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教育改革シンポジウム

毎日新聞社が主催・共催する教育関連のシンポジウムやフォーラムの模様をお届けします。

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教育改革シンポジウム

第4回高大接続教育改革シンポ パネルディスカッション 改革はスケジュール優先!?

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東京大の南風原氏 拡大
東京大の南風原氏
日本進路指導推進協議会の山口氏 拡大
日本進路指導推進協議会の山口氏
駿台の石原氏 拡大
駿台の石原氏
大学通信の安田氏 拡大
大学通信の安田氏
文科省の濱口氏 拡大
文科省の濱口氏

 2020年からの大学入試改革を含む「高大接続改革」の議論が3月末に最終報告としてまとまった。だが、不透明な部分はなお多い。駿台予備学校・大学通信・毎日新聞社共催で、現状の課題と今後の方向性をテーマにしたシンポジウムが4月23日、都内で開催された。パネルディスカッションでは、東京大学理事・副学長の南風原(はえばら)朝和(ともかず)氏▼前群馬県立高崎東高校長で日本進路指導推進協議会会長の山口和士氏▼駿台予備学校進学情報センター長の石原賢一氏▼大学通信常務取締役の安田賢治氏の4人がパネルディスカッションで熱く語り合った。コーディネーターは毎日新聞社大学センター長の中根正義。文部科学省高等教育局主任大学改革官の濱口太久未氏の基調講演とともに紹介する。

 --2020年からセンター試験に代わり、新たに「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」(以下、評価テスト)が導入されます。まずは、昨年11月に駿台予備学校と大学通信、毎日新聞社が共同で行った、入試改革に関するアンケートの結果を紹介しつつ、今後について考えていきたいと思います。

 安田 アンケートでは、高校の進路指導教諭の6割、大学の学長の8割が、改革は必要だと答えています。大学入試を変えることについては、高校・大学ともに賛成だと考えてよいでしょう。ただ評価テストには高校の先生から「センター試験のブラッシュアップで十分」との回答が多くありました。改革は必要と考えているが、具体的な新テストの内容には疑問を抱いている先生が多い印象です。

 石原 段階評価や記述式、試験の複数回実施などが唐突に出てきて、具体例が示されないまま議論されています。私たちとしても、どう変わるのか分からない部分が多いです。高校の先生も同じで、共通1次試験から40年近く続く、センター試験のブラッシュアップに落ち着いてほしいという気持ちが結果に表れています。評価テストは何を目指す試験なのかがはっきりとしません。当初案にあった、資格試験的に使うということもなくなりました。全体的に問題は難化傾向で、難関大を目指す生徒の共通テストにしたいようにも感じられます。

 --教育の現場に携わる立場からはどのように感じましたか。

 山口 高校教員として長年入試を解いてきた立場から言えば、評価テストはセンター試験のブラッシュアップが良いと思っています。時間をかけて問題が精査され、今は多くの良問がそろっているセンター試験を活用しないのはもったいないと思います。

 南風原 選択肢の中から解答を選ぶ現在の方法では、暗記・再生の能力しか測れないと考える人もいます。しかし、センター試験の英語や国語には表現力が高くないと正答できない問題も含まれています。直接には表現させなくても、推敲(すいこう)させる問題を通して適切に表現できるかを判断しているのです。また、評価テストの記述式で中心となる「条件付記述式」では、受験生の思考力や表現力を評価できるか疑問です。採点の信頼性を上げるために、解答の内容よりも、問題で指定された条件に沿った解答になっているかという形式面が重視されます。こうした問題で測れるのは、表面的な条件に関する指示に従う力であって、思考力や表現力を測ることはできないのではないでしょうか。教育的にもマイナスの影響が出ると思います。

 安田 受験生や保護者には、評価テストを敬遠する動きがあります。具体的な内容がはっきりせず、どうなっていくか見通しが立たないためでしょう。ただ、最終報告の内容は、中教審の答申に比べ現実的になっています。現在と大きく変わらない試験となることも考えられ、動向を注視しておく必要があります。

 南風原 テストで重要なのは結果としてスコアが能力の高低を反映しているかどうかです。センター試験では広範な内容を多くの項目で問うているため、能力がスコアに反映されやすく、非常に良くできています。評価テストで想定される改定をした時、テストとしての妥当性が維持できるかという観点から考えることが必要です。

 石原 高大接続システム改革会議が終わり、これからは文部科学省での検討に移ります。そのことで、いっそう情報が公表されなくなることを危惧しています。改革の方向性が変わるのであれば、はっきりとした情報発信を望みます。

 山口 センター試験は国からのメッセージであり、個別試験は大学からのメッセージです。高校教員はそうしたメッセージを、問題の解説を通して生徒に伝えてきました。社会で必要となる力が変化し、それに合わせてテストで問う内容が変わるのであれば、分かりやすい視点から現場にいち早く伝えるようにしてほしいです。

「評価テスト」実施で国公立大離れ進行!?

 --評価テストを受けるのは、今の中学2年生からです。受験生や保護者は試験内容が変わることを不安に感じています。評価テストを受けなくても大学に進学できる付属校人気が高まるなど、中学入試にも影響が出ています。他にはどのような影響が予想されますか。

 安田 評価テストの実施で私立大が人気になるという皮肉な結果になると思っています。受験生が負担を感じて私立大に逃げる動きは、センター試験で文系に基礎理科が課された時にも起こりました。評価テストは受けるが、第1志望は私立大という人が増えるでしょう。国公立大は受験者が減るので、逆にチャンスかもしれませんね。

 山口 生徒との面談では、親に苦労をかけたくない、そのために国公立大に行きたいという希望を聞くことが多いです。一方で、国公立大は難しいと考える生徒の中には、たとえ著名でない大学であっても、有力な教授がいて、丁寧な教育を行っていて、取れる資格が明確になっているならば、お金のかからない地元の私立大でいいと考える者も多いのです。そうした層の国公立大離れが進む可能性があります。

 --今年から、東大では推薦入試、京大では特色入試が始まりました。この初めての試みについて、東大の入試担当副学長としてどう感じていますか。

 南風原 教員が受験生と、大学で何をやりたいのかを直接話すことができたのが大きかったです。オールラウンドなペーパーテストでは能力を十分に発揮できないが、個別領域ですばらしい能力を持つ生徒を入学させるために始めた入試ですが、この受験生を入学させたいと強く感じる人を選抜できた手応えがありました。合格者が定員に満たなかったのは残念ですが、今年は志願者自体が少なかったです。来年度以降は、もっと積極的に推薦してもらえるようにしたいと考えています。

 安田 東大の推薦入試では、中高一貫校やSGH(スーパーグローバルハイスクール)、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)でない学校からの合格者は10人程度でした。ゆとりがあって、自分の興味に沿った深い勉強をしてきた生徒が合格しています。

 石原 推薦入試に受かる生徒は、学力の高さはもちろんありますが、16歳、17歳の高校生としては周りと違う何かを持っている生徒が多いです。先のことが読みやすく、夢が見づらい世の中の状況でも、意欲を持っている人を見つけたいというのが推薦入試の意図ではないでしょうか。テスト対策で対応できるような部分を見る入試ではないと思います。こうした入試をきっかけに、果敢にチャレンジする若者が増えることは、日本の教育全体の活性化になるでしょう。

大混乱の火種となる自己採点制度の存廃

 --今後注意しなければいけないことや、改革に期待することを教えてください。

 石原 試行テストの実施が1年遅くなり、2018年からになりました。これまでのスケジュールでは、初めて評価テストを受ける生徒が高校1年生の時のカリキュラムは、試行テストの問題を見てから修正することが可能でした。ところが、今回の変更で、高校1年生の指導を試験内容が分からない状態で行わなければいけなくなったのは新たな問題です。また、自己採点制度が残るかどうかも曖昧です。もし自己採点がなくなると、入試初年度の出願は大混乱となることが予想されるので、注意深く議論していくことが必要です。

 山口 受験生自身が、何が足りなかったのかを把握するためにも、自己採点制度は残すべきでしょう。再チャレンジする人を後押しすることは社会のためにも必要ですから、試験問題を公開して受験生に還元することを強く希望します。

 南風原 多様な受験生がいる中で、入試でどうやって正確に力を見ていくかが問題です。入試改革の議論の初めには、AO・推薦入試が学力不問になっていることに対処するために、新たに共通テストを作るという話がありました。それはなくなってしまいましたが、全ての層の受験生のことを考えた改革にしなければならないと考えています。

 安田 今求められているのは、積極的に変化に対応できる突破力のある人材ですが、保護者の影響もあり、受験は安全志向です。ただ、入試で人生が全て決まるわけではありません。親離れ、子離れのチャンスとも考えられます。入試で全ての人間性を測る必要はなく、自分の長所をアピールして入学する、地道に勉強して入学するなど、多様な選抜があっていいと思います。大きな成績を残さないまでも、部活と勉強を両立してきたような普通の高校生が、希望を持って、積極的になれる入試制度になることを期待しています。

 南風原 入試で人生が全て決まるわけではないという点には賛成です。入試は単なる通過点であり、大学の4年間で何を培うか、そして培ったものをその後の人生でどう生かすかが大切です。学生は大学での4年間の学習に、高校の先生は3年間の教育に力を入れてほしい。その接点である入試は、なるべくクリアなものにして、高校・大学での教育に悪影響がないものにしてほしいと思います。

 山口 今回の改革をマイナスのものと捉える必要はありません。今後は、どうやって力のある人を育てるかについて、それぞれの高校・大学が、今以上に強い意識を持つことが大切です。子どもたちは皆、どのように社会の役に立っていけばいいのかを考えています。まずは挑戦することが大事です。失敗しても何度でもやり直すことができます。保護者はしっかりと子離れをして、生徒の挑戦を後押ししてほしいと切に願います。

 石原 受験生・高校生が夢を持てるような改革にしてほしいと思っています。若者たちの頑張る気持ちを高め、安全志向を払拭(ふつしよく)するような改革となることを期待しています。

 山口 最後に高校の先生方へのお願いです。自分の学校を出て、互いに手を組んで、いろいろな人に意見を伝えましょう。もし自分たちで作った問題があれば、それを入試問題改革の参考にしてもらうように提言すればいいのです。我々に勇気がなければこの国の教育は変わりません。高大接続改革でまず改革すべきは、自分たちの心の中ではないでしょうか。【構成/大学通信・松平信恭】

入試改革のスケジュールはこうなる

文部科学省高等教育局主任大学改革官 濱口太久未氏

 シンポジウムの冒頭、パネルディスカッションに先立って文科省担当官による「基調講演」が行われた。その概要を紹介する。

 中央教育審議会の答申を踏まえ1年間にわたり高大接続改革について検討してきた高大接続システム改革会議において、最終報告が今年の3月末にまとまりました。

 高大接続改革の目的は、簡単にいえば、大きく変化する社会を乗り越えていくために、義務教育を踏まえた上で、自分で考え、課題に取り組む姿勢が身につくような教育を行うことです。そのために「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」からなる「学力の3要素」の育成・伸長を重視して、高校教育、大学教育、大学入学者選抜を一体的に改革することとしています。

 大学入学者選抜改革の部分では、2020年度より、現行のセンター試験に代わる共通テストとして「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」を実施します。十分な知識・技能を有しているかを評価しつつ、思考力・判断力・表現力を中心に評価するテストになります。そのため、マークシート式では、これまでのセンター試験よりも思考力・判断力・表現力を重視した作問を行います。

 数学と国語で記述式問題も導入しますが、国立大学の2次試験のような自由度の高いものではなく、一定の条件の下で、結論や結論に至るプロセスを解答する「条件付記述式」を中心に出題し、その評価結果は点数ではなく段階別表示です。新学習指導要領との関係上、24年度より前は短文での実施、それ以降は文字数を増やします。

 科目については、23年度まではできるだけ簡素化する方向で考えています。24年度以降は「数理探究(仮称)」や「情報」といった新しい学習指導要領に対応した教科・科目についても出題します。

 また、入学者選抜改革とは別に高校教育改革の取り組みの一つとして、高校段階での基礎学力の定着度合いを把握し、指導改善に生かすための「高等学校基礎学力テスト(仮称)」を実施します。17、18年度にプレテストを行い、19年度から試行実施、23年度から新学習指導要領に対応して実施という三つの段階を踏みます。当初の対象教科は国語、数学、英語です。さまざまな問題を用意し、各学校が学習状況に合わせて選択します。受検は全国一斉ではなく原則として学校単位の希望制ですが、個人での受検も可能です。学校行事などの予定を踏まえて各学校ができるときに行います。結果は学習改善に活用するのが本来の目的であり、試行期間の19~22年度は入試や就職に使うことはありません。

 なお、最終報告の段階で全てが決まっているわけではなく、今後は、文部科学省において専門家や高校・大学関係者も交えて各課題を検討して、17年度初頭に新テストの実施方針として公表し、これらの改革がより良いものとなるよう進めていきたいと思います。

*週刊「サンデー毎日」2016年6月12日号より転載

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