放つ空気を感じることで、思い入れを持って自分の体験として蓄積されることを長年の活動から実感しており、日本の文化も、五感をフルに生かしてリアル体験することで、より思い入れを持って実際に現地を訪れたくなるのでは──との思いがある。
今後はBunkamuraの拠点であり、さまざまな国籍や年代の人が行き交う「文化のるつぼ」でもある渋谷から、学生が見つけた日本各地の文化を気軽に体験できるコトやモノを提供し、世界中の人が日本各地の文化を知るきっかけ作りを創出していく予定だ。
渋谷発の新たなワクワク体験に、ぜひ期待して欲しい。
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