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段ちゃんの「知っておきたい!中国のコト」

タレントの段文凝(だん・ぶんぎょう)さんが生まれ育った中国と大好きな日本について綴ります。

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段ちゃんの「知っておきたい!中国のコト」

第2回 中国人の“食”に対するこだわりとは=段文凝

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 中国には“民以食为天(ミンイーシーウェイティエン)”ということわざがあります。日本語に訳すと「人にとって食べることは最も大切だ」という意味になります。私を含めた、中国人の「食いしん坊」なイメージを象徴する言葉に聞こえるかもしれませんが、私は、このことわざにはもっと深いニュアンスがあると思います。中国人のイメージする“食事”は、家族や友人たちと一緒に同じ食卓を囲む“だんらん”や“会食”が基本です。一緒に食事をするのは相手に心を開き、もっと絆を深めたいからなのです。「人にとって、食事を通じて絆を深め合うことが一番大切だ」というのが、このことわざの本当の意味だと私は考えています。ですから、私は人から食事に招待されるのも、人を食事に招待するのも、どちらも大好きです。

 …ですが、ちょっとした悩みもあります。先日、友人を食事に誘った時のことです。「どんな料理が食べたいですか?」と私が聞くと、友人は「おいしい中華料理のお店に連れて行ってください」と答えました。こうしたやり取りは、過去にも何度かあったのですが、毎回困ってしまいます。

 なぜなら、中国はとても広いので、一口に“中華料理”といっても、“北京料理”や“上海料理”、“広東料理”に“四川料理”と、地域によってさまざまな料理があり、材料も作り方も味も千差万別です。例えば私は辛くてしびれる味付けが特徴の“四川料理”が大好きなのですが、これをおすすめの“中華料理”です、と紹介してしまうと「中華料理ってこんなに辛いの!?」と誤解されてしまう恐れがあります。ですから、こういう時私は、あらかじめ「どんな味付けの料理が好きですか?」と相手の好みを聞き「それなら〇〇料理のお店を紹介しますね!」と答えるようにしています。

段文凝的天津名物料理!

 私のふるさと天津にも、おいしい名物料理がたくさんあります。例えば、日本でも有名な“天津飯”もその一つ!…と言いたいところですが、実はこれ、日本で生まれた中華料理です。本当の天津の名物料理は、と聞かれて、地元の人が口をそろえるのは“煎饼果子(ジェンビングゥオズ)”でしょう。日本ではあまりなじみのない料理ですが、見た目はクレープにそっくりです。作り方は、まず緑豆などの粉を水でのばし、鉄板の上で薄く焼き上げます。すると、クレープの生地のようになります。その上に、甘辛いみそダレや卵、ネギ、揚げパンなどを乗せ、最後にヘラを使ってこれらの具材をクレープ生地に包み込みます。天津では出勤前の朝ご飯や、小腹が減った時の軽食としてよく食べられています。天津以外でも北京や上海などの屋台で売られていますが、やっぱり“天津”の“煎饼果子”が一番おいしいと中国国内でも定評があります。私も、天津の“煎饼果子”が一番おいしいと思います。

 次に有名なのは“狗不理包子(ゴゥブリ)バオズ)”。日本でいう肉まんですが、大きさは小ぶりで大人の握りこぶしを一回り小さくしたくらいです。具材は、豚肉や野菜、海鮮、カニ味噌などさまざまな種類があります。どれも味わい深くて、一度食べたら病みつきになります。それにしても“狗不理”というこの名前。とっても変わっていますよね。日本語に訳すと“犬も相手にしない”。…ますます謎が深まるばかりです。

名前の由来については諸説あるのですが、そのうちの一つをご紹介します。この肉まんを初めて創り出したのは高(ガオ)さんという男性でしたが、お父さんが高齢になってから授かった子だったので、犬のように育てやすい子になるように、という意味で“狗子(ゴゥズ)”という幼名を付けられました。この狗子が作った肉まんは、とてもおいしいと評判になりました。あまりに評判になりすぎて、作るそばから飛ぶように売れたので、お店を営業している間、狗子は必死に肉まんを作り続けました。お客さんが話しかけても、家族や友達が話しかけても全く相手にしませんでした。この様子を見ていた人が“狗子(=狗)は話しかけても誰も相手にしない(=不理)”つまり“狗(ゴゥ)不理(ブリ)”だとうわさし、いつしかこれが商品の名前になっていったといいます。

天津名物の狗不理包子(ゴゥブリバオズ)です。お店によって具材が違ったりするので、天津に行ったときはぜひいろいろなお店に行って食べてみてくださいね。
天津名物の狗不理包子(ゴゥブリバオズ)です。お店によって具材が違ったりするので、天津に行ったときはぜひいろいろなお店に行って食べてみてくださいね。

食文化は地域や国が違えば大きく異なる

 さてこの“煎饼果子”や“狗不理包子”に共通しているのは、豆や小麦をひいた“粉”が原料だということです。ほかにも“饺子(ジャオズ)=ギョウザ=”や“馒头(マントウ)”などが粉から作られています。こうした“粉”を主原料とした料理は中国の北部の料理に多いとされています。天津も北京などと同じく中国の北部に属しています。一方、中国の南部、例えば上海や広州などは、ご飯の文化と言われています。“扬州炒饭(ヤンジョウチャオファン)=揚州チャーハン=”“肉粽(ロウゾン)=肉ちまき=”などがそうです。このように、中国の食文化は北と南とで大きく異なるのです。

 中国国内の食文化の違いに触れたついでに、私が驚いた日本の食文化についても一言触れたいと思います。私が日本に来て間もない頃、日本のラーメン屋さんで実際に体験したことなのですが、ある寒い日、体を温めたくてラーメンを1杯頼んだら、氷が入った水が一緒に出てきました。中国ではまずありえないことです。「なぜ、こんなに体が冷えているのに、さらに体を冷やすような氷水を出されたのだろう」と、ショックを受けました。中国では、漢方の考え方が根付いているので、冷たい食べ物を食べることは、体を冷やしすぎて基本的に良くないこと、とされています。今は私も日本での通常のサービスだとわかっているのですが、日本に来たばかりの留学生や旅行者は私のようにショックを受けてしまうかもしれません。

一緒に食べて仲良くなろう!

 ここまで中国人の食へのこだわりと、そこに込められた思い、そして中国や日本の食文化の違いについて、私の考えをご紹介してきました。余談ですが、私の地元・天津の“煎饼果子”は、上野のアメ横で食べることができます。定番の横浜中華街に行かなくても、今では日本各地で本格的な中国各地の料理を食べることができるのです。

 もし少しでも興味を持っていただけたなら、せっかくなので誰かを誘って出かけてみてください。 “民以食为天”の精神で、あなたの職場にいる中国人の同僚や、学校にいる中国人の同級生に声をかけてもらえたら、もっとうれしいです。日ごろ彼らとあまり接点がなくても、一緒に食べることが大事。そうすればお互いの距離もぐっと近づくはずです。さて、私もこれから食事会に行ってきます。あの友達と、もっと仲良くなれるといいなあ!

上野のアメ横にある西湖春上海小龍包 で煎饼果子を食べてきました!故郷のソウルフードを日本で食べられるなんて幸せです!
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