ヨーロッパ連合(EU)から抜ける(離脱)か残る(残留)かを決めるイギリスの国民投票が23日あり、EUから抜けることが決まりました。イギリス国民の判断に、世界中に波紋が広がっています。【文・出水奈美】
ポイント
<1>国内二分、キャメロン首相は辞任へ
<2>戦争防ぐため生まれたEU
<3>世界経済を不安定に陥れた
<4>国外への連鎖や国内での分裂の危機
「離脱」と「残留」 わずかな差
投票結果をおさらいしましょう。イギリスの選挙管理委員会によると、「離脱」が1741万742票(51.9%)、「残留」が1614万1241票(48.1%)。まさに国内を二分する議論でした。国民の関心は高く、投票率は72.2%でした。今回の国民投票は、キャメロン首相が昨年5月の国会議員の選挙で、EUへの残留に疑問を持つ人からも支持してもらおうと実施を約束したものです。おかげで選挙には勝ったものの、「残留」を訴えてきたキャメロン首相は、今回の結果を受けて辞任を発表しました。
世界経済の2割占めるEU
ではEUとは何でしょう。同じルールのもとで活動するヨーロッパの国のグループです。EUに加盟すると、ヒト、モノ、カネは国境を越えて自由に移動できます。面倒な手続きがなくなるので交流が活発になり、経済の規模も世界の2割を占めるまでになりました。元々は第二次世界大戦後の1952年、ヨーロッパで戦争を繰り返してきた反省から、資源の奪い合いをなくそうとフランスや西ドイツ(現ドイツ)など6か国が作ったグループでした。加盟国を増やしながら67年にヨーロッパ共同体(EC)、93年にEUとなり、現在は28か国、約5億人に拡大しました。
移民問題で膨らんだ不満
しかし近年、EUに対する不満が膨らんでいます。ヒトの移動が自由なため、大量の移民がヨーロッパに来て仕事が奪われると感じる人が増えているからです。EUの規制に縛られて、自分たちの国で自由に物事が決められないと感じている人もいます。ただ、イギリスは加盟国中ドイツに次ぐ経済規模で、イギリスが抜けるとイギリス自身も加盟国との貿易が今ほど自由にできなくなるため、経済的な影響を世界が心配しています。世界中で株の値段や通貨の価値が急に上がったり下がったりするのもそのせいです。今後しばらくは不安定な動きが続くとみられています。
スコットランドなどに独立の動き
EU離脱は、イギリスが加盟各国に離脱を知らせてから2年かけて条件を整えます。しかしEUで加盟国が抜けるのはイギリスが初めて。手続きがどう進むかも手探りです。EUに対する不満はイギリス以外の国でも広まっているので、他の加盟国にも離脱か残留かを国民投票で決めようとする国が出てくるかもしれません。イギリス国内でも、今回の投票で残留派の方が多かったスコットランドや北アイルランドで、イギリスから独立すべきだという動きが加速しています。イギリスがバラバラになる可能性も出ているのです。