法政大名誉教授・田中優子さんのコラム。江戸から見る「東京」を、ものや人、風景から語ります。
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戦争の足音・その2
2023/3/29 13:10 760文字とうとう最終回が来てしまった。2015年の4月1日から8年の間、読んでくださった皆様、ありがとうございました。 ところでその第1回の題名が「戦争の足音」だった。最後の題名を何にしようかと思った時、なんと同じ題名が頭に浮かんだ。2015年の時は、歌川広重「名所江戸百景」の御殿山に描かれた、大きくえぐ
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その時代の日本
2023/3/15 13:09 764文字「その時代」とは江戸時代のことである。江戸時代は実に個性的な時代だ。1615年の大坂夏の陣で豊臣家が滅ぶと徳川家は元号を元和とした。これを「元和偃武(えんぶ)」という。幕府が意図的に武を偃(ふ)せるという意味では、実に1868年の戊辰戦争まで253年間、対外戦争では94年の日清戦争まで279年間、
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出兵しなかった家康
2023/3/8 13:10 757文字前回書いたように、大河ドラマは戦う家康のドラマであって、学問と書籍で新しい時代を作った家康には会えないと思われる。本当は見るべき家康がもう一つあるのだが、これもきっと見られないだろう。それは、朝鮮に出兵しなかった家康である。 1591年に秀吉は諸大名に朝鮮出兵を命じる。出兵にあたって九州の唐津の海
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活字人間・家康
2023/3/1 13:00 770文字大河ドラマで家康が主人公になった。「ドラマ」とは戦争のことらしく、思った通り、このドラマは戦いのない江戸時代には入らず、最後まで戦国武将として戦う家康を描くもののようだ。 結果として残念なことに、家康のもう一つの側面は全く伝わらないだろう。それは、家康が学問を愛する、当時としてはまれな武士であった
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言葉は選ぶためにある
2023/2/15 13:04 822文字パパラッチとともに理解し難いのはツイッターでの暴言だ。頭に浮かんだことをそのまま言葉にする人が世の中にはいる。人間関係の中ではその場でひんしゅくを買っておしまいだが、ツイッターでは暴言の応酬になる。 ツイッターが出現した当初、私は期待を寄せた。日本は短詩系の国である。俳句や短歌に似たものになるので
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パパラッチ
2023/2/8 13:05 757文字ネットフリックスで、インタビューと記録映像で構成された2022年公開の「ハリー&メーガン」を見た。イギリスの黒人差別について知りたかったからだ。周知のように2人は20年3月に王室を離脱している。その理由がよくわかる作品だ。 「パパラッチ」という存在は江戸時代にはない。瓦版があったのでゴシップは売れ
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女たちの一揆・その2
2023/2/1 13:15 791文字「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」が1月11日に数人の女性で発足し、声明が編まれ2月8日の記者会見を決めた。そこから急速に男性を含む賛同者が広がり「#軍拡より生活!」のタイトルでChange.orgの署名運動に入った。署名は今も増え続けている。 声明は、今こそ必要な何もかもが棚上げされ先送りさ
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渡辺京二さんをしのぶ
2023/1/18 13:17 756文字昨年の暮れ、渡辺京二さんが亡くなった。在野の日本近代思想史研究者だ。「逝きし世の面影」では和辻哲郎文化賞を、「黒船前夜」では大佛次郎賞を、「バテレンの世紀」では読売文学賞を受賞なさった。これら江戸時代の初期から最後までを書いた著書で、私は目を開かされ、深い敬意を払ってきた。 「逝きし世の面影」に描
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共同体の中の宗教
2023/1/11 13:15 759文字江戸時代の方がはるかに、宗教は人の身近にあった。しかし宗教団体に寄進して生活が立ち行かなくなるような事件が次々と起こる、などということはなかった。なぜ現代社会では、信仰がまるでギャンブル依存症のような症状を来すのか? 一つ思い当たることがある。それは近代における共同体の崩壊である。中世の仏教はその
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外は、良寛。
2023/1/4 13:08 774文字昨年12月に田中泯さんの舞踏「外は、良寛。」を見た。改めて、宗教に身を置くとはどういうことなのか、考えさせられた。 安倍晋三元首相の銃撃事件以来、宗教に疑いの目を向けるようになった人は多いと思う。私もうんざりした。しかし古代から江戸時代までの日本人は、信仰心がない人や批判する人はいたが、仏教と縁が
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パンとサーカスの1年
2022/12/28 12:57 767文字「パンとサーカス」とは、古代ローマの権力者が穀物を無償配布しスポーツ観戦に熱狂させることで、人々を政治への無関心に誘導したことを指している。無関心は有効な統治方法なのである。 一方、江戸幕府は米の無償配布などしなかったし、芝居は庶民自らが制作して演じるものだった。結果的に人口の8割を占める農民の一
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再利用でいいの?
2022/12/21 13:04 758文字江戸時代は盛んに資源の再利用をおこなった。目的は「困りごとを解決するため」である。例えば参勤交代が始まって人口が増えると、人間や馬の排せつ物とゴミが増えた。それまで排せつ物や不要物を川に捨てていたのだが、さすがに川は汚れるし、川底は上がってきて舟の航行に支障をきたす。そこで川への投棄を禁じた。 す
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三味線の居場所・その2
2022/12/14 13:35 794文字前回、「今、三味線の居場所は一体どこにあるのだろう?」という問いで終わった。三味線はさまざまな場所を経巡りながら、どうやら現代音楽にも、その居場所を見つけた気配である。 三味線の演奏家でもある野澤徹也氏は、三味線など邦楽器の現代作品が定着したのは1965年から75年ごろだと書いている。私がよく聴く
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三味線の居場所・その1
2022/12/7 13:14 770文字1988年に「江戸の音」(河出書房新社)という本を出した。34年も前のことだ。総合誌に「淫のはたらき」という三味線論を書いたところ、編集者の目にとまって「語りおろしで本に」ということになったのだ。聞き役の一人は詩人の平出隆さん、対談は故・武満徹さんが相手をしてくださった。とてもぜいたくな体験だった
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をちこち・その2
2022/11/30 13:18 774文字前回、大津の寿長生(すない)の郷(さと)で行われた「龍門節会(せちえ)」について書いた。その続きである。この催し物は「をちこち(遠近)」「虚実」という見立ての言葉で表現され、それは「本」というものについて考える場でもあった。 参加者は会場に入ると、「あなたにとっての一冊を教えてください」と言われる
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をちこち・その1
2022/11/16 13:01 782文字和菓子の叶匠壽庵(かのうしょうじゅあん)本社のある大津の寿長生(すない)の郷(さと)で、先月催し物が行われた。近江ARS主催の「龍門節会(せちえ)」である。 「節会」とは王朝時代、季節の変わり目におこなった催し物だ。この日は二十四節気の「霜降」。歳時記では「晩秋」である。6万3000坪ある寿長生の
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宗教政策が必要
2022/11/9 13:07 767文字先月、宗教法人の解散命令を請求できる要件に、民法の不法行為は「入らない」と言っていた首相答弁が、翌日には「入りうる」と変わった。また、旧統一教会関連団体が、自民党の国会議員に教団が掲げる政策への賛同を求め、それと引き換えに選挙で推薦する、という確認書を示していたという事実も明らかになった。 今の政
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目黒のさんま方式
2022/11/2 12:58 758文字前回「家業としての政治」を書いた後、雑誌で佐高信さんと対談をした。その時、思ってもみなかったことを教えていただいた。 私は世襲政治家たちの、自分自身の思想を持っていない、本を読まない、世の中の変化を知らない、スピードに追いついていない、ものを考えない、結果的に「運命」に身を委ねていて宗教じみている
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家業としての政治
2022/10/26 13:10 781文字安倍晋三元首相の母、洋子さんが出版した本の題名が「宿命」であると知って、青木理氏の「安倍三代」に書かれていた妻昭恵さんの言葉を思い出した。「天命だということは、本人も自覚していると思います」。平安時代の歴史を見ているような気分だ。戦後の民主主義国家において、人が自らの意思と知性と努力で彫琢(ちょう
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大江戸視覚革命
2022/10/19 13:04 808文字福岡でタイモン・スクリーチ氏と対談した。彼の書いた「大江戸視覚革命」という本を1998年に高山宏氏と共訳したからである。スクリーチ氏は日本美術を専門とする英国人だ。今年、山片(やまがた)蟠桃(ばんとう)賞と福岡アジア文化賞を立て続けに受賞したのだ。 江戸文化や歴史を研究する外国人が増えている。欧米
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