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岩間陽子・評 『ゾルゲ伝 スターリンのマスター・エージェント』=オーウェン・マシューズ著…

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『ゾルゲ伝』
『ゾルゲ伝』

 ◆『ゾルゲ伝 スターリンのマスター・エージェント』=オーウェン・マシューズ著、鈴木規夫・加藤哲郎訳

 (みすず書房・6270円)

極東と欧州、同時代の歴史が融合

 「人々がなんと言おうと、地理は頑固だ。インド太平洋は北大西洋ではない」。マクロン仏大統領は、このようなコメントで、NATO(北大西洋条約機構)の東京事務所開設に反対した。大統領には、是非『ゾルゲ伝』ご一読をお勧めしたい。約一世紀前に、本書の主人公リヒャルト・ゾルゲは、東アジアと欧州、ソ連を何度も往復し、東京の情報を発信し続けた。あの時代、確かに極東の政治は、ヨーロッパの戦争とつながっていた。そして今また、極東の政治はヨーロッパの戦争とつながり、複雑に共鳴する時代を迎えている。それゆえ、ゾルゲの生き様が、かつてないほど、私たちの胸を揺さぶる。

 ゾルゲはソ連のスパイだった。同時に彼は、当時もっとも信頼できる日本通のジャーナリストとして知られており、駐日ドイツ大使の厚い信頼を受け、ドイツ大使館に執務室があった。彼は、ロシア帝国時代のバクーで、石油産業で働くドイツ人の父親とロシア人の母親から生まれた。第一次大戦開戦を迎えたゾルゲは、同時代の多くのドイツの少年たち同様、興奮に駆られて兵士として参戦し、夢と両足の骨を打ち砕かれ、多くの少年たち同…

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