特集

Listening

話題のニュースを取り上げた寄稿やインタビュー記事、社説をもとに、読者のみなさんの意見・考えをお寄せください。(2022年3月で更新を終了しました)

特集一覧

Listening

<記者の目>北海道・度重なる飲酒重大事故=日下部元美(北海道報道部)

  • コメント
  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷

危機意識、どの運転者も

 3人が亡くなった北海道小樽市の飲酒ひき逃げ事故から約1年。道内では6月、砂川市で家族4人が死亡する交通事故が起きた。二つの事故の共通項は「飲酒運転」と「自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)」の適用。危険運転致死傷罪が刑法に規定された2001年以降も飲酒運転は相次ぎ、新設された自動車運転処罰法に同罪が独立して規定されるなどして厳罰化が進んだ。しかし、繰り返される悲劇を前に、飲酒運転の抑止力として厳罰化だけに頼ってはいけないと感じている。

 砂川の事故では、26歳と27歳の男2人が危険運転致死傷罪で逮捕・起訴された。2人は6月6日午後、砂川市の国道12号でそれぞれ車を運転し、100キロ以上のスピードを出して交差点の信号を無視。1台が左から来た歌志内市の会社員、永桶(ながおけ)弘一さん(44)の軽ワゴン車と衝突し、永桶さんら一家5人を死傷させたとされる。

厳罰化の効果は下げ止まり続く

 2人は事故前、市内で酒を飲んでいたとされ、テレビではこの飲食店の外観も放送された。私が訪れた時、電話をしていた男性店主は受話器を置くと、「『人殺し』と言われました」と肩を落とし、2人の飲酒については何も語らなかった。こうした“世論”の反映か、インターネット上では2人を「鬼畜」などとののしる声があふれた。

 重大な結果を考えれば、決して2人を擁護する気持ちにはなれないが、周辺を取材すると、妻帯者の被告は子煩悩な一面もあり、独身の被告は欠勤せず、解体作業の仕事に励んでいたことも分かった。知人男性は「そこら辺の若者より真面目に働き、友だち思いだった」と証言。もう落ち着くべき年齢だが、北海道弁で言えば、いまだに「おだっている」(調子に乗っている)青年だったのだろう。

 小樽事件も同じだ。危険運転致死傷罪と道交法違反(ひき逃げ)に問われた元飲食店従業員の被告(32)は9日、札幌地裁判決で懲役22年を言い渡された。被告の恋人の証言によれば、「(被告は)明るく家族思い。運転が荒いという印象を受けたこともなかった」という。判決によると、被告は酒を飲んで車を運転し、女性4人をはねて逃走した。このうち3人が死亡した重大事故と証言のギャップに私は戸惑い、なぜ軽率な飲酒運転をしたのか最後まで疑問が消えなかった。

 飲酒運転を巡っては、女児2人が亡くなった東京都世田谷区の東名高速での飲酒事故(1999年11月)をきっかけに厳罰化が進み、危険運転致死傷罪が新設された。その後、同罪は自動車運転処罰法に移行され、適用対象も広がった。最高刑は懲役20年だ。新設前の最高刑(同5年)から大幅に厳しくなった。また、道交法の酒酔いや酒気帯び運転は最高刑や罰金額が引き上げられ、同乗者の罰則も設けられた。これらの結果、99年は1257件だった飲酒運転の死亡事故が大幅に減少し、07年は平成に入って初めて500件を割る433件となった。ただ、08年以降は220〜300件で推移し、下げ止まりしている。

誰もがなり得る加害者と被害者

 北海道は14年、飲酒死亡事故が全国最多の17件だった。なぜ飲酒運転はなくならないのか。捜査関係者からは「土地が広く、飲食店と自宅が離れている。公共交通の少ない地域も多く、自家用車への依存度の高さが影響している可能性もある」との指摘がある。

 実際、砂川の周辺取材では「飲酒運転をしている人はたくさんいる」という声があった。「交通事故調書の開示を求める会」副代表で、長女を交通事故で亡くした白倉裕美子さん(45)=北海道南幌町=は講演などで「危険運転や飲酒運転への知識がない大人が多い。子どもの時から飲酒運転の危険性を学ぶべきだ。想像力を持って、飲酒運転がもたらす結果を考えてほしい」と訴え、誰もが飲酒事故の被害者にも加害者にもなり得ることを考えるよう求める。

 この点で、「飲酒・ひき逃げ事犯に厳罰を求める遺族・関係者全国連絡協議会」共同代表の高石洋子さん(53)=北海道江別市=も「北海道に限らず、実際は全国各地で事故が起きている。身近で大きな事故が起きないと、危機意識を持てない『無関心』に問題がある」と分析する。

 時として人は気が緩み、飲酒事故が引き起こす重大な結果を忘れてしまう。加害者を一方的に「鬼畜」と批判する行為も、ある意味では「自分や周囲は大丈夫」という油断の表れかもしれない。どうすれば、自分にも起き得る問題として想像力を失わずにいられるか、私自身もまだ明確な答えは出ていない。だが、厳罰化の効果が頭打ちとなり、次の一手が必要であることは間違いない。

コメント

※ 投稿は利用規約に同意したものとみなします。

あわせて読みたい

この記事の特集・連載

アクセスランキング

現在
昨日
SNS

スポニチのアクセスランキング

現在
昨日
1カ月