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小説「無月の譜」

将棋の駒をめぐる探求の物語。失われた名品の駒を求め、ある挫折感を抱えた男が旅に出ます。作・松浦寿輝さん、画・井筒啓之さん。

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小説「無月の譜」

/316 松浦寿輝 画・井筒啓之

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 ――美しい字が彫られた美しい木のオブジェに直接触れて、それを交互に動かして、目の前の相手と対話する。私は子供たちがそういうことができる場所をここに作りたいと思ったんです。

 ――ここは本当に、そういう素敵(すてき)な場所だと思います、と竜介は言った。今日ぼくはつくづくそう感じました。

 ――以前、夫が貿易の仕事をしていましてね、と、遠くを見るような目をしてチャンさんがゆっくりと語り出した。私たち一家は、横浜にかなり長いこと暮らしていたんです。将棋を最初に覚えたのは私たちの一人息子でね。体が弱くて、運動が苦手だったんだけど、将棋が好きになって、クラブに通って、そこで友だちもできたし……。彼が、私と夫にも将棋の魅力を教えてくれたんです。

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