顔映ると「職を失う」 集会でついたて使用 ハンセン病差別の根深さ

元患者家族の映り込みの訴えが取り上げられた集会。「市民学会の存在意義を問われる事態」と話す徳田靖之弁護士(左)=札幌市中央区で2024年5月11日午後4時45分、片野裕之撮影
元患者家族の映り込みの訴えが取り上げられた集会。「市民学会の存在意義を問われる事態」と話す徳田靖之弁護士(左)=札幌市中央区で2024年5月11日午後4時45分、片野裕之撮影

 「仕事をできなくなったらどうするの」。今春のハンセン病市民学会の年次集会は、インターネットニュースに映り込んだことで長女に責められた元患者家族の家庭の混乱が取り上げられた。この家族は「ついたて」の向こう側から憤りを語った。市民学会なのに顔を隠すという異例のメディア対応がとられたのはなぜなのか。

顔出しNGだったはずが…

 事の発端は、2023年5月に国立ハンセン病療養所がある鹿児島県で開かれたハンセン病市民学会の年次集会。「父親が元患者」という60代男性は東北地方から参加した。2日後に鹿児島の地元テレビ局のニュースがネットで配信されていることに気づいた。

 ニュースに映っていたのは自身を含む元患者家族数人の顔だった。夜になって同居する長女に深刻な表情で尋ねられた。「あの映像のおかげで、私たちが仕事をできなくなったらどうするの」。長女の上司は男性の顔を知っていた。もしも、元患者家族と知られたら、職場にいられなくなる……と長女は気持ちを吐露した。

 ハンセン病は感染力も発症力も弱い「らい菌」による慢性感染症。化学療法で完治する。一方、国は明治時代から隔離政策を進め、患者を探して収容する「無らい県運動」を展開。らい予防法が1996年に廃止されるまで政策は維持された。熊本地裁は2001年に政策を違憲として国に賠償を命じた。国は控訴せず、判決が確定。また、熊本地裁は19年、別の訴訟で、国に元患者家族への賠償も命じた。

 差別を生み出す法律と政策はなくなったが人々に染みついた「意識」は別物だ。今も差別を恐れる元患者やその家族は多い。鹿児島での取材は「会場の後方から前方を撮影し、壇上以外の参加者は原則、背面からのみ映す」「会場全体の撮影は顔が分からないよう配慮する」というルールだった。

 ところが、…

この記事は有料記事です。

残り1285文字(全文2035文字)

あわせて読みたい

この記事の筆者

アクセスランキング

現在
昨日
SNS

スポニチのアクセスランキング

現在
昨日
1カ月