<広げよう おはなしの輪>
文 中川なをみ 絵 こしだミカ
学校からバス通りを二十分ぐらい歩いて右に曲がると、そこから上り坂になっていて、つきあたりにじいちゃんの家があります。黒いかわら屋根の古い家です。
卓はきょうも、坂の下で深呼吸しました。
「行くぞ」
卓はゆっくりと、坂道をのぼりはじめました。
半分のぼりましたが、まだ息苦しくありません。喘息は大丈夫です。
幼稚園のころ、母さんと一緒にこの坂をあがったときのことをおぼえています。途中で何度も立ち止まったものです。息をつぐとゼイゼイいって、どんなに苦しかったかわかりません。
父さんと母さんが中国へ行ってから、ひと月がたちました。父さんの転勤に、母さんがついて行くことになったのです。
卓は小さいときから気管支が弱くて、喘息の発作をおこして入院したこともあります。ですから、外国へ行くのは心配でした。家族で何度も話し合って、卓はじいちゃんの家ですごすことになりました。
じいちゃんの家は山の中で、空気がよくて野菜も新鮮なものが食べられます。喘息がある卓が生活するのには、とてもいい場所です。
卓は、冬休みや夏休みになると、よく、じいちゃんの家にきていましたから、じいちゃんと一緒の生活にはなれていました。
でも、今度は、今までとはちがいます。父さんたちは中国にいて、会いたくなっても、すぐに会うことはできません。
卓が四年生の始業式を村の小学校でむかえてひと月がたちました。
坂をのぼりきると、じいちゃんの家があります。大きな家の中はどこもうすぐらくて、部屋がたくさんありました。じいちゃんの部屋には、死んだばあちゃんの写真が壁にかかっています。丸い顔のやさしそうな人でした。
じいちゃんはばあちゃんが死んでから、ひとりで住んでいます。
坂は、きょうも休まないでのぼれました。
庭にじいちゃんがいます。卓がここにきてから毎日、じいちゃんは庭にでて、学校から帰ってくる卓を待っていてくれました。
「どや、きょうはどないもなかったか?」
「うん。大丈夫だった」
じいちゃんは卓の喘息を心配しています。
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