坂口菊恵・選『奇蹟を求めて　グルジェフの神秘宇宙論』＝P．D．ウスペンスキー著、浅井雅志・訳

　（平河出版社・2350円）

　高校生の時分、理系クラスに属していたわたしは、大学への進学のイメージが湧かずに哲学書や宗教書を読みふけっていた。盗みをしてはいけないとか、自殺をしてはいけないといったような一般的な社会規範の根拠がまったく理解できなかったため、これまで歴史を左右してきた思想の中に答えがあると期待したのである。過去の聖蹟（せいせき）に対する解釈や生き方の指南を述べたそれらの書物と比較し、『奇蹟を求めて』は魅力的で衝撃的だった。その後の放浪生活にもかかわらず手元に残していた数少ない一冊である。

　ゲオルギー・グルジェフは二十世紀前半に活躍した、ギリシア系とアルメニア系のルーツを持つ神秘思想家である。本書はロシア革命のさなかに行われた講義の記録を弟子がまとめたものであり、後のニューエイジ運動に大きな影響を与えた。グルジェフはイスラムや古代インドから継承された心身鍛錬法を欧米人に紹介した。そして、経典や曼荼羅（まんだら）を参照したのでは理解困難な近代科学以前の世界観を、平易な言葉で解説した。