コロナショックで景気悪化が深刻になる中、政府は緊急経済対策の取りまとめに入った。新年度の補正予算案を来週にも編成し、4月末までの成立を目指すという。
安倍晋三首相は先週末、リーマン・ショック時の56兆円を超す過去最大の規模にする方針を示した。景気の下支えに全力を注ぐ姿勢をアピールしたいのだろう。
だが重要なのは、規模を誇示するよりも、日々のやりくりに困っている人の支援を急ぐことだ。
特に懸念されているのは、体力の弱い中小企業とそこで働く人たちへの悪影響だ。自治体の外出自粛要請で打撃を受けている飲食や小売り、観光などは、中小企業が多い。倒産や失業の増加、給与の大幅な減少が心配されている。
首相は対策の柱として現金給付を表明した。収入が減り生活が困窮した世帯を対象にする意向だ。
ただ収入で線引きすると対象の絞り込みに時間がかかる。手元に届くのが遅くなればセーフティーネットの役割を果たせない。
まず全国民一律に配る方が迅速だ。富裕層も含まれるが、納税段階で税を多く徴収し公平を図る案も検討していいのではないか。
首相は中小企業向け給付金の創設も表明した。従来の実質無利子融資では借金が膨らむだけとの批判が出ていた。雇用を守るため、もっと早く打ち出すべきだった。
本来は、先週成立した新年度当初予算を成立前に組み替え、十分な生活支援を行う必要があった。組み替えに応じない硬直的姿勢が遅れを招いたのは明らかだ。対策取りまとめをもっと急ぐべきだ。
消費喚起を優先するような動きも目につく。典型は自民党内で浮上した国産牛を安く買える商品券「お肉券」などの案だ。コロナに便乗した特定業界への露骨な利益誘導にほかならない。
「経済のV字回復」を強調している首相も大規模な消費喚起策を盛り込む考えを示した。だが生活や雇用という経済の基盤を維持しなければ景気回復も実現しない。
最大規模の対策とするため、政府は赤字国債の発行を増やす方針だ。既に1000兆円超の借金を抱えているのに、安易に国債に頼れば将来世代へのつけ回しが膨らむばかりだ。緊急性の乏しい事業を見直し、財源に充てるべきだ。