法政大総長が語る 初の「系列校化」がひらく学びの形とは
2027年春から、私立の中高一貫女子校「東京家政学院中学校・高校」(東京都千代田区)は「法政大学千代田三番町中学校・高校」として新たなスタートを切る。法政大にとって初となる「系列校」の誕生だ。
中高大連携の可能性や女子教育への思い、これから育てたい人材像について、法政大のダイアナ・コー総長に聞いた。
初の系列校 連携の経緯は?
――法政大にとって初めての系列校です。東京家政学院中高との連携に至った経緯を教えてください。
◆大学を取り巻く環境が大きく変化する中で、安定的に学生を確保していくことは重要な課題です。その一つの選択肢として系列校という形に至りました。
運営はこれまで同様に学校法人東京家政学院が行うため、付属校より独立性がありますが、法政大の教育理念を共有しながら、協定校よりもさらに深い連携ができる存在です。
それぞれの学校が持つ歴史や特色を生かし合う関係性の中で、多様な背景を持った生徒が大学へ進学してくれることを期待しています。
本学にとって今回が初めての系列校ですが、新しい高大連携のモデルになり得る取り組みだと考えています。
女子教育の伝統が持つ価値と可能性
――今回の系列校化で特に期待していることは何でしょうか。
◆まず期待しているのは、東京家政学院が培ってきた歴史や教育理念との相乗効果です。
東京家政学院の建学の精神には「知識と技術を高め、徳性を養う」という考えがあります。一方、法政大学は「自由を生き抜く実践知」を掲げています。
歴史や成り立ちは異なりますが、主体的に学び、社会で生きる力を育てようとする点で親和性が高いと感じています。
また、本学の市ケ谷キャンパスと学校の距離が非常に近いことも大きな強みです。大学教員による講座や大学生との交流など、日常的な連携が取りやすい環境があります。物理的な近さが教育的な近さにもつながり、新しい学びの可能性を広げてくれると期待しています。
――東京家政学院は100年以上にわたり女子教育を続けてきました。その伝統をどのように生かしていきますか。
◆私自身、女子校出身なので女子校ならではの良さを実感しています。
100年以上前に女性へ教育機会を提供する学校をつくったこと自体が非常に先駆的な試みでした。その精神は今も大きな価値を持っていると思います。
女子校の魅力の一つは、固定的な役割分担に縛られず、自分らしく挑戦できることです。東京家政学院にも女子生徒が一人ひとり自分らしく成長し、それぞれの可能性を広げていくことを大切にする、相通じる考え方があると感じています。
だからこそ、女子教育の歴史を守るだけでなく、その先駆性や挑戦する精神を未来につなげていきたい。社会が変化する中でも、主体性や公平性を大切にする教育をさらに発展させたいと考えています。
高大連携がもたらすもの
――具体的にはどのような連携を進めていくのでしょうか。
◆例えば、大学教員による講座やオムニバス形式の授業、大学生との交流、SDGsに関する共同活動などです。
授業だけでなく、課外活動や探究活動の場面でも一緒に学ぶ機会を増やしていけるでしょう。
また、法政大学には多くの留学生がいます。留学生と中高生が交流する場を設ければ、生徒にとっても大きな刺激になります。異なる価値観や文化に触れる経験は、将来を考える上で非常に重要だと思います。
――高大連携にはどのような教育的効果が期待できますか。
◆大学との距離が近くなることで、生徒たちはより早い段階から将来の進路を具体的に考えられるようになります。
例えば理系進学を目指すにはどのような準備が必要なのか、大学ではどんな学びが行われているのか。実際の大学生や教員と接することで理解が深まります。
大学案内やパンフレットだけでは伝わらないリアルな情報に触れられるのも大きな利点です。「こういう先輩を目指したい」「この分野を学びたい」という具体的な目標やイメージを持ちやすくなり、学習意欲の向上にもつながるでしょう。
結果として、生徒にとっても大学にとってもミスマッチを減らすことができると考えています。
――中学生との連携にも力を入れていく考えですか。
◆そうですね。むしろ中学生の段階から多様な学びに触れることは非常に重要だと思います。
日本では高校で文系・理系を選択するケースが多く、それ以前からさまざまな分野を知る機会が必要です。
中学生は考え方が柔軟で、新しいことに挑戦する意欲もあります。大学生との交流や探究活動を通じて視野を広げ、自分自身の可能性を発見してほしい。早い段階で多様な選択肢に触れることが、その後の進路選択にも大きく役立つはずです。
目指す人材像とは
――どのような生徒に入学してほしいですか。
◆自分らしさを大切にしながら、多様な人と協働できる生徒です。
そして何より、好奇心を持ち、自分から挑戦していこうとする人に来てもらいたいですね。
若い世代は無限の可能性を持っています。先入観にとらわれず、新しいことに挑戦できる人ほど大きく成長します。そのような生徒たちが集まる学校になってほしいと思っています。
例えばAIが急速に発展していくこれからの時代は、正解を覚える力以上に「問いを立てる力」が重要になります。
AIは質問に答えることはできますが、どんな問いを立てるのかは人間の役割です。社会課題の多くには一つの正解がありません。だからこそ、自ら考え、情報を見極め、判断する力が必要になります。
SNSやAIが普及した今だからこそ、批判的思考力や探究心が不可欠です。同時に、人間ならではの感性や想像力も大切にしたい。理系・文系という枠を超え、豊かな感性と知性の両方を育む教育がますます重要になると思います。
――最後に受験を考えている生徒へメッセージをお願いします。
◆社会の固定観念や周囲の期待に縛られるのではなく、自分自身の問いを持ってほしいと思います。
そして、自分らしく、楽しく学び続けてください。探究とは答えを急ぐことではなく、考える過程そのものを楽しむことでもあります。
法政大と東京家政学院が目指すのは、「自由を生き抜く実践知」を身につけながら、自ら未来を切り開いていく人を育てることです。新しい系列校の学びを通じて、一人ひとりが自分の可能性を広げてくれることを期待しています。
Diana Khor(ダイアナ・コー)
1960年生まれ。多様な文化が共存する香港で育った。香港大学を卒業し、米スタンフォード大学大学院を修了後、1999年に法政大学第一教養部の専任講師となった。その後、法学部やグローバル教養学部の教授を務めた後、副学長や常任理事となり、2025年から総長に。専門は社会学、ジェンダー・セクシュアリティー研究。多様性を尊重するグローバルな大学を目指し、ダイバーシティーやDEIの推進に力を入れている。